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夜を生きる  作者: 八折伏木
**騒動編
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13/16

遭遇

こんにちは、八折伏木です。

少しずつ小説の整え方が理解出来てきて、ペースが安定しつつあります。少なくともこの異霊騒動編はこのまま書き切りたいというのが今の目標です。安定してきたからって調子に乗った結果か誤表記をやらかしたりもしましたが…今後は無いようにしていきます。再度引き締めます。

それでは、本編の方をお楽しみください。

登場人物

夜警団団員・・・幽夜(ユウヤ)

        透鮫(トオサメ) 愛渦(マナカ)

        霊場(レイバ) 照陰(テイン)

        成田(ナリタ) 乙何(オトナ)

亜達区の探偵・・・明日田(アスタ) 利久(リスク)

異霊研究所の研究員


 公演開始2分前、楽団「天使の詩」シアター前。

「それじゃ班分けをしようか。大人二人はとりあえず別れた方がいいとして......どうしようかな」

「迷いどころだねェ、まぁそうだね......」

 明日田が人差し指を立てる。

「とりあえず、僕の出来る事は知っておいてもらった方がいいかなと思うのさ」

 明日田が立てた人差し指から蛍のような光がいくつか飛び出る。

「僕も発現者なのさ。この光は目印として置いたり、近くを何かが通ったら発動する検知罠として設置したり......後は対象に付けてマーキングしたり。地味だけど便利な物さ」

「なるほど、探偵向きのいい"力"です。それなら......先程と同じメンバーで行きましょう。明日田さん・幽夜くん・照陰くんと、僕・愛渦ちゃんの2組で動きます」

 索敵・調査役の明日田と愛渦が別れ、戦闘役の幽夜・照陰・乙何が別れる事でバランスを取ったメンバー分けだった。

「幽夜くん、ちょっといいかな」

 乙何さんがこそっと耳打ちしてきた。

(照陰くんも十分戦闘は可能だろうけど、基本的にメインは幽夜くんで考えたメンバー分けなんだ。ちょっと怖いかもしれないけど......何かあったら3人で協力して頑張ってくれ)

(......分かりました!)

 僕がメインの戦闘役......だいぶ不安だな......でもまぁレインもいるし、明日田さんもサポートに動いてくれるだろうし。僕は僕に出来る事をやろう。

「明日田さん、貴方が危機管理能力に長けていると信じての判断なのですが......もし危険を感じたらすぐに撤退してください。2人は明日田さんから指示が出たら従うようにしてね」

「了解です」

「......分かりました」

「責任重大だね、こりゃ。まぁ安心してくれ。いざという時の退路は把握してるしさ」

「任せましたよ。愛渦ちゃんはちゃんと僕についてくる事と、言う事は聞いててね」

「はーい!」

 初めて得体も知れない怪物と出くわすかもしれないのに緊張感無いな、ラブカ......いやいい事なのかもしれないけど。実際ちょっと胃が痛い僕からすると羨ましい才能かもしれない。

「間もなく天使の詩、夜の部の公演が始まります!チケットをお持ちの皆様は座席に着いて頂くようお願いいたします!」

 楽団のスタッフらしき人が周囲に呼びかけている。時計の針は間もなく6時30分をさそうとしていた。

「それじゃあ動き出そうか。時間は公演中の2時間30分、9時まで。調査範囲はシアターの周囲半径1km以内で......合流は後で連絡を取ろう。それじゃ気を付けて!」

