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夜を生きる  作者: 八折伏木
**騒動編
15/15

閉幕

こんにちは、八折伏木です。

前回投稿時何か言ってたような気がしますがまたもや3ヶ月程の感覚が空いてしまいました……

理由は前回とほぼ同じですが、今回はなんとゼン◯ロにも手を出してしまいました。すみません。と言ってもこの作品を待っているような人が1人でもこの世に存在するのか分かりませんが……。

今後こそは1話あたりの文字数もうちょっと減らして間隔狭められるようにしたいですが……もう気づいたら文字数が増えているので圧縮するのは無理なのかもしれません。

まぁここでうだうだ書き連ねていてもしょうがないので、ここらへんで本編の方へどうぞ。

登場人物


夜警団団員・・・幽夜ユウヤ

        透鮫トオサメ 愛渦マナカ

        霊場レイバ 照陰テイン

        成田ナリタ 乙何オトナ

亜達区の探偵・・・明日田アスタ 利久リスク

「天使の詩」楽団員・・・天音アマネ 作詞ツクシ

            天音アマネ 心音シオン

異霊研究所の研究員


「この目で見ているというのにまだ信じられません……あの怪物が私達の母親だとはとても」

 作詞がシアター内に突然飛び込んできた異霊を眺めながら呟いた。

「わ、わたしも……姿が見えた時はびっくりした……けど、あの人はお母さんだよ。それは間違いない、よ……」

 アレが母だと分かっていてもどうしてもあの怪物と母親とを結びつけたくない気持ちもあってか、心音は若干顔を伏せた状態で作詞に言葉を返す。

「……そう、なのね……あまり認めたくはないけれど……」

「ごめんね、2人ともショックだろうけど……でも、それでもお母さんの最期をちゃんと見るんだって決めたんだから!あたしたちはあのコトダマを止めなくちゃいけないけど……せめてシオンたちに見届けて欲しいの!」

「ええ、それは勿論です。覚悟は決めてきましたから……あの怪物はコトダマ……というのですか?」

「はい、あっ……えーっと……すみません!そのことはナイショでおねがいします!」

 一般には異霊の存在は知られていないという事を愛渦はすっかり忘れてしまっていた為、うっかりそのままの単語で喋ってしまった。しかしもう既に複数人に目撃されてしまっている以上あまり関係無いのかもしれない。たとえ箝口令が敷かれたとしても多少広まってしまうのは時間の問題だろう。

「とにかくいちばん上の、シアターが見渡せるところで2人には見ててほしいんです」

「ナイショ、ですか……ふふっ、ええ。わかりました、他言はしません。上へ向かいましょうか」

 3人で階段を駆け上がっている間にも、下の階からは轟音が響いてきている。


「さて、それじゃ作戦通りにやってみよう。幽夜くんは相手の目をひきつつ撹乱する役回り、照陰くんは標的の行動を制限する阻害役、そして僕が隙を見て断続的に攻撃を仕掛ける」

「はい!」

「了解です」

(自分で提案した事だけど、やっぱちょっと不安ではあるなぁ……いいや、いやいや……しっかりしないと)

 先程幽夜が乙何に提案した、幽夜が敵の注意を引くことで乙何の攻撃を差し込みやすくするという動き。正直不安の残る作戦ではある。「あの異霊が幽夜を狙っている気がする」という薄い要素だけで、不確定要素を多く含んでいる。しかし実際初遭遇時から幽夜を狙った攻撃・挙動は多かった。恐らく幽夜の感覚は間違いではないだろう。

「……毎度仕掛けられてばかりだったけど、今度はこっちから行くぞ!」

 幽夜が跳躍し異霊に仕掛ける。合わせて残る2人も動き出す。同時に動き出した3人に対して異霊が目線で追いかけた相手は幽夜だった。明らかにその目には幽夜に対する執着のようなものが見て取れる。

「やっぱり僕の方に目を向けたな……!」

 ここまで3人の狙い通り。次に異霊は幽夜に向けて巨大な爪を振り下ろしてきた。

「そこだな……千鎖万別!」

 その腕にめがけて照陰が“力”を発動させ動きを止める……とまではいかなかったが制限はかけられている。

「本当に馬鹿力だな、コイツは……」

「十分だよ、2人とも!」

 乙何が飛び出して攻撃を加えようとした瞬間、鎖が引きちぎられ異霊の爪が幽夜に掠った。当たる瞬間に乙何が咄嗟に逆方向に蹴り飛ばした為掠っただけで済んだが、それでも幽夜の腹部が若干抉られてしまった。

