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夜を生きる  作者: 八折伏木
夜警団入団編
3/14

見つけた理由

実は一回保存ミスって書き直してます()

登場人物

ユウ・・・幽夜ユウヤ

ラブカ・・・透鮫トオサメ 愛渦マナカ

レイン・・・霊場レイバ 照陰テイン

先生・・・豊巣トヨス メイ

ミツカ・・・三日香(亜人族の女性)

ホノカ・・・灰香(亜人族の子供)

スシ・・・寿コトブキ ツカサ


 ミツカさん達と出会ってから数日後、僕達は今後の進路についてポラリスの先輩である彼女に相談する事になった。ついでにこの前のお礼をさせてくれ、との事で今日はミツカさんの知り合いが経営しているレストランに向かっている。ミツカさん曰く、ここらじゃ一番美味いレストランだと太鼓判を押していたのでそちらも楽しみだ。

「さてと、もう5分も歩けば店に着くよ。約束通りアタシの奢りだ、遠慮無く食いなよ!」

「ありがとうございます。なんかすみません、進路相談もしてもらうというのに……」

「まだ学生の歳だろうに、気にしなくていいのさそんな事。それにほら、あの子くらい喜んでくれた方がこっちもご馳走しがいがあるってもんだ」

 ミツカさんはラブカの方を指差して微笑んでいる。確かにラブカはご機嫌だった。

「スペシャルなご飯だー!やったーー!」

 数分前からわくわくが抑えきれなくなったのか、あの調子だった。まぁでも……気持ちは分かるかな。ポラリスにはもちろん感謝しているし文句を言うつもりは無いが、食事に関しては変わり映えしないもので飽きが来なかったといえば嘘になる。外食することは稀だし。

「そういえば、お店を経営している知り合いの方も亜人族だったりするんですか?」

「ああ、そうだよ。数少ない、亜人族経営のレストランさ」

 それに、とミツカさんが付け足す。

「ソイツは発現者でね。きっちり許可証の手続きをして正当に“力”を使い店を回してる。そこらへんアタシよりしっかりしてるからさ、アドバイザーとしてもいいんじゃないかと思ってね」

 そんな事まで気を回してくれていたとは……頭が上がらない。こちらこそいつかこの恩は返さないといけない。少し考え事をしているといい匂いがしてきた。どうやらお店に着いたようだった。

「まぁあとは食うもん食ってから話そうじゃないか」

 ミツカさんに促され、一旦考えるのを止めてレストランに入った。


 店内に入ると食欲を誘う香りが充満していた。店内を見回していると僕達が入ってきたことに気付いて厨房から1人、顔を出した。

「やぁやぁ、ミツカと後輩さん達。僕は寿司コトブキツカサ。そしてここは『レストランコトブキ』、僕が経営してるレストランだよ」

 ミツカさんから彼も亜人族だと聞いていたが、今の所普通の僕達と変わらない人間に見える。

「初めまして、僕は幽夜です」

「透鮫愛渦です、ラブカって呼んでください!」

「霊場照陰です、よろしく」

 それぞれの自己紹介をして、握手しようとユウが手を差し出した。その時恐らく調理用であろう手袋をしていた司さんがそれを外して握手してくれようとしたことで彼の亜人族としての特徴が垣間見えた。司さんの手には水かきの様な薄い膜があった。