「はい、乙何さんとラブカも!」

「ゆーちゃん、レイン、またあとでねー!」

 シアターの中から音楽が聞こえてきたのと共に2人が駆け出し、暗闇の中に消える。

「いいね、楽団の音楽と共に動き出すなんてまるで気分は舞台で舞う役者(キャスト)さ。さぁ、ミステリーの幕を開けようか」

「はい、調査開始です!」

「......とりあえず乙何さん達と反対方向を見て回ろう。僕も索敵やらは出来ない事も無いけど、基本的には明日田さんに任せます」

「そこら辺は任せて欲しいさ、その為の"力"だ。ただ戦闘に関しては頼りないものだから......そこは君達戦闘班を頼りにしてるさ」

「はい、僕とレインの出来る範囲で頑張らせていただきます!」

 3人で建物の屋根伝いに街中を跳び回りながら周囲を見渡す。明日田はその最中一定間隔で光る点を配置している。

「索敵と言っても僕の場合あくまで設置型だからさ、突発的に何かしらと衝突する事に対しては無力なのさ。もしそういう事が起きたらその時は頼むよ」

「分かりました、その辺はレインが見ててくれてますからある程度は大丈夫かと」

「僕の得意分野はあくまで見えてる敵の捕縛や行動の制限だ。そこまであてにしないでもらえると助かるんだけど」

 言いながらもレインは手を振って周囲に鎖をちょいちょい出して警戒してくれている。僕はそういう事何も出来ないから......せめていざという時にはすぐ動けるようにしよう。

 そうしてしばらくは周りを見渡しながら走り回り、ある程度明日田の"力"の配置が終わった所で高所をとり視界を確保して周囲を見張り始めた。


 ___乙何&愛渦サイド

「愛渦ちゃん、透明化ってどのくらいの間隔で使えるの?」

「1回使うとながくて3分くらい消えます!あとはなんというか......え~っとぉ......あいだをあけないと短くなります!」

「ありがとう、把握出来たよ」

 どうするべきか。愛渦ちゃんを索敵要員としてこちらに入れたけど、役割としてはまだ少し決めかねている部分もある。

「......?なんだろう、何か視線を感じるような......」

「オトナさん、右の方にだれか立ってます!」

「おっと、アレか......よく見えたね、この暗い中」

「えっと、あたし脳のハツゲンなんですけど、目も少しあるみたいでちょっとだけ暗くてもよく見えます」

「それはいいね。じゃ......立ち止まって僕と同じ方向を見てそっちの方を見回してるフリをして」

 そう言って乙何が立ち止まる。合わせて愛渦も止まる。

「次に......そ~っとバレない程度に顔の角度を変えて......横目でその人の姿かたちは確認出来たりするかい?」

「えっと......何だろうあのヘンなマーク......がついたローブ?かなにかを着てる人です」

「変なマーク......もしかしてひとだまみたいなマーク?」

「あ......そうです!そんな感じのやつです!」

「参ったな......"研究員"か......」

「ケンキュウイン?」

異霊研究所(コトダマケンキュウジョ)という施設があってね、そこの人達は異霊を研究対象としている関係で僕達や政府機関が対象を排除しようとするのを良しとしないんだ。最悪、妨害されるかもしれない」

「それはぁ~......よくないです!」

「うん、僕達にとっては大変よろしくないんだけど......目的次第ではあるんだよね。研究用のサンプルが欲しいというだけなら協力してあげれば問題無く僕達の目的も遂行出来るんだけど......」

 なんとか接触出来ないものか。あっちもこちらを認識している上でわざわざ姿の見える屋根の上なんかでこちらを見ていたのだろうし、交渉の余地はある......気がする。

「愛渦ちゃん」

「はい!」

「この後僕と別行動する素振りを見せて、透明化を使ってその人に近付くんだ。そしてこのアイテムを使って捕縛する......出来るかい?」

「やってみます!」

 愛渦は屋根から降りて対象の視界から消えるように動き、透明化しても違和感の無い間を作る。追跡されていないであろう事を確認してから透明化し、先程の対象がいた位置へ向かう。

「......よかった、まだいる」

 対象の人物は動かず、じっとその場で乙何の方を見ている。愛渦は動かれる前に、と物音を立てないようそっと近付き捕縛用ロープに"力"を込め構える。と、その時だった。

「いるのだろう?少女よ」

「!?」

 思わず声を出しそうになったのを堪えて、様子を見る。

「姿は見えないが、確かにそこに存在を感じる。先に言っておくが、こちらに敵意は無い。それでも不安なら縛るなりなんなりしてくれて構わない。どうするかは君とあそこにいる英字持ちに任せよう」

(......どうしよう)