「あっ……がっ……!」

「幽夜くん!」

 乙何が幽夜の側に駆け寄り、応急用のスプレーをかける。照陰は異霊の動きを少しでも止めようと鎖を出し続けている。

「だ……いじょうぶです、まだ、動けます」 

「いいや、これ以上の無理はよすんだ。そもそも君は右手だって……」

「右手……そうだ、右手を……操作してガードしようとしたんです。でも、出来なかった……」

 攻撃をくらう直前に幽夜は鐘塔での戦いの際にそうしたように右手のもやを大きくして防ごうとした。が、まだ上手く動かせていないのか右手のもやは反応しなかった。

「……朦朧としている、わけじゃないんだろうけど……やっぱりここまでにしておこう。これ以上血を流すと本格的に危険域に入ってしまうよ」

 乙何は幽夜を抱えようとしたが、幽夜は拒絶した。

「乙何さん……ここで僕が退こうとしても、あの異霊には関係ありません。さっきの対応と目を見て確信しました。何でかは分からないままだけど、僕に対して異様に執着して狙ってきています」

 幽夜は今も鎖を巻きつけられながらこちらに迫撃しようとしている異霊を睨みつける。

「どちらにせよ、あれを完全に沈黙させない限りは僕がずっと狙われ続ける事になる」

 乙何は若干逡巡したが、決断した。

「分かった。ただしさっきみたいな作戦で動くのはもうやめだ。基本的に君は関与せず、回避に専念するんだ。君ならその状態でもそのくらいは動けるだろう?」

「……はい、やれます」

 乙何が立ち上がり、異霊に向き合う。

「決着をつけるよ。ただし、これ以上怪我は増やさない。絶対にだ」

「……了解です!」

(なんでさっき出来た事が今は出来なかったんだろう。このもやはまだ今日初めて発現したものだし、操りきれてないのかな……)

 右手のもやを握って開いて、動作確認するように何度か繰り返す。問題なく動いている。機能停止したわけでは無さそうだ。何か別に原因がある。何か……。


「今はシアターに近寄らないでくれ!中で正体不明の化け物が暴れてるんだ!」

 明日田はシアターの入り口付近で誰かが中へ入って行かないよう周囲に声がけをしていた。

「あまり長引かない事を祈るしかないか……ここまで音が響いてきてるんだ、その内中の様子が気になったやつに強行突破でもされたら僕には止めようがないしさ……」

 明日田が長期戦になる事を案じていた時、1人の女性が話しかけてきた。

「不躾にすまないがいいだろうか」

「ん……何さ?僕の分かる範囲でなら答えるが」

「この音……中で誰かが応戦しているとみた。もしそうなら……」

 女性はいつの間にか手に刀を携えていて、それを自身の前に掲げてみせた。

「儂は発現者だ。武芸の心得も多少ある……必要ならば、私も共に刃を振るおう」

 明日田は一瞬呆気に取られたが、すぐにハッとした。

「ちょっと待て、和装の女性で、帯刀していて、発現者って……まさかアンタ……」

「通って問題無いか?」

「あ、ああ……むしろアンタを止められる人間なんていやしないさ」

 明日田は速やかに道をあけた。そしてスタスタと通り過ぎ去っていく背中に声をかけた。

「中には英字持ちを含む複数人の発現者がいる!アンタにゃ必要ないかもしれないが、連携をとってみてくれ!」

 女性は右手を軽く上げて答えた。

「ったく、心臓に悪い……なんだってあんなやつがこんなとこにたまたま居るってのさ……。しかしこれで中の連中の事も安心だ……英字持ちについては元々あまり心配しちゃいないが」

 女性がシアターに入ろうとした瞬間、中から何か聞こえてきたことで足を止めた。

「これは……歌?」


「けど戦うとは言ったものの、アレに対してどう立ち回ればいいんだろう……正直ベストな動きもできないような状態で」

「やっぱり君をもう矢面に立たせる訳にはいかない。僕には君達3人に対する責任もある……先輩として君達と無事この依頼を達成して戻るんだ。これ以上、君を危険に晒せない」

「でも……」

 それ以上言葉が出てこなかった。実際、自分で提案した行動ではことごとく怪我を負っている。

(せめて、僕がもう少しまともに動ける状態を保てていたなら……)

