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こちら、モンスター心療内科  作者: 泉 佑理
ミズティラ海岸のサハギン
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ミズティラ海岸の娘

むかしむかし ミズティラ海の海岸近くの町に とてもうつくしい娘がいました


そのうつくしさは あさひのようにかがやく瞳 風にそよぐよぞらの黒髪 そして ゆきをおもわせる白い肌


町のだれもが振り返るうつくしさでした




でも 悲しいことに娘の父と母は 早くになくなってしまい まずしい生活をおくっていました


料理をすればこがし そうじをすればバケツの水をこぼし かえって家をよごしてしまう始末


なにをしてもうまくできない娘は お金をかせぐ手立てもなく 町の近くにある海岸へむかい 打ち上げられた道具やふくをひろって それを売ってくらしていました




ある日のこと 町の人々が「がやがや」と にぎやかなことに気づきました


「なにかしら」


ふしぎに思った娘は 町のおばあさんにたずねてみました


「どうやら お城の王子さまがないしょでおよめさんをえらびに来ているらしいよ 町にいるってうわささ」


それを聞いた娘は 顔に手をそえて言いました


「もしかすると わたしもおよめさんにえらばれるかしら」


「そのふくじゃあねえ むずかしいんじゃないかい?」


おばあさんのいったとおり 娘のふくはボロボロです


これではうわさの王子さまに見向きもされません




あたらしいふくを買うお金も 自分でぬいものをすることもできず 娘はしくしくと悲しみながら海岸へ向かいました


「今日もわたしは海岸でゴミひろい 同じくらいの女の子はみんなきれいなふくであんなにはしゃいでいるのに」


なみだをながしながら 砂浜におちているフライパンや鏡をひろっていると 海のほうでキラリとかがやくものを見つけました


「あれは なにかしら」


ふしぎに思った娘は 「すこしだけなら」と光るものをおいかけて海へ入っていきます


もう少しで手がとどくというところで ぐいっと足をつかまれ なにかに海の中へと引きずり込まれてしまいました



海のかいぶつ サハギンです



足をつかんだものの正体を知って 娘はおそろしさで声をはりあげました


うつくしいたいようのような瞳が なみだでくもり 助けをもとめてさけびます


「だれか たすけて」


けれど だれも娘の声に気づかず どんどんとサハギンは娘を連れて海の深くへと もぐり込んでいきます



娘がもがいていると バチリとそのサハギンと目が合いました

その姿を見た娘は 体がふるふるとふるえはじめます



くすんだコケのような緑のからだ 肌にはホクロのような点々がたくさん 

その両手足には大きく広がる水かき 耳の部分にひらひらとぶきみに動くひれが


大きくひらいた口には するどく かんたんに娘の肌を切りさくことができそうな歯が びっしりと並んでいます



娘はそのおそろしい姿におののき さけびました



「おぞましい ばけものだわ だれかはやくたすけて」



しかし その声は波にのみこまれ 海岸にはとどきません


娘をつかみ サハギンはさらに深く 深く 海の底へともぐっていこうとします


息もできず 娘の目の前がうすれてきたそのとき 


「ザッ」


剣がサハギンにつきささる音がしました


サハギンはびっくりして手を放し 娘はその場にふわりと浮かびあがります


そのまま娘はだれかに抱きかかえられ 海の上へ引き上げられました




「大丈夫かい?」


その声に 娘は目をあけました

そこには とてもうつくしい男性がいました


おひさまの光をあびた金色のかみがキラキラとかがやいていて まるで絵本にでてくる王子さまのよう


そのやさしいほほえみに 娘はみとれて 何も言えませんでした


「王子! 突然とびこむなんて あぶないことを」


船にいた兵士たちが あわてて王子さまに声をかけました


王子さまはにっこりわらってこたえます


「ははっ だれか溺れていたら ほうっておけないだろ?」


そうです そのうつくしい人は 本当にお城の王子さまだったのです


王子さまは娘をやさしく船へとおろし 心配そうにたずねました


「君 大丈夫だったかい? こんなにきれいな顔をした子が あんなこわい目にあうなんて……」


王子さまのやさしい声に 娘はぽっと顔を赤くしました




その後 娘のまずしい暮らしをきいた王子さまは 彼女をお城にまねきいれました


お城でのくらしは 娘にとって夢のようでした


はじめは きんちょうしていた娘も しだいに 王子様のやさしさに心を開いていきました


毎日王子さまと散歩したり おしゃべりしたりするうちに 二人はしだいに心をかよわせていきました




ある日 王子さまは ほほえみながら言いました


「君が笑うと まるで心がぽかぽかとあたたかくなるね」


彼もまた 彼女のえがおに心をうばわれたようでした


娘は てれながら こうこたえました


「わたしも 王子さまの ゆうきに すくわれました」




やがて 王子さまは娘に言いました


「君と一緒にいると とても幸せだ 僕とけっこんしてくれないかい?」


王子さまはそう言って 娘に手をやさしくにぎります


「君のようなうつくしい人に 僕のとなりにいてほしいんだ」


娘はよろこんでうなずき 二人はすぐにけっこんすることになりました




けっこんしきは 町の人々もまねかれる大きなパーティでした


お城からは 娘にとてもすてきなドレスが贈られました



うつくしい二人のけっこんに 町の人々はうれしそうに笑顔をうかべ みんなでお祝いしました




やがて 二人のあいだには男の子がうまれました


その子は母のうつくしさと 父のゆうきある心をうけつぎ 町のみんなに愛されました


娘と王子さま そしてその子どもは ずっとしあわせにくらしました 




絵本「ミズティラ海岸の娘」より

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