 予想外の事に愛渦は判断がつかずにいた。仕方がないので、一度屋根から降りて小声で乙何に連絡する事に。

(なんていったらいいのか......あの人にバレてました、あたしが近づいてること。それで、たたかう気はないって言ってます)

『うーん......分かった、じゃあ......一旦待機で』

 乙何は通信を付けたまま、人影の方に振り向いた。夜目がきくわけでは無い為、しっかりとその姿を認識出来てはいないがその人影に向かって手を上げコンタクトを図る。するとその人影も手を上げて合図を返してきた......様に見える。

『愛渦ちゃん、その人は今手を上げてる?』

(はい、右手を上げてます)

『分かった、屋根に上がって何もせず待ってて。僕もそちらに行く』

(りょーかいですっ!)

「......さて、吉と出るか凶と出るか」

 乙何はゆっくりと人影の方に向かって行く。研究員と思しきその人物は上げていた右手を下ろした以外、微動だにせず乙何が近付いていくのを静観している。

「初めまして、クラス"O"の肩書きを持つ発現者。私が研究員である事は既に気付いているのだろう?」

「ええ、まぁ......その上で目的を聞きに来ました。場合によっては協力もするつもりでいますが......」

「協力か......英字持ちの貴様が手を貸してくれるならこちらも助かるが、いいのか?貴様らの目的は対象の排除だろう」

「もちろんです......が、貴方達研究員が異霊を研究する事で僕達も新しい情報を得られますから。僕個人としては基本協力していけたらと考えています」

「成程、貴様の考えは把握した。ならばこちらの要求を言う」

「あ、少々お待ちを......愛渦ちゃん、出てきていいよ」

 合図を受けた愛渦が研究員の右後方から姿を現した。

「成程。姿が見えなかった理由はそちらの少女の"力"か」

 愛渦の方を一瞥したがすぐに乙何の方に視線を戻し研究員は続ける。

「貴様も察しているだろうがこちらの目的は対象の捕獲、及び調査だ。なにせ初の人体に取り憑いた個体だからな」

「......噂には聞いていますが、本当にヒトに取り憑いた個体なのですか?前例は無いと思いますが」

「正真正銘、人間に取り憑いた個体だ。それ故にこちらも即刻捕獲・調査しようと数年前から動いているが厄介な事に気付けば姿をくらまして消えてしまうものでね。捕え損ねている」