 その時、歌声がシアターに響き始めた。その歌声は幽夜に聴き馴染みのある懐かしい歌声。

「この歌……シオン!?襲われたりしないようにラブカと一緒に上の階から見てるだけの予定じゃ……」

 基本的に息を潜めて様子見……というより母の最期見届けさせる為に戦闘には干渉せずにいてもらう予定だった心音の歌声が聞こえてきた事に幽夜は動揺したが、すぐに違和感に気付いた。

「あれ……なんだか体が軽い……ような?」

 心音の歌が響き始める前と後で明らかに幽夜の体の感覚が違った。軽やかに動くとまでは言えないが、体に負っている傷の痛みも多少和らいでいる。

「あれ……そういえば、前にもこんな事があった……」




「……ゆ、ユウヤくん、けが……してる?だい、じょうぶ?」

「う、うん……平気。ちょっと擦りむいただけだし、このくらい医務室に行けばすぐだから」

 心音と2人で外で軽く買い物をした帰り道の途中で転んでしまい、幽夜は軽い打撲と擦過傷を負った。幸い歩けないような怪我ではなく、ポラリスの医務室へ戻ればちょっとした対応で済むであろう程度の怪我だったが歩こうとすると痛むようだった。

「……い、痛むの?ちょ、ちょっと、待って、ね……」

 心音は一拍置いて綺麗なハミングを口ずさみ始めた。その歌声はまるで耳から全身へ癒しを染み渡らせていってくれている様な……気がした。

「……あれ?歩いてもあんまり……痛くない」

 立ち上がってちょっと歩いてみるが、先程のような痛みは無かった。ので、幽夜は心音の方を向いたが心音は歌声を止めずにいた。

「あれ?シオン、シオーン……」

 幽夜が少し揺さぶってようやく心音がハッとした。

「わ、私の歌……ね、心を落ち着かせたり……い、痛みを柔らかくしたり……できる、んだ」

「そ、そうなんだ……」

 ちょっとした沈黙の時間が流れ、心音は顔を赤くした。

「……初めて見せてくれたね。シオンの“力”」

「え、あ、あっ……」

 心音は幽夜が怒っていると思ったのかしどろもどろしながら何を言えばいいのか考えている様子だった。幽夜は慌てて心音を宥めるように話しだした。

「あ、その……ごめん。怒ってるとかじゃなくて……嬉しいんだ、シオンが僕の事を信じてくれたから“力”を見せてくれる気になってくれたのかなって」

「え……」

「シオンてさ……いつも帽子をかぶってたり、耳当てをしてたり……多分何か……見せたくないなものがあるんだよね」

「……ば、ばれてたんだ。うん……なるべく、み、見られたくないんだ……」

 心音は今も着けている耳当てを手で押さえた。

「それと同じように“力”の事も、僕達同級生にさえ知られたくないんだと思ってたから……見せてくれた事が嬉しくて」

 幽夜は柔らかい笑みを心音に向けた。

「あ、話が長くなっちゃってごめんね……ありがとう、痛みを柔らかくしてくれて。歩くのがすごく楽になった」

「う、ううん……こ、こっちこそ……あるが……」

 心音が何故幽夜にお礼を言おうとしたのかはその時幽夜には分からなかったが、心音が噛んでしまい顔を赤くした事に対して幽夜はくすりと笑ってしまった。

「う、うぅ〜……わらわないでぇ〜……」

 その後結局2人で笑いながらポラリスに戻った。




「あの“力”だ……シオンの……」

 幽夜が上を見上げると上階で心音が歌っているのが見えた。

「……ありがとう」

 幽夜は微笑んで立ち上がり、再び目の前の怪物に向き直る。

「お前が何で僕に執着するのかは分からないけど……ここで決着をつけなきゃね」

 

 愛渦・作詞・心音の3名はシアター上階の客席がある場所まで登ってきていた。そこならシアター全体を見渡せることから天音姉妹が母親の最期を見届けるのに具合の良い場所だと判断した為だった。しかしいざ上階へ登り最初に目にしたものは……腹部には血を滲ませ、顔には苦痛を浮かべる幽夜の姿だった。

「ゆうちゃん!!」

 愛渦は身を隠していなければいけない事も忘れて叫んでしまっていた。その叫び声と下から響いてきている音で何か良くない方向へ事が進みつつあるのを察したのか、突然心音が前へ出た。そして幽夜の状態を見た心音が息を整え始めた。

