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戦い

第一部、第七話。

「タクミくん」

「潜ります」

「いいの、かね」

「はい」

「リコちゃんのことは」

「潜らなきゃいけないんです」

「そうか……」

「リコにも許可は取りました」

「私としては嬉しい。だが……」

「僕たちの利点、ですか?」

「ああ」

「なにもないですよ」

「ならなぜ」

「……始めてしまったことは、最後まで責任と覚悟を持ってやる」

「君は……」

「違いますよ。そんな殊勝なことじゃありません」

「うん?」

「僕たちが、始めてしまったんです」

「うん……?」

「終わらせないといけません」

「よく分からないが、決断してくれたのなら」

「はい」

「目指すは、ナルコシンクの撲滅。ただそれだけだ」

「はい」

「無理せず、すぐに帰ってくるんだよ」

「はい」

「それでは始める」

「……」

 僕は、帰ってこないつもりだった。

 意識が、沈んでいく。


「タクミくん。おかえり」

「あっ、カオリ……さん?」

「カオ『ル』だ」

「ごめんなさい」

「気にするな。名前にはこだわりがあってな」

「特別なんですか?」

「ああ。特別だ」

「そうですか……」

「それはそうと、タクミくん」

「はい?」

「敵だ」

「えっ!?」

 よく見ると、遠くから黒い人影がひとつだけ、飛んでくる。

 ひとつ、だけ?