「姿をくらます......愛渦ちゃんと同じタイプの"力"を持った個体なのか?」

「そこの少女の発現能力が透明化なのであれば恐らく近いだろう。しかし実際にこの目で見られた訳では無い故、詳細は不明だ」

「分かりました、こちらでも出来る限り捕獲の方向で動く様善処します。が、難しい場合その限りではない事はご了承願いたい」

「構わない。こちらとしても捕えあぐねていた個体だ、生け捕りでなくともサンプルが採れるだけでも収穫は大きい」

「......では、それで契約成立ですね」

 乙何が手を伸ばす。研究員は何もせず立っている。

「悪いが私の手は私の意思とは関係無く"力"を発動させてしまうのでね。握手は出来ないが、了承した。成立だ」

 乙何は握手の代わりにぺこりと一礼して愛渦と共にその場を離れた。後方にいる研究員をちらりと見る。研究員は相も変わらず微動だにせずそこに立ったままだった。


 ___幽夜・照陰・明日田サイド

 高所から周りを見渡し異変が無いか探りつつ、明日田の能力に何かが検知されないか待機していた所に乙何から連絡が入る。

『こちらでとある人物から情報を得ました。対象は異霊で確定、その能力は愛渦ちゃんの透明化と似たものである可能性があります』

「了解、それでこの数年姿をくらましつつ動いていたから目撃情報が噂程度に留まっていたワケか」

『恐らくは。そしてその噂通り、対象は人型のようです。今までに前例の無い個体の為、より注意深く調査にあたってくれ......とあの子達にも伝えてください』

「その子達も聞いているから大丈夫さ。一応こちらは高台から様子を見つつ、罠を張って待機中の状態だ。何かあれば伝えるさ」

『ありがとうございます。幽夜くん、照陰くん......くれぐれも気を付けて』

「了解です!」

「......より一層気を付けてあたります」

『では、また何かあれば』

「はいよ、そっちも気を付けて」

『気をつけまーす!』

 通信を切って3人は再び周囲に目を向ける。

「......最後だけ、張り切った声が聞こえたね」

 明日田さんが微笑んでいる。僕は思わず苦笑いしたけど。

「君達もこれくらい張り切ってもいいんじゃないかい?といっても大半の人は緊張はしちゃうから......仕方ないか」

「あはは......努力します」

「ラブカのそれはかなりの才能ですけどね」

「そうだね、あの子のその才能はきっとチームの雰囲気をいい感じに和ませてくれるだろう。素晴らしい力さ」

「確かに、なんだかんだあのゆるさに助けられてる気もします」

「そうだろう......」

 明日田が何か言いかけたが、会話を止めて何かに集中している。

「......北北西、約100mの箇所......あっちの方に設置した点から妙な反応があった!向かうぞ、お二人さん!」

「はい!」

「了解」

 明日田さんが変な反応を感じ取った点の方向へ駆け出す。

「ちなみになんですけどっ、あの点ってどこまで判別出来てるんですかっ?」

 走りながらで若干息を飛ばしながら明日田に幽夜が確認する。

「人かそれ以外か......今回の件で関係ある判別はそのくらいのもんさ!」

 そっか、今回はその人ごとの識別とか関係無く人外の調査だから......それくらいしか対応出来ないんだ。

「1回読み取った事がある反応なら大体対応出来るんだけどね。今回ばかりは想定外さ」

 喋りながらその地点に向かっているとすぐに着いた。そして一旦足音を忍ばせ、屋根上から周囲を覗きながら反応の正体を探る。途中、妙なものを幽夜が視界の端に捉える。

「あれ、何だ......?」

 闇夜に溶け込んでいるが、妙な吹き溜まりの様な、霧の様な紫色のモヤだった。

「アレ、もしかして......」

 照陰が何かを思い出そうとする。数秒の後、答えを見つけたようだ。

「アレ、多分異霊の瘴気だ。この前滅花さんの研究資料を読ませてもらった時に書いてあった」

「ああ、あの資料......で、瘴気があるって事は......」

「ん、間違い無く近くにいる。......筈だけど、乙何さんの話だとそうとも限らないかもね。もうどこかに行った後かも」

「あ、そっか......」

「ともあれ、君らの先輩に連絡しなきゃさ。僕達だけで事にあたるより確実だ」

 明日田さんが乙何さんに連絡を繋ぐ。

『こちら乙何......何か分かりましたか?』

「恐らく異霊の残した物と思われる痕跡を見つけた。まだ近くにいる可能性もあるからさ、君達にも一旦合流して欲しいんだ」

『そういう事でしたか、分かりました。すぐに愛渦ちゃんと向かいます』

「そうしてもらえると助かるさ。場所は______


 ___再び乙何&愛渦サイド

 研究員とのやり取り以降も2人で屋根を飛び移りながら周囲の見回りを続けていたところに明日田から連絡が入る。

「こちら乙何......何か分かりましたか?」

『恐らく異霊の残した物と思われる痕跡を見つけた。まだ近くにいる可能性もあるからさ、君達にも一旦合流して欲しいんだ』

「そういう事でしたか、分かりました。すぐに愛渦ちゃんと向かいます」

『そうしてもらえると助かるさ。場所は......』

「............?」

『............』

「明日田さん?」

 何かが起きたのか、通話は繋がったままなのに誰の声も聞こえなくなった。

「明日田さん......明日田さんッ!!」

 やはり何も聞こえない。まずい。

「愛渦ちゃん、急ぐよ!」

「はいっ!」

 通信が悪くなっただけかもしれない。端末の調子が悪かったりしただけかもしれない。しかし......。異霊の痕跡が見つかった直後にこれは......嫌な予感しかしない。