「ラブカちゃん、ごめんね……!」

 一言そう呟いてから、大きく息を吸い込み心音は歌を歌い始めた。その歌声はシアター内に響き渡り、下の階で戦っている幽夜達の耳にもしっかりと届いた様だ。

 幽夜は迫ってきている異霊の方を見る。幸いなことに歌声の主の方には注意は向いておらず、あくまで自分への追撃を続けている。

 下の階の様子を見ていた愛渦が幽夜の様子の変化に気付いて心音の方を見る。

「これ……シオンの“力”なの?」

「はい、そうです……事前に説明する時間もありませんでしたし……同級生と聞いていたのでご存知かと思っていましたが……。心音は“力”を皆さんの前では使った事が無かったようですね」

「えっと……はい、その……たぶんゆうちゃんたちもそうだと思いますけど、耳にハツゲンシャの力があるものだと思ってました」

「この子は……心音は、コウモリの亜人なんです。なので生まれつきの特性として耳は発達していました」

「えっ……シオンが……?」

 愛渦は言われてみてそういえば心音がいつも帽子を深く被っていたり、イヤーマフをしていたり……耳を隠していた事に気が付いた。自身の亜人族である特徴を隠していたのだろう。

「はい、そして発現箇所は“喉”です。心音の声には“力”を乗せる事ができ、一時的な身体能力の向上や精神にも影響を与える事が可能です。今歌っている歌は祝詞のようなもので……幽夜さんに向けているものだと思われます」

「すごい……そんな“力”があったんだ……」

「歌の最中は集中し過ぎて周りに一切注意が向かないのは問題点ですが……」

 改めて心音の方を見ると確かに凄まじい集中力だ。余程強い衝撃を与えられない限りは気付いてくれそうにない。

「私が心音に言っていたんです……亜人族である事はなるべく知られないようにしなさいって。まさか同級生である貴方達にも隠していたとは……ごめんなさいね」

「い、いえ!びっくりしたけど……シオンはシオンです!」

「心音は心音……ふふっ、そうね。ありがとう」


 上で心音について愛渦が聞いている間にも、下では戦闘が続いている。心音の“力”を込めた歌のおかげで幽夜は先程よりは動きが回復しているもののやはり全力で動ける訳ではない。照陰の鎖を出し続ける阻害行為も限界が近い。そして何より一番消耗していなさそうに見える乙何も少し動きが鈍っていた。

「参ったな……さっき焦って全力で“力”を出し過ぎたかな」

 幽夜達と鐘塔で合流する前、時間にしてみればそう長い時でも無かったが人の範疇を超えたスピードで走り回っていたのが響いていた。

「それにコイツの強さは正直想定外だ……異霊は人間に取り憑くとこんなにも力を発揮するのか……!」

 このまま戦闘が続けばジリジリと追い詰められていくのは明らかだった。

「乙何さん!もう一度……もう一回だけ、レインが動きを止めた瞬間に2人で攻撃しませんか!」

「……ッ、さっき言っただろう!君はもうまともに動ける状態じゃないんだ!」

「もう一度くらいなら……やれます!シオンの歌のおかげで少し動きは良くなってますから……!」

「なんだって?……あの歌は彼女の“力”……だからこの状況で危険もある中歌いだしたのか……」

 乙何は迷っていた。事実として、もう乙何1人の力では状況を打開出来そうにない。かといってまだ新人な上手負いの幽夜に再び攻撃参加させるという事には抵抗があった。

「……迷っている時間は無い、か……」

 これ以上時間をかけても恐らく状況は好転しない。ならばと乙何は決断した。

「分かった、もう一度やってみよう。ただしもう無理だと僕が判断した瞬間、君も照陰くんも、上にいる3人も全員退いてもらう。そして救援を呼びに行くんだ……その時間は僕が作る」

「そんな、でも……」

「聞けないなら今この場から僕が叩き出す」

 乙何は真剣な眼差しで幽夜を見る。いつもの笑顔ではなく、真剣な……それでいて本気の表情だった。

「……分かりました!」

 幽夜が了承すると同時に乙何が速度を上げ、照陰に拘束の指示を出す。照陰は一瞬幽夜の方を見たが、すぐに反応して自身が今出せる限りの鎖を展開した。

「今度こそこの一回限りだよ、幽夜くん」

 攻撃を仕掛ける前に乙何は幽夜に念押しして更に加速した。

「はいっ!」

 超スピードで動きだした乙何に恐らく返事は届いていないが、一際大きな声で応えて幽夜も“力”を()()に込め始める。

(右手のもやは確かに強力な一撃を出せたけど、今は確実に操れる確信はない。なら左手で出せる限りの“力”を……!)

