プロローグ1
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公演が終わった後の楽屋にて、一人の女優が鏡の前に座って舞台用の派手な濃い化粧を落としていた。
自分の鼻の形を気にしているのか、化粧を落としながら何度か鼻に触っている。
完全に落とし終わると、化粧に隠されていた可愛らしい顔立ちが現れた。化粧でかなり化けるタイプだ。
髪の毛をほどくと、ようやく一息ついたというように息を吐いて長い赤茶の髪を梳き始める。
彼女の周りにはファンからの贈り物である花束や綺麗に包装された箱が積み上がっている。
「姉さん! お疲れ様です!」
バァンっと扉を開けて団員の少女が入ってくる。下っ端で雑用係をしているらしく、髪は肩につかない程度で動きやすいようなシャツとズボン姿。
女優はこの少女の姉というわけではない。少女が勝手に「姉さん」と呼んでいるだけだ。
「ありがと~。でも、着替え中かもしれないから入る前にノックだけはしてね。このドレスは一人で脱げないから今回だけはいいけどね」
女優はそんな活発な少女を怒ることなく、迎え入れる。
「はぁい! すみません! 姉さん、今日の公演も最高でした! 姉さん、とっても綺麗でしたっ! この国での公演は主役がぎっくり腰になってから姉さんが代役でしたけど……初めての主役でしたから、これでまたファンが増えましたねぇ! あ、もちろん姉さんが悪女役をやっていた時も熱心なファンはいましたけど! わぁ、今日もファンからの贈り物がこんなに!」
少女は部屋に置かれた贈り物の数々を見回して歓声を上げる。
「今回は運が良かったのよ。それで、何か私に用事があったんじゃないの?」
化粧水をペタペタ塗っている女優の言葉で、少女は慌てて思い出したようにポケットから手紙を元気よく差し出す。
「姉さんの恩師から早便で手紙が届いたんで! 急ぎかなって持ってきました!」
「まぁ、それはありがとう。助かるわ」
「へへっ」
女優は手紙の差出人を確認すると、驚いた表情ですぐに封を切って読み始めた。女優の顔色がみるみるうちに変わり、琥珀色の目が大きくなる。
「姉さん?」
「緊急事態だわ! 公演は今日で終わりだったわね。私、今から里帰りするわ!」
「えぇぇ、姉さん!? 何があったんです?」
「私の恩人が危篤なのよ!」
「え、それは大変! って姉さん、そんなドレス姿で出て行ったらだめです! まだファンが出待ちしてますから!! 手伝うので着替えてください! 団長やマネージャーにも許可を取らないと!」
公演の派手なドレスのまま出て行こうとする女優を少女は引き留め、着替えを手伝う。
さらに少女はカバンにぽいぽいと手際よく女優の衣類・下着を詰め込んでいく。脱いだ服をそのままに着替え終わった女優は、すぐに楽屋を出て行こうとする。
「あ、待ってくださいよ姉さん! ほら、着替えも準備しました! こんなに夜遅くっちゃあ馬車も手配できませんよ! お金も持たずにどうやって里帰りするんですか! アタシが今から走って馬車を明日の朝一番で頼んできますから! 聞いてますか! カミラ姉さん!」
少女は女優の後を叫びながら追いかける。
そう。今やこの劇団で人気女優となった彼女の名前はカミラ。ただのカミラだった。