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夜を生きる  作者: 八折伏木
夜警団入団編
1/14

日常から

登場人物

ユウ・・・幽夜ユウヤ

ラブカ・・・透鮫トオサメ 愛渦マナカ

レイン・・・霊場レイバ 照陰テイン

先生・・・ユウ達の担任


 目を開けるとそこには地獄の様な光景が広がっていた。

 燃え盛る炎、焼け落ちて崩れた家屋、人々の悲鳴、そして……人の焦げた匂いなのだろうか。異臭が鼻をつく。

 突然目の前に現れた光景に驚きと混乱が同時に押し寄せしばらく思考を止めてしまっていた。

 自分の状態に目が向くまでに時間を要したがどうやら五体満足ではあるらしい。手も足も感覚があった。しかし妙なのが、自らの手足のあちらこちらがまるでモヤに覆われている様な状態になっており輪郭がはっきり視認出来ない。そういえば右目も変だった。ぼやけて視界が悪いのだ。しかしまぁ周りを見渡せば理由は察せる。何かしら怪我をしたのだろう。気絶してしまったせいで記憶が混乱しているのだ。

 とりあえず自分の状態はいい。それよりも何故僕は見覚えのない場所で倒れていたのだろうか……

 周囲を確認しに行こうと思い立ち上がったタイミングで声が聞こえてきた。耳にも怪我をしてしまっているのか、その声が掠れ気味だから聞き取りづらかったからか、内容ははっきりとは聞き取れなかったが何故かその声は自分を呼んでいるような気がした。なんとかその声をしっかり聞き取ろうと耳を傾けると……