 照陰が大量にだしたあらん限りの鎖を縦横無尽に張り巡らせる。敵の動きを絡め取りつつ、それでいて2人の邪魔はしないよう配慮された動きで。異霊が絡まり、動きが緩んだタイミングで“力”を使い加速した乙何と左手に“力”を込めた幽夜が突っ込む。

過剰出力(オーバースペック)高速機動(フルスピード)!」

「この一撃で……決着を!」

 異霊は必死にもがいて鎖を千切ったが、解放された頃には2人が眼前に迫っていた。

「うあああぁぁぁぁ!!」

 凄まじい衝撃波と轟音で、上にいた3人でさえ多少吹き飛ばされ尻餅をついた。その時心音が我に返ったようで突然の事に驚いていた。

「ひゃっ……な、なに?」

「いてて……あ、シオン!気がついたんだね、ゆうちゃんを助けてくれてありがとう!」

 愛渦が心音に抱きついた。

「わっ、ラブカちゃん……そ、そうだった……私、“力”を使ったんだ……」

「いいのよ、心音。私が……私の言い方が悪かったの。“力”を使っちゃ駄目だと言いたかったわけじゃないの……ただ、あなたの事を心配しすぎたのね、私……」

「お、お姉ちゃん……だ、大丈夫。この”力“を初めて見せた時……笑ってくれた子がいたから」

 心音は抱きついたままの愛渦を抱き返しながら微笑んだ。そんな心音を見て作詞は一瞬目を見開いて驚いたが、妹の成長を喜び自らも微笑んだ。その時、下の階から音がして3人とも下を覗き込んだ。下にいる3人がこちらに手を振ってくれるものだとばかり思っていたが、状況は違った。

「くそ……仕留めきれなかった!照陰くん、幽夜くんを連れて離れて!」

 乙何の声が響く。異霊の方を見るとダメージは負っているがまだ動きを止めず3人に反撃しようとしている。

「愛渦ちゃん!2人を連れてこの場を離れて!!この後の事は幽夜くんに伝えてある!」

 上の階にいた愛渦にも指示がとぶ。突然の事に少し戸惑ったが愛渦は返事をして2人を連れ速やかにその場を離れようと動きだした。照陰も幽夜の方へ駆け寄る。一方”力“を一時的に使い果たし倒れ込んでしまった幽夜は意識も朦朧としていた。

(体が、動かない……異霊は?仕留めきれたかな……あれ、レイン……?どうしたんだろう、そんな焦ってこっちに……駆け寄ってきて……)

 何とか視線を動かし、異霊の方を見たが今にもこちらに攻撃を加える瞬間だった。乙何もかなり消耗していたが幽夜もまだその場から離れられていない関係上、避ける訳にはいかない。

「くっ……せめて一撃は止めて幽夜くんが逃げる時間を……!」

 乙何が受けの構えをとった時、突如シアター入り口の方向から刀が数本飛び異霊の手足を突き刺し動きを止めた。そして次の瞬間、上から何者かが一撃を叩き込んだ。それきり異霊は沈黙し、動かなくなった。その光景を見届けた後、幽夜は気絶してしまった。

「……はぁ」

 突然の事に驚いたのか、乙何はへたりとその場に座り込み両手を地面についてため息をついた。

「あなたが近くに居たともっと早くに知っていたなら、この子達を危険に巻き込まずに済んだのに……刀香(トウカ)さん」

「ふむ、どうやら貴様はまだ鍛錬が足らぬらしいな。乙何」

 こちらに顔を向けたその人物は、以前訓練場で乙何達と幽夜達が手合わせをした際に瞑想をしていた和装の女性だった。手を一振りし異霊に刺さった刀を消すと、何事もなかったかのように幽夜の方へ向かって歩いてきた。