「司さんは……お魚さんの亜人なんですか?」

「おっと、ミツカに聞いてた訳じゃないんだね。でもちょっと違うかな」

 ちょっと違う。何だろうか。

「僕は半分妖怪の血が入ってるのさ。河童カッパって聞いたことあるかな」

「えっ、妖怪……?妖怪って本当にいるもんだったんですか……?」

 司さんはあははと笑っている。殆どの人は初めて会った時に自己紹介すると同じような反応をするらしい。

「初めて会った人には本来あんまり言わないんだけどね。今回はミツカの紹介だし、事前に言われてるかと思ってたよ」

「亜人族の方とは聞いていましたが……まさか妖怪とは。というかそんなの聞いた事もなかったので」

「そうだろうねぇ、とても珍しいと聞くし。実際僕も自分以外の幻妖の亜人は1人しか知らないんだ」

 やはりあまり見ない種族らしい。そもそも妖怪なんてものが現実に存在した事が驚きだった。

「アンタ達妖怪って単語に随分驚いているようだが……亜人族って存在自体そもそもがイレギュラーなんだよ」

「あ……言われてみればそうでした」

「まぁとはいっても僕の場合河童の血は薄いし、ほぼ人間かな。見た目もそうだからいつもはタチウオの亜人って事にしてるんだ」

「分かりました、自分達もそういう事で認識しておきます」

「うん、助かるよ」

 とりあえず一通り話が済んだところでミツカさんが保冷庫から飲み物を取って席につき、ホノカちゃんを膝の上に乗せた。

「ほら、アンタ達もそこの保冷庫から飲みもん選んで座んな。スシ、早速で悪いけど若い子達がお腹空かせてるんだ。たくさん作ってやってくれ」

「すし?」

「ああ、司の呼び名だよ。アンタ達もユウとかラブカで呼び合ってるだろ」

「あぁ、なるほど」

「ちなみにスシっていうのは昔この土地では有名な国民食だったものらしいよ。生魚を使った料理だったらしいんだけど、今は生で食べられるような魚介はこの国の近海では獲れないからね」

 そういえばそういう話を聞いた事がある。以前ここが「日本」という名前だった時の話だけど、新鮮な海鮮を使った料理は世界的に有名だったと。今は司さんが言った通り魚を生で食べるなんて無理な話だし、この場所の名前も「燈郷トウキョウ」という名前に変わっている。

「いつかそういう今は失われてしまった料理を再現したい、というのは僕の目標の一つかな。その為にはこの土地の海を綺麗な海へ戻していかないといけないけどね」

「素敵だと思います、とても。僕も見てみたいです、綺麗な海」

 そういう夢や目標のようなものが僕にはまだ無かった。だから司さんはすごいと思ったし、羨ましくもあった。

「よし、それじゃいっぱい作ってくるからね。もう少し待っててね」

 司さんが厨房へ戻っていったので、僕達も飲み物を選んでミツカさんが先に座っていたテーブルについた。そういえば気になったけど僕達以外にお客さんがいない。この夕飯時にレストランに1人もお客さんがいないなんてことあるんだろうか。僕が周りをキョロキョロ見回していたからかミツカさんが疑問を解消してくれた。

「今日はアタシ達の貸切にしてもらったんだ。周りに人がいちゃお互い話しづらいだろう?これなら気にせずアンタ達の進路相談にも付き合えるってもんだ」

「そういえば……本当に何から何までありがとうございます」

「気ぃ使わなくていいのさ。気遣いは歳上の仕事だ」

 ミツカさんの笑顔が眩しい……。こんな大人になりたいな。そんなことを思っているとミツカさんが飲み物をぐいっと一口飲んでからまず先日の件について聞きたい事がある、と話し始める。

「あの時実はレインがあの大男の前に立った辺りから木陰で見てたんだが、思った事があってね。アンタ達、今回みたいな事が初めてじゃないだろう。……いや、違うね。むしろ常習犯ってとこかい?」

「あ、えーと……まぁもう隠してもしょうがない事ですしね」

 言われた通り、今回のように何かしらの事件に首を突っ込むのは初めてじゃない。実は結構な数、こういうおせっかい焼きをしている。もしかしたら余計なお世話だった時もあったのかもしれないが。

「でも……あの一回見ただけでどうしてそう思ったんです?」

「そりゃあ見てれば分かる事はいくつもあったが……一番はアンタ達の連携の練度だな。今回ただ思いつきでやりましたって動きじゃ無かった。それぞれが力を使い慣れてるってのもあったね。どんだけの場数を踏んだのかは知らないが、少なくとも物見遊山で首を突っ込んでるワケじゃない事は分かる」

 一度見ただけで分かるものなのか……見る人が見ればそう感じるほど僕達の動きが良かったんだとポジティブに捉えることもできるけど、その時点でミツカさんが通報という択を選んでいたら一発アウトだった。

「正直言うと最初は心配になってね。あの子達は何してんだって。危ないと判断したら飛び出るつもりで様子を見てたんだが……あっという間にこの子を助け出してくれた。それも安全にね」

 膝の上に乗っているホノカちゃんをミツカさんがぽんぽん撫でると、ホノカちゃんは「わふ、わふ」と声と耳と尻尾で喜びを表現している。

「見る人によっては分かってしまうものなんですね……でも、なんで最後まで様子を見てたんです?僕達が子供とはいえ、ホノカちゃんを横取りしに来た別の賊の手先とかだったかもしれないのに」