「ゆーうやっ!!」

 元気のいい少女の声で幽夜は目が覚めた。

「あんまりお寝坊するといくら優しい先生でもおこられちゃうよー?」

「ああ……ラブカ。おはよう」

「ああじゃないよゆーちゃん。フシギなカオして目覚めちゃって。変な夢でも見たの?」

 夢……そうだ。確かさっきまで何か……身に覚えのない光景を見ていたような……。

「まぁいいや、ぼーっとするのは終わりだよ。時計見てごらん?」

「え、時計……?」

 部屋にかけられている時計を見てやっと状況を理解してはっきり目が覚めた。いつもならとっくに支度を終えている時間だった。

「やばっっ!?」

 急いで飛び起きようとするもそうはいかなかった。僕の上にラブカが乗っかったままになっていたからだ。

「あのー……ラブカ??どいてくれないと僕準備できないんだけどぉー……」

 ラブカはニコニコ笑顔のまま動こうとはしない。それどころかより体重をかけて身動きがとれないようにしてきてさえいる。

「にひひー……私に隙を見せちゃったんだもん、そう簡単にはどいてあげないよー♡」

「い、いやよく考えてよラブカ!?このままだと君も遅刻だよ!?」

「残念だったねゆーちゃん〜〜。私が遅刻ジョーシューハンなのをお忘れかな〜?」

 しまった、そうだった。この子は週3で寝坊する遅刻のプロだった。諦めるかとうなだれていると入り口の方から呆れた様子の声が聞こえてきた。

「……朝から元気だね、君達は」

 入り口付近の壁に寄りかかってこちらを眺めているのは……

「あ、レイン!おはよう!助けて!!」

 タイミング良く来てくれたのはラブカと僕といつも3人で過ごしているレインだった。

「……助ける、とは?僕にはいつも通り仲良く遊んでいるように見えるけど……」

「いや、そりゃ喧嘩してる訳じゃないけどさ……」

「なら、問題は無さそうだね。先に行ってるよ。ユウ、ラブカ」

「後でね〜レイン〜」

 ラブカに手を振りながらレインが少しニヤついているのがチラッと見えた。

「そんな〜……」


「……すみません、先生」

 ラブカに完全敗北して結局遅刻して教室に着いた。先生は割と軽い反応で受け流してくれているが、せっかくの無遅刻記録が途絶えてしまった……。

「まなちゃんはともかく、ゆうくんまで遅刻とは珍しいねぇ……」

 ラブカは隣でむすっとしている。

「もー。ラブカって呼んでって言ってるじゃんせんせー……」

「その為にはまず1週間遅刻無しで教室に来て、ってこっちは言ってあるよ?まなちゃん」

 先生は笑顔でそう答えた。

「そんなのリフジンだー!ムリナンダイだー!」

「あなたにとって無理でも理不尽でもないと思っているから言ってるんだよ、まなちゃん。期間修了までにきっとやり遂げてくれるって先生信じてるんだから!」

 いつも通りラブカの遅刻を受け流しつつ、先生は僕らに席に着くよう促す。うなだれている僕とラブカも席に着いて、今日の授業が始まる。

「さて、今日の授業はもう少しで期間修了になる君たちの為に改めて基礎的な事を確認していくよ〜」

 期間修了。普通の学校では卒業、って言うんだっけ。僕はまだ14才だけど、レインとラブカは15才で3人とも中学3年生という階級にあたるらしい。僕達が今過ごしているこの“ポラリス”という施設、もとい会社では僕らのような一般人とは少し事情が異なる子供達を保護して育ててくれている。期間修了というのはここでの「教育の一区切り」を意味する。

「まずはそうだねぇ、前提からいこうか。君達3人のように身体の一部に他の人達とは違う“力”を宿している人を一般的には何と呼んでいるかな?」

「は〜い!ハツゲンシャ!」

「まなちゃん正解!ちゃんと漢字で書けるようになった?」

「え」

 ラブカがえぇ〜〜とぉ……と唸っているのをニコニコしながら先生は見ていたがハイ、時間切れだよ〜と言いながらホワイトボードに“発現者”と漢字で書いてみせた。

「発現者と呼ばれる君達や私のような人は生まれ持ち、身体のどこか一部で不思議な力を扱う事が出来る。そしてそんな人達が力の使い方を誤らないように、今こうして授業をしている訳ね」

 言いながらも先生はボードに何か図を書いている。

「じゃあ次はこれ。世間一般にも勿論発現者の事は知られているけれど、いざ社会を見渡してみるとそんなに姿を見かけません。何故でしょう」

 レインが手を挙げる。

「事故が起きないよう“政府機関”によって『発現者による力の行使に関する法案』が制定され、厳しく管理されているからです」

「うん、完璧だね。流石レイン君!」

 書かれていた図の中で空欄になっていた政府機関とその法案についての部分が埋められた。

「こうした管理の下で力の行使が認められているから、発現者自体は探せば普通に居ても力を使っているところは見かけないって事ね〜」

 次は発現者と政府機関の間に矢印が引かれた。

「ではそうした管理下で力の行使を認めてもらう為には何が必要か、ユウ君に答えてもらおうかな?」

「えぇっと……『発現届』の提出、それからそれに基づいた『発現能力使用許可証』が必要になります」

「よーし、ちゃんと両方言えたね!君達もこれから社会に出るよーって時には必要になるから覚えとくんだよ〜」


 ……とまぁ、こんな感じでの授業はいつも午前までで午後は自由時間になる。僕は大体何をするでもなくブラブラしているのでよくラブカにどこかしこに連行されているし、レインはいつも本を読んでいる。

「ゆーちゃんはさ、修了したらどうするの?」

 いつも通り街中をラブカと一緒にぶらついていると、ふいにそう聞いてきた。

「んーー……」

 正直あまり考えていなかった。ポラリスでは修了後ここに残って仕事を手伝うか、社会に出て暮らすか、選択肢は自由に与えられている。例えば僕らの先生はポラリスに残って会社に貢献する道を選んだ人なのだろう。

「逆に決めてるの?ラブカはさ」

 ラブカは首を横に振る。

「んや?だからゆーちゃんに聞いてるの」

「……え?」

「実はレインにも聞いたんだけどさ、アイツはポラリスで働くって言ってたの。だからもしゆーちゃんも残るって言うならアタシもそーしよーかなーなんて」

 思ってたりね、と少し照れくさそうにこちらに笑顔を向ける。

「そっか」

 向けられた笑顔に少しドキッとしてしまいちょっと顔を背けながら曖昧な返事をしてしまった。

「僕も、ちゃんと考えておくよ」

 ラブカは何も言わず笑顔のままうんうんとうなずいてくれた。その後は特にその話題には触れず、そこら辺を適当に歩き回ってポラリスに戻ろうということになり帰路についた。

 だけど、その途中である騒動を追いかけることに。この事がきっかけで、僕はこの後の進路をポラリスに決める事になる。


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