「助太刀が遅れてすまんな、少年達。大事ないか」

「えっと……僕は殆ど無傷ですが、ユウヤ……こっちのはかなり重症です」

 和装の女性は気絶している幽夜の側にしゃがみ込み、一通り状態を確認し始めた。

「む、傷もそうだが“力”をそもそも使い果たしているな……儂の“力”を少し分けてやろう。ついでに応急処置もしてやる」

 そういって幽夜の胸に手を置き、何か唱えると幽夜の体に突如火がついた。

「っ!?何をして……」

 隣で見ていた照陰が珍しく焦って止めようとしたが、乙何が制止した。

「安心して、照陰くん……あれはあの人の“力”の表れだよ。あれで幽夜くんが熱かったりはしないし、ましてや火傷なんてしないからさ」

「“力”の表れ……?火を扱う能力って事……でもだとしたらあの刀は……」

「ああ、誤解を生むような言い方してごめんね。あの刀が能力で……あの炎はあの人の中に流れる”力“が強すぎるが故に目に見える形として現れているものなんだ」

「火を使える能力ではなく強力過ぎる”力“そのものが燃えているように見えていると……?そんな事が……」

「かなり規格外の力ではあるよ……なにせあの人……刀香さんはポラリスに所属する『冠』の1人だ」


 ……数分の後、幽夜が目を覚ました。

「ん……あれ、思ったより体が痛くない……?」

「ゆうちゃーーん!」

「わっぷっ……ラブカ?あれ?異霊は……?そうだ、さっきのあの人は……?」

「儂のことか?」

「うわっ!?あの……はい」

 隣で正座して幽夜の様子を見ていた刀香が意識を取り戻した幽夜の状態を確認しふむ、と頷いた。

「ふむ、応急処置のみで問題なさそうだな。若さとは素晴らしいものだ」

 幽夜は以前自室で見た夜警団のメンバーリストのことを思い出していた。

「あ、あの……もしかして『鬼冠(おにかんむり)』さんですか?」

「む、知っておったのか。名は赤村刀香(セキムラ トウカ)という。何とでも呼んで構わぬが……その鬼冠というのはあまり好かぬでな、他ので頼む」

「あ……すみません」

「詫びずともよい、では少年も目を覚ました事だし儂は儂の依頼に戻るぞ。乙何」

「はい、刀香さん。助太刀、感謝します」

「よい。また会おうな、少年少女」

 刀香はひらひらと手を振りながらシアターを後にした。

「あ、ユウヤ……お前の怪我に応急処置をして“力”を分けてくれたのは刀香さんだよ」

「……え!?早く言ってよ!」

 幽夜は一旦愛渦を剥がして、急いで刀香の後を追った。

「あ、あの、刀香さん……!け、怪我の処置……あ、ありがとうございまし……った」

 意識が戻って早々だったのもあり急に動いた事で幽夜は息を切らしていた。

「む、なんだ。そんな事をわざわざ言う為に追いかけてきたのか。律儀な少年だ」

「ゆ……幽夜、です」

「そうか、幽夜少年。そういえば君にひとつ言っておきたい事があった」

「は、はい……何でしょう?」

「君の“力”はそんなものではない。これからはより一層励むといい」

「え……?」

 突然言われたことに少し混乱した。

(そんなものではない……って冠の人に言われたのは……喜んで……いいのかな?)

「あ……ありがとうございます?」

 ハテナマークを浮かべながら答えた幽夜に対して少し表情を和らげながら、刀香は最後にもう一つ付け足した。

「意味が分からずともよい。ただ……命は大事にな」

 もう一度手を振りながら去っていく背中に幽夜は改めてお辞儀をして見送った。

「いや〜よかったよかった!外からは轟音が時々聞こえてくるだけで中の様子も分からないし、いくら冠が途中で入っていったとはいえ心配だったのさ」

 シアターに戻るとすぐに明日田が幽夜の頭をわしゃわしゃ撫でながら言った。

「とりあえず君が寝てた間に自治体の連中には知らせてあるし、この辺はじき一時閉鎖されるだろう。いずれ政府機関の耳に入った時には事情聴取はされるかもしれないが……まぁ君たちも依頼解決の為に動いてこうなっただけだしさ!悪いようにはならんだろうさ」

