第一話【気付きたくない】
「俺は彼女が出来ないんじゃなくて作らないの!!」
男友達との雑談の中で俺は大きな声を出して立ち上がった。
高校2年の春、世間では出会いの季節だとか、新しい出会いだとか言われているが、ここいる男達には無縁の話だ。なぜかというとここで集まって話している男達は「陰キャ寄りの人」だからだ。特段暗くて話さない訳でもなければ陽気な訳でもない。でもたくさん話す訳でもないから彼女など出来るはずがない。
「はぁ、せっかく癒月は身長高いし、顔も悪くはないのに、性格がなかなか捻くれてるからなぁ・・・」
褒めたと思ったら人格を否定してきたのは佐藤孝宏、去年も同じクラスだった奴で、この男達の中では女子との関わりが多い。でも結構ぽっちゃりとした体格のせいなのか先には進展しないらしい。
「いや、身長高くても癒月は猫背だし、ガリガリだしなぁ?」
「名前は可愛らしいのに性格が駄目だし・・・」
「弱い奴ほどなんとやらってよく言うし」
孝宏の言葉を皮切りに、ほぼ悪口じゃないかと思うような言葉が飛び交った。まーじでこいつら何様なんだ??
「お前ら彼女出来たことないくせに偉そうに─────はッ!?」
「どうした??」
言葉を言いかけて止まった俺に困惑したのか孝宏が声をかけてきた。
「やばい!!今日部活があった!!」
時計を見ると15時58分。あと2分で始まってしまう・・・!
「じゃあ俺行くわ!!また明日な!!」
孝宏達に早口で別れを告げ、教室を飛び出して急いで部室へ向かった。
「セーーーーーーフ!!!」
16時になると同時に部室へと駆け込むことに成功したが妙に静かだ。
「まだ誰も来てないのか?」
不思議に思っていると某トークアプリの着信音が鳴り出した。
『もしもし?先輩走ってどこ行こうとしてたんですか?』
電話の主は部活の後輩の秋原桜だった。
「部活に遅れると思って走って来たんだけどみんなどこいる?」
そう言うと桜はいきなり笑い出した。
『今日部活ないですよ?昨日伝えたと思うんだけどおばかさんだねw 』
「そうだっけ・・・?とりあえず笑うのやめよっか?」
桜は入部した当初はおとなしい子だったが、最近は俺に対して煽ってきたり、子供扱いしたりしてくる様になってきた。まぁ距離があるよりはいいんだけどなんか複雑・・・。
「んーじゃー帰ろうかな、20分くらいしたら電車来るだろうし」
そう言って電話を切ろうとすると、切る直前に
『じゃあ一緒に帰りましょ!!先に駅で待ってます!!』
と、なぜか帰る約束を取り付けられてしまった。
「あ、電話切っちゃっ・・・」
仕方がないと駅へと向かうことにした。
「んー、最近桜がぐいぐい来るようになってきたなぁ、電車の中でもくっついてきたりしてくるもんな・・・、これってもう好─────」
そこまで思いかけた所で考えるのをやめた。
そんなことはない、ただ距離が近いだけ。きっと他の人にもそんな感じのはずだ。自惚れるな、俺は恋愛に向かない。
俺を好きになる人なんていないんだから。
「今まで心から好かれた事なんてないしな、ありえんありえんw」
軽いのか重いのかよく分からない足取りで駅へと向かった。