「愛渦ちゃん、ごめん」

「はい?」

「僕はちょっと急いで明日田さん達のいる地点を探す。もし君の方が先に見つけても、まずは僕に連絡して。決して君達だけで戦おうとしない事......いいかい?」

「わ、わかりました!」

「じゃあごめん、また後で!」

 言った瞬間、乙何は愛渦の視界から消えた。先刻の愛渦の発言通り、多少夜目がきく愛渦だったがそんなものは関係無く文字通り目の前から消えたのだ。

「ひゃっ......え?」

 思わず立ち止まってしまった。一瞬遅れて、乙何が加速した事に伴う突風が愛渦に尻もちをつかせた。

「うっそ......」

 愛渦は衝撃のあまり数秒尻もちをついたまま動けなかった。

「頼む、無事でいてくれ......!」

 乙何は別行動をとっていた3人の無事を信じながら、乙何は超高速で市街地を駆ける。その頃幽夜達に何が起きているのか、今の乙何はまだ知らない。


 ___約5年前、ポラリスの養育施設・面会室にて

「あ、あの、私に会いたい、ひとって......?」

「う~ん......そうだねぇ、しーちゃんをと~~~っても......大事に思ってくれている人だよ」

 明は床に膝をつき、心音に目線を合わせ肩に手を置く。

「だから怖がらないで、ね。少しびっくりしちゃうかもしれないけど......きっとしーちゃんも会いたいと思ってた人の筈だから」

 明が心音を抱きしめ、「怖くない、怖くないよ」と宥める。心音はまだ少し体を震わせているが、気持ちは落ち着いた様だった。

「あ、あり......がとう、せんせい。だ、だいじょう、ぶ、だよ......」

「そっか、そうだよね。君は、強い子だから。だいじょうぶ」

 そうしている内にポラリスにその人物が到着したと報せが入る。

「もうすぐ来てくれるって。もうちょっとだけ、一緒に待ってようね」

「う、うん」

 明と心音は同じソファに座って面会人がこの部屋へ到着するのを待った。今まで誰かが面会に来た事が無かった心音にとって多少不安があるのは当然だったが、明の励ましもありいつもより少し背筋を伸ばしている。やがてカツン......カツン......と面会人のものであろう足音が面会室に響いてきたことで、顔合わせの瞬間が近付いていると感じ取る。

(私に、会いたい、ひと......だれ......?)

 面会室の扉が開き、案内のスタッフに連れられてその面会人が入ってくる。その時、何故か心音は世界が明るくなった様な......気がした。その人物を見た途端、先程までの緊張は飛んでいってしまった。

「お、ねぇ......ちゃん?」

 心音は無意識に立ち上がっていた。面会人は心音を見た瞬間立ち止まってしまった。両手で口を覆い、フリーズしている。

「し、おん......あ、私、私ね......」

 作詞は何とか言葉を紡ごうとする。ずっと、ずっと会いたかった。会った時に伝えようとしていた言葉もあった。だが言葉よりも感情が溢れ出してしまい、口も体も動いてはくれなかった。そうこうしている内に先に体が動いたのは心音の方だった。

「会い、たかった......おねえちゃん、会いたかった......!」

 気付けば心音は作詞のお腹に顔を埋めて泣いていた。心音は作詞が思っていたよりも、心配していたよりもずっと、作詞に......姉に会いたがっていた。作詞は安心からか、喜びからか。涙を流して心音を抱きしめていた。

「ありがとう......私もね、私も......あなたにずっと会いたかったの。でも、ごめんね......遅くなっちゃって、ごめんね......」

 作詞はすぐにでも心音を迎えに行きたいのを堪えて、迎え入れてもなんら問題ないであろう環境を整える努力をここ数年続けてきた。念願叶って迎えるこの瞬間の喜びはひとしおのものだった事だろう。明はわざと作詞の事を心音に伝えていなかった。きっとこの方が良かったと考えての事だったが......今はそんな事どうでもいいくらい、尊い光景がそこに広がっている。

「良かったね、良かったね......2人とも」

 明もまた涙を浮かべながら2人を見守っている。願わくばこの2人を包むこの優しいふわふわとした何かが、ずっとずっと2人を見守り続けてくれますように。






 _____出ァった。もウ一度、もゥいちド......。厶かえニィ、行く、かラ......。

 不穏な空気を孕んで、不気味な昏い声は再会を果たした2人に近付きつつあった。

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