 明日田がより一層強めに幽夜の頭を撫でる。

「君の頑張りのおかげだな!」

「い、いやその……最後は刀香さんが来てくれなかったら危なかったですし、それに……」

 幽夜は少し俯いて申し訳なさそうに言う。

「冷静になれていませんでした。半分は暴走のようなものでしたし……」

 それを聞いた乙何が頭をかきながら幽夜に近付く。

「ん〜……正直僕はあんまりこういうの向いてないんだけど……」

 乙何が手刀をポスっと幽夜の頭に当てながら説教を始めた。といっても本人もあまり気乗りしていなかったので短く終わったが……。

「……と、いう訳で君はこれからもっと冷静な判断を心がけるように!」

 手刀を外してパン、と手を叩き乙何は笑顔に戻った。

「さて、あとは……っと」

 乙何がシアターの奥の方に振り向く。幽夜もつられてそちらの方を見ると、作詞と心音が異霊の遺体の横に座り込んでいた。

「あっ……」

 かける言葉もなく、幽夜は黙り込んでしまったが違和感に気が付いた。

「……あれ?異霊……あれ……?」

「ああ、うん……君が寝ている間に刀香さんが遺体の修復までしてくれてね。異霊が離れた事により元の人間の遺体に若干戻っていることもそうだけど、ご遺族の為にって綺麗にしてくれたから……見た目はだいぶ元の姿に近いと思うよ」

「刀香さん……そんなことまで……」

「うん……僕ももっと頑張らないとなぁ……っと、そんな事言ってる場合じゃないというか……あの2人には酷だけど……もう時間がないんだ。自治体の人がここに到着してしまうと、色々と……ね」

「そっか、見られちゃまずい……ですよね」

 乙何が意を決して2人に声をかける。

「すみません。本来ならいくらでも時間の許す限りそうしていてください、と言いたいところなんですが……」

「……いえ、大丈夫ですよ。元々母との別れは過去に……済ませていますから。私も、あの子も」

 心音はまだ離れたくない様子で、遺体に縋りついて涙を流していた。

「でも……心音はここに来る前にあの怪物……もとい母と触れ合い、会話をしたのだと……そう、言ってました。もう一度母が会いに来てくれたのだと……あの子はきっとそう思ってしまって……」

 作詞も耐えきれなくなり、ハンカチで目を覆った。乙何も拳を振るわせていたが、異霊が取り憑いていた遺体……という機密事項の塊のようなものをここにいつまでも置いてはおけなかった。

「……ごめんね、心音ちゃん……僕達は君のお母さんのご遺体を調べて……今後この怪物達に対抗する為の術を考える必要があるんだ、だから……」

 なるべくひとつひとつの言葉を選びながら乙何が心音に話しかける。

「だ、だ……い、じょうぶっ、で……す。お、終わったら、また……お母さんの体は……返してくれると、約束して……く、くれましたから」

 まだ半泣き状態の心音が涙を堪えながら承諾してくれたので、遺体を丁寧に綺麗な布に包んで慎重に移動を始めた。子供にこんな事やらせたりしないよ、と明日田と乙何が2人で運んでいる最中も心音は作詞に抱きついて体を震わせていた。外で待機していた研究員に引き渡す際、乙何は引き渡しに条件を追加した。

 その条件は、「遺体を調べる際、なるべく体は傷付けず今の状態を保って遺族の元へ返して欲しい」というものだった。

「少なくとも私はモルモットを扱う時でさえ命に対する最低限の敬意は持っているつもりだ。他の連中は知らないが、まぁ……私が対応する分にはその条件には従おう」

 研究員がそう返してくれた事で一旦は安心して遺体の引き渡しが出来た。これで今回の依頼は一件落着と言えるだろう。あとは報告を残すのみだ。


「それじゃまぁ……そんな気分でもないかもしれないけどさ、一旦今回の件が解決した事に……乾杯さ」

 作詞と心音は気持ちが落ち着くまでここにいるとの事だったのでシアターに残っている。残りの5人で明日田行きつけの店に入っていた。

「ほら、好きなもの注文して食べなよ若者たち。今回は僕の奢りでいいからさ」

「……ありがとう……ございます」

 幽夜と照陰はともかく、今回ばかりは愛渦も箸が進んでいなかった。せっかく初めて大きな依頼を解決できた……後にしては、盛り上がりきれなかった。

「んん〜まぁ、誘ったのは僕なんだけどさ……やっぱ景気良くご馳走食べようとはなれないか」

「そうでしょうね……僕も色々な依頼を解決してはきましたが、こういう事には慣れません。ましてや彼らはまだ経験も浅い、世間一般ではまだ高校生の歳ですから」

「高校生!そりゃなんとまぁ、今からこんな事経験してちゃあそりゃ魅力的な大人になるだろうね」

「……」

 正直、幽夜達は何かを話す気分になれなかっただろう。それでも、こうして明日田が自分達を元気づけようとしてくれているのにずっとしんみりしているのも申し訳なくなっていた。