「それはホノカのおかげで判断がついた」

「ホノカちゃんのおかげ?」

 ホノカちゃんの方を見ると本人はご飯が待ちきれないのか体を左右に揺らしている。

「薄々気付いてるかもしれないがこの子は人間不信気味でね、知らない人が近付くと牙向いて威嚇したり引っかこうとするような状態なんだ。だからアンタ達が何かしらの賊の一味ならホノカは暴れてたはずさ。だがこの子はラブカに抱っこされたまま大人しくしてた。それが私が何もせず傍観してた理由だ」

 ホノカちゃんがここに辿り着くまでに一言も発してくれなかったのはそういう事情だったのか……。

「そうだったんですね……ってラブカ?震えてるけどどうしたの??」

「いやぁその……突然抱っこしてごめんねぇ、びっくりしたよねぇ〜……」

 あ。そうか……さっきの話からするとあの時ラブカが噛みつかれたり引っかかれたりしていてもおかしくなかったんだ。ラブカがホノカちゃんの方を見ると目が合った。ホノカちゃんはしばらくラブカをじーーっと見つめた後、ラブカを指さしてミツカさんに「ん、ん」と何か訴えている。ミツカさんは何かを察して「行っといで」と背中をぽんと叩いた。するとホノカちゃんは突然立ち上がりテーブルを経由してラブカに飛びかかった。

「ぎゃー!噛まないで……ってあれ?」

 ホノカちゃんはラブカに噛みつくでも引っかくでもなくただ抱きついていた。

「あいあと」

 ラブカがポカンとしているとホノカちゃんが小さな声で何か呟いたように聞こえた。

「ありがとう、って言ってんのさ。その子はアンタ達が助けてくれたんだってちゃんと分かってる」

 とりあえずラブカが噛み付かれたんじゃなくて良かった……。ちなみに当のラブカは既に顔が緩みきっている。

「えぇ〜……かわいすぎるんだけどぉ……」

 だいぶデレデレだ。ホノカちゃんをわしゃわしゃと撫でくりまわしている。耳がぴこぴこ反応しているのが見えるので多分喜んでる……のかな?思っていたより懐いてくれていたみたいだ。

「おまたせ〜……おっ、ホノカちゃんにお友達ができたみたいだね」

 先日の事についての話がちょうどひと段落した辺りで司さんが料理を両手に持ってきてくれた。肉料理にスープやサラダなど、様々なものが運ばれてくる。ラブカとホノカちゃんは2人仲良くよだれを垂らしそうになっている……こうして見ているとまるで姉妹みたいだった。料理が一通り揃った所でミツカさんの号令で皆一斉に食べ始めた。ミツカさんは自分が食べるよりもラブカとホノカちゃんが仲良くご飯を食べているのを嬉しそうに眺めている。人間不信気味だというホノカちゃんが心を許せる人が出来た事が嬉しいんだろうな。そして食事の時間はすぐに終わってしまった。


 僕達の食事が終わったのを見計らってミツカさんが次の話題……というより今日の本題に入る。

「さて、腹も膨らんだ所で今日の本題といこうじゃないか。進路相談したいって話だったけど、実はアタシから一つ提案があるんだ」

「提案ですか?」

 いきなりだったのでちょっと驚いた。提案……僕らに向いている仕事を紹介してくれる、とかだろうか。

「ああ。この前渡した名刺にも書いてあったと思うが、アタシは人事部だからね。ポラリス社内の仕事は色々知ってるんだが、その中にアンタ達にお似合いなんじゃないかと思う仕事があってね」

「なるほど……ミツカさんの人事部のつてというか、紹介を入れてくださるという事ですか?」

「そんなとこさ。興味があるなら話すが」

 ラブカとレインをちらりと見る。2人ともうなずいたのでミツカさんに話の続きをお願いする。

「実はポラリスには発現者のみを集めた特殊な課があるんだ。肩書きは発現者に関わる研究をしてるチームって事になってるんだが、その傍でそれぞれの“力”を活かして何でも屋みたいなことをやってるのさ」

 何でも屋……というのを聞いてミツカさんの言いたいことが分かった気がする。僕達が今までやってきたおせっかいの経験が活かせるんじゃないかと言いたいんだろう。確かに面白そうかも……。