「親玉だな」

「そうなんですか?!」

「ああ」

 カオルさんはめずらしく警戒している。

 あんなに強いのに。

 影が近くで停止した。

 刀みたいなのを持ってる。

「帰れと言っただろう」

「帰すわけにはいかないんだ」

「お前たちか。彼を誘導し、破滅をもたらそうとするのは」

「キミにとっては、破滅かもな」

「ああ。なんとしてでも阻止させてもらう」

 会話が、できるのか。

 それに、なんだろう。

 すごく、悲しそうに見える。

 気のせいだろうか。

「カオルさんっ!」

「そこで見ていてくれ」

 影がカオルさんに斬りかかる。

 それを避け、カオルさんも斬りつける。

 でも、ぜんぜん当たらない。

 物凄い読み合い、斬り合いだった。

 お互いまったく疲れを知らないみたいに、斬りつけては避け、避けては斬りつけてる。

 危ない、けど、なんだか不思議だった。

 これ、絶対お互いに当たらない。

 そう直感してた。

 なんだろう、何かの力が作用して、当たらないようになってる気がした。

「タクミくん!」

「はいっ!」

「……どう思う?」

「なにがですっ?」

「私はこの敵に勝てると思うかっ?」

「はい!」

 嘘だった。

 負けなくとも、勝てない。

「嘘はよくないぞ!」

「……なら、どうすればいいんですっ?」

「正直に言おう。こいつは、キミにしか倒せない」

「えっ!?」

 こんな物凄い動きをしてる敵なんか倒せるわけない。

「む、無理ですよ!」

「自分を信じろ!」

「えぇ……ん?」

 その時、左手があったかくなった。

「そうだ! それでいい!」

「わわっ!」

 僕の左手の手のひらから、何かが生えてくる。

「うわわっ」

 白い刀が、目の前に浮かんでる。

「それを取れ!」

「う、ううん……」

「いいかっ! 自分と戦えるのは自分しかいない! 自分のことを本質的に正しく理解できるのは自分だけなんだ!」

「それって、どういう……」

「自分と戦え! タクミくん!」

 白い刀を、取る。

「うわ……なに……これ」

 なんか、自信が満ちてくる。

 これならいけるって、そう思えてしまった。

 影に、斬りかかる。

 かする。

「くッ……お前、僕を倒すことがなにを意味するか、分かってるのか?」

「分からない」

「なら、やめろ!」

 影が一閃する。

「でも、なんだろう」

 僕が横に払う。

「なんだよ」

 影が縦に切り払う。

「もう、充分だよ」

 僕が斜めに斬る。

「ッ!」

 二人とも飛び退く。

「馬鹿なことを言うなよ。まだ、まだこれからじゃんか」

「リコは充分生きてくれたよ」

「ふざけるなッ!」

 影が物凄い勢いで飛びかかってくる。

 刀と刀がぶつかる。

「リコだって生きたいと願ってる!」

「いいや。リコはもう覚悟してるよ」

「そんなわけないっ!」

 影が刀を振り払う。

「リコは……リコ……は……」

 もう一度斬りかかってくる刀と刀が、またぶつかる。

「リコは優しいやつだよ」

「クソッ!」

「自分のせいで誰かが傷つくことを、許さないはず」

「イヤだ……イヤだよ……」

 影の目の辺りから、はっきり涙が流れている。

 泣きながら、斬りかかる。

「僕はどうなるんだよッ!」

「時間かかるだろうね。でも、受け入れるしかないじゃんか」

「そんなの……そんなの……」

 もう、お互い、斬りあうのはやめていた。

「君が僕なら、分かるよね?」

「分かってるから、いやなんだよ……」

「僕はリコのことを、愛してる」

「ううッ」

 影が、刀を落とした。

「……斬れよ」

「うん」

「自分すら斬れないやつに、リコは殺せない」

「うん……」

「……」

「ごめんね」

 僕は、影を斬り伏せた。

 切り口から、影が砂みたいになって空中に舞う。

 その砂が、僕の体に入ってくる。

「ごめんね……」

『もう、決めたんだね』

 自分の中から声がする。

『うん』

『しょうがない、な……』

『ごめん』

『謝らないでよ』

 それ以上は、もう声は聞こえなかった。

「タクミくん。よくやった」

「はい」

「目的、思い出せたか」

「はい」

「リコちゃんの願いはこの世界の真ん中で眠ってる」

「そう、ですか……」

「そして、あのかたもそこで待ってる」

「あのかたって、僕に語りかけてくれたひと?」

「そうだ。だけど、人じゃない」

「え?」

「神様、に、近いかもな」

「かみ、さま……」

「さあ。会いに行こう」

「はい……」

 僕とカオルさんは、僕の影がやってきた方向に歩き始めた。

 この世界の中心。

 「あのかた」と「リコの願い」が待つ場所に。

 周りは、草原に囲まれてる。

 遠い遠い場所には、圧倒的な存在感がある山がそびえてる。

「カオルさん、あの頂上が見えない山って……」

「あそこが世界の中心に繋がってる」

「登るんですか?」

「ああ」

「時間かかりそうですね」

「大丈夫だ。迷い人が助けてくれる」

「まよいびと?」

「この世界に入ってしまった人たちだ。君の世界から来たんだろう?」

「どうしてそれを」

「ははは。私は神の使いだぞ? そのくらいのこと」

「なんか凄いですね」

「それくらい、一大事ってことだよ」

「……」

 いまだに、僕とリコの個人的な理由が、世界全体に影響を及ぼしてるなんて、信じられなかった。

「君たちは、特別だ」

「僕もですか?」

「もちろん」

「はあ……」

「普段は静観してる世界が、君たちのために動いたんだ」

「そうなんですか」

「もっと驚いてほしいよ。私ですら始めてのことなんだ」

「カオルさんも、ですか」

「そうだよ」

「僕たちの願いは……罪深いですよね」

「どこが」

「カオルさんは、そう思わないんですか?」

「思わない」

「なんでですか」

「なんで世界が動いてくれたのか。それを考えれば分かる」

「分かりません」

「仕方ない。時間はある。説明するか」

「お願いします」

「世界は中立だ。どこまでいってもな。無限とも思える生命サイクルをただ循環させているだけだ」

「ふむ」

「だが、そのサイクルに予期せぬエラーが発生した」

「エラー、ですか」

「そうだ。サイクルに抗う者が現れた」

「リコですか」

「その通り。サイクルに抗うことは、激流に逆らうのと同じ」

「はあ」

「だが、彼女はそれに抗い続けた。凄まじい力だよ」

「……」

「その原動力は、キミだ」

「僕、ですか……」

「自分では言いづらいだろうから言ってやる。リコちゃんはキミと生きたいと願うあまり、生命システムを危険にさらしてる」

「そんなことが……」

「生命の流れを川とするなら、リコちゃんは太陽とでも言うのかな」

「たい、よう」

「どんなに小さくても太陽は太陽だ。川の水はそのうち干上がる」

「循環が、途絶えるってことですか」

「うん。一度枯れればまた湧き上がるまでに相当な時間がかかる」

「リコは、知ってるんですか」

「知ってたらどうするか、キミも分かってるんだろう?」

「とうぜん、手放すはずです」

「そうだよな。だが気づきようがない。そんなこと、人間の知覚レベルでは把握しようもない」

「じゃあ」

「だから、キミが来たんじゃないか」

「それって!」

「あのかたがキミをここに呼び、キミを導き、選んでみろと言っている。本当に、変わったかただよ」

「かみさまって、そんなに変わってるんですか」

「変わってるどころじゃない。この状況を楽しんでる節もある」

「うわ……」

「その気持ちはわかる。だが、あのかたを我々の物差しではかる事はできないと思ったほうがいい」

「そうなんですね……」

「さ、そろそろ山の麓だ。会ったら直接はなしをしてみるといい」

「えっ!?」

 本当だ。いつのまにこんなに移動したんだろう。

「あのかたが移動させてくれたんだろう」

「は、はあ……」

 かみさまってずるいな。そう思った。

 見上げても見上げても頂上が見えない山が、佇んでた。

 これを登りきったら、僕は決断しなきゃいけない。

 リコと、お別れしなきゃいけない。

 風も空気も地面も空も、なにもかも普通じゃないこの世界で、僕の気持ちだけが、ただそこに有る感じがしてた。


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