「魅力的な大人……ですか。そういう点ではきっとレインはそういう大人になると思いますよ。いつも冷静だし、知識も豊富だし」

「……え、僕?」

 思わぬ所で急に名前を出されて照陰は驚いている様子だった。

「え〜ゆうちゃんあたしは〜?」

「ラブカは〜……う〜ん……の、ノーコメントで……」

「ちょっとなにそれ〜!」

 愛渦が幽夜に(物理的に)乗っかったことで雰囲気が和やかになった。それからは会話も増え、食も進んだ。心音という同級生の事が頭の片隅から離れる事は無かったが、それでも幽夜達が一時的に心を休ませるには十分なひと時だった。

「ふわ〜ごちそうさまでした……」

「なんか結局たくさんご馳走になっちゃったね……すみません、明日田さん」

「いいのさいいのさ、ぶっちゃけ僕普段あんまポイント使う事ないからさ」

 軽く雑談した後、明日田以外の4人はポラリスに戻って休む為ここで別れる事になった。

「また亜達区に寄る事があったら言いなよ!君らにならいくらでもご馳走してあげるさ」

 明日田は別れ際にそう一言残して事務所へ戻っていった。それを見届けて、幽夜達も帰路につく。

「大変ではあったけど……依頼自体は解決できたし。よかった……んだけど……そういえば僕の右手、このままなのかな……」

 幽夜はいまだにもやがかかったままの自分の手を見つめる。相変わらず問題無く右手としての機能は果たしているし、今では違和感も薄れてきているが……やはりこのままなのもおかしい気がする。

「でもまぁどうすることも出来ないし……今は戻って休みたいし……また明日今後の事は考えようかな……」

 一旦右手の事は忘れる事にし、その後一行は何事もなくポラリスに戻った。夜警団本部への報告は乙何が行く事になったので他の3人はそれぞれの部屋へ戻り眠りについた。乙何は本部にいる団長の元へと向かい、報告を始めた。

「……という訳で一応は英字持ちである僕でさえ苦戦するような怪物を相手取り、それぞれが活躍を見せてくれました。彼らの今後には注目かと」

「うんうん、それは頼もしいね!そうか、また頼もしき未来達が増えてくれたんだね……団長としても嬉しいよ!」

「僕も嬉しいです……彼らには個人的に期待を寄せています」

「へぇ……人類を超えた肉体と称された若手英字持ちの君が期待を寄せる未来達か……いいね!それじゃあ君もお疲れだろうから戻って休むといいよ!報告ご苦労様!!」

「はい……お言葉に甘えさせていただきます。団長もいつもお疲れ様です」

 乙何は一礼して本部を後にした。乙何が出ていった後、福音がいつもの声色ではなく静かな声で独り言を呟いている。

「そうか……()()出てしまったのか……あの子の暗いもや……」

「……何か考え事?団長。珍しく眉間にしわなんか寄せちゃって……せっかくのかわいいお顔が台無しだよ?」

 あごに手を当て少し考え込んでいると乙何と入れ替わるようなタイミングで入ってきた女性が福音に話しかける。するとみるみるいつもの顔と声に戻った。

「ああ、すまない!君を呼んでいたことを忘れかけていたよ!」

「ふふ、よかった……元気な団長になった。それで、今回のお話はなぁに?」

「今度、きっと君の役に立ってくれる子がポラリスに……夜警団に来てくれるだろう……と感じたんだ。我が団のセラピストである君のね!」

「わぁ、そうなんだ……きっといい子だね。皆の役に立ちたいと願っているような……そんな子」

「ははっ、まさか君も見えるようになってきたのかい?」

「ううん……だったらいいなってだけだよ」




 異霊との戦闘が終わって数十分後、天使の詩シアター内にて

「お、お姉ちゃん……もう、大丈夫……」

「そう……無理しなくてもいいのよ?」

「ううん……大丈夫」

 心音が強がっているようには作詞は見えなかったので一旦落ち着いたのだろうと判断したが、それだけではないような気がして作詞は心音の前にしゃがんで目線を合わせ、再度確認する。

「本当に……大丈夫なの?無理してるわけじゃないんでしょうけど……なんだか変よ?」

「わ、私ね……お姉ちゃん」

「うん……どうしたの?」

「やりたい事が、出来たの」

 そう言葉にした心音の目には、確かな覚悟が宿っていた。

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