「アンタ達が興味あるならアタシが推薦しといてやるよ、どうする?」

 それを聞いたレインが急に立ち上がった。

「わっ、どうしたの?レイン」

「まさかこんな所で……」

「えっ?」

「ああ……ごめん。実を言うと僕がポラリスで働く事に決めていたのはその課の事を知ってたからなんだ」

「そうだったんだ……前はなんでポラリスで働く事に決めたのか聞いても答えてくれなかったけど、なんでこの事を言いたくなかったの?」

「ごめん、僕からこの事を言ったら君達の進路を限定するというか……狭めてしまうような気がしてて」

「も〜レインは心配性だよねぇ、そんなコト気にしなくたってあたし達はちゃんと自分達でかんがえて決めるってば〜」

 ラブカが思ってた事を言ってくれたけど、ラブカは僕達の進路を聞いて決めようとしてたと思うんだけど……。まぁ、言うとふくれちゃいそうだからやめとこう。

「ラブカは特に影響受けやすいと思ったんだけど」

「ちょっと、それどういうイミ〜」

 言っちゃった。レインらしいけど……。とにかくとても面白そうな提案だし、レインも元々そのつもりだったなら話は早い。ラブカの方を見て意思を確認したが笑って頷いている。決まりだ。

「お願いします」

「よしきた!それならアンタ達の先生にも話を通しておかないとね。アンタ達の担任は誰だい?」

「あ、僕達の先生は……」

「はーい、私が担任だよ〜」

 ガチャリと音がして貸切のはずの店内に入ってきたのは豊巣明トヨスメイ先生……僕らの担任だった。

「それで、私に何の話を通すのかな?みーちゃん」

「なんだい、メイだったのか……ってちょっと待っとくれ。あまりにタイミングが良過ぎるね」

 頭を抱えていたミツカさんが厨房の方を見る。

「スシ、あんたも一枚噛んでるんだろう?」

「あちゃ〜バレるの早いねぇ、ごめんねミツカ。それに後輩さん達も。実はメイに頼まれてたんだ」

 状況が飲み込めずにポカンとしている僕達にミツカさんが説明してくれた。

「アタシ達3人は前から知り合いなのさ。といっても今回はアタシが仲間外れだったみたいだが」

「んふふ〜、みーちゃんの反応も見たかったからね」

 どうやらミツカさんには知らされておらず、司さんと先生がコンタクトを取っていたらしい。というか、待てよ。ということは……。

「もしかして、先生……」

「うん、気付いてたよ。ずっと前からあなた達の事」

 腰が抜けそうだった。バレてないとばかり思っていたが、なんならたまに僕達の後をつけて様子を見ていたこともあったらしい。全く気づかなかった。

「だからみーちゃんにあなた達の事をこっそり推薦してたりしたんだよ。将来有望な子達がいるよ〜って!」

「ちょっと待て、ありゃこの子達の事だったのかい……。先に言っといてくれりゃいいものを、相変わらずイタズラ好きだねメイは……」

「まぁね〜。でも今回こうしたかったのはみーちゃんにイタズラしたかっただけじゃないよ。この子達がどういう選択をするのか見たかったのもあるの」

 先生は何故かラブカの方に近づいていく。

「私嬉しかったんだよ」

 先生がラブカの頭に手を乗せる。

「ねぇ、()()ちゃん」

「……えっ?いま……」

 ラブちゃん、と呼んだ。いつもはまなちゃんなのに……。

「ほのちゃんを立派に守ってくれてありがとう。すごく嬉しかったからまなちゃんじゃなくてラブちゃんにしたげる。でもラブカ、って呼ぶのはまだね。約束は約束だから。そっちはこれから頑張ろうね」

「……うん、先生」

 ラブカは泣いているようだった。よほど嬉しかったんだろう。と、急に先生がこちらを向いてきた。

「生徒には平等にしないとね!」

 そう言いながら今度は僕とレインの頭を撫でている。レインは少し嫌そうな顔をしていた。ラブカの方はホノカちゃんが涙をぺろぺろと舐め取りながら慰めてくれていた。うう゛〜ありがとぉ〜……と言いながらラブカはホノカちゃんを撫でたり泣いたり……感情が忙しそうだ。

「よぉ〜し、じゃああなた達の意思も聞けたし!これから期間修了までの間は”夜警団“とその活動についての授業にしよう!」

「”夜警団“?」

「あなた達を推薦する特設課の俗称だよ。明日の授業を楽しみにしててね」

 こうして、僕達の進路はポラリスに残って働く事に決まった。明日からは今までとはちょっと違う日常になりそうだ。

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