#3
続きです。よろしくおねがいします。
「本当に私たちを助けてくれるの?」
頭の中で誰かの声が響く。一樹は辺りを見回すも、そこには暗闇しかなかった。頭がぼんやりと機能し始める。
(あれ?確か森の中で俺は・・・。どこだここ?)
「ねぇ、助けてくれるの?」
少女のような声がまた一樹に訊ねる。
「誰なんださっきから!助けてほしいのは俺の方だ!」
「じゃあ、あの時の話は嘘だったってこと?」
「あの時ってなんだ?まずここはどこなのか教えてくれないか?」
「ここはあなたの心の中よ。自分の心なのにわからないなんて、変なの~。」
「俺の心?じゃあ、俺は死んだわけじゃないのか?森の中で俺はあの生き物にやられて・・・。」
「う~ん、まあ死んではないかもね。こうして私と話せてるんだから。」
「曖昧だな・・・。で、あの時ってなんのことだ?というか君は誰なんだ?」
少女は少し笑って答えた。
「質問が多いなぁ。私はエレルミエ。そして君は現世で私と契約した。『私たちを助ける』って。」
混乱したように一樹は頭を掻いた。
「待て、現世ってことはさっきの森みたいな所は別の世界・・・異世界ってことか?」
「そう。あなたがいたのとは別の世界。」
「へえ!実際に異世界ってのはあるんだな。俺も魔法とか使えたりするのか?」
一樹は少し嬉しそうに言った。ファンタジーものはかなり好きだったからだ。
「使えるよ。もちろん条件はあるんだけど。(のんきだなあ・・・)」
「条件ってなんだ?」
「条件は二つ。一つは私達に協力すること。私の力がないと、あなたは魔法を使えないからね。二つ目は服の着用が必須なこと。」
「服?魔法の服が必要ってことか?」
「まあ、魔法の服があればそれに越したことはないけど、普通の服でかまわない。ただ服の耐久性は大事かな。」
「つまり服さえあれば魔法が使えるってことか。魔力とかそういうのは関係なしに。」
エレルミエは少しため息をついてから、
「ただ、あなたが転生した世界・・・レクソニアでは、服を手に入れるのが大変かもしれない。」
「服を手に入れるくらい簡単な気がするけどな。なんでだ?」
「それは・・・」
エレルミエが言いかけた途端、一樹の視界にパーッと白い光が広がった。目の前にエレルミエらしい姿が見えた。長い金髪の上には先端が欠けた金色の王冠をかぶり、所々に雷のような模様の入った銀の鎧を身に着けて、手には金色の錫杖を持っていた。着ているものは厳ついが、顔は声の通りの少女だった。
「とにかく服を手に入れること!わかった?」
「お、おい!まだ訊きたいことが・・・!」
そう言った途端、世界が完全に真っ白になって、そのあと真っ暗になった。そして目を開けると、そこには空と木々が見えた。
「目が覚めましたか?」
低くて渋い声が横から聞こえてきた。一樹が視線を声の方にやると、そこにはすっかり裸にされたさっきのおじさんが膝を抱いて座っていた。筋骨隆々で体の所々に傷痕がある。
「あ、さっきのパンツ綱引きの・・・じゃなかった!さっきはどうも。」
「いや、私はなにもしていません。自分の下着すら守れなかった男です・・・。」
「ご、ご愁傷様です・・・。」
渋い話し方と、全裸でちょこんと座っているそのギャップで、一樹は笑いそうになった。
「しかし、あなたもすっかり脱がされてしまいましたね。」
「えっ・・・」
一樹は目線を下にやると、そこには一糸まとわない裸の体があった。一樹は即座に股間を手で隠して座った。
「せめて葉っぱで隠してあげようと思ったのですが、風で飛んでいってしまうんです・・・すみません。」
「ま、まあ・・・男同士ですし。」
そうは言いながらもやはり恥ずかしくて、一樹は少し頬を赤らめた。それに自分のは存分に見られたのに、こっちは見ていないのがなんだか悔しかった。
(いや、別におじさんのを見たいとは思わないけども!)
「それより、俺達以外には誰もいないんですかね?さっきの緑色の奴ら(ゴブリンみたいな)以外に。」
「私もまだこの森をちゃんと探索出来てないので、詳しいことはわかりません。ただ人の気配はないですね。」
「そうですか。あ、まだ自己紹介がまだでしたね。俺は一樹っていいます。羽田一樹です。」
「私は・・・レオン・ラインハル・・・」
「嘘つけい!」
(やべ・・・ついツッコんでしまった。)
「す、すみません・・・。けど日本人ですよね?(顔濃ゆいけど・・・)」
おじさんは顔を赤らめて、少し間を置いてから小さな声で答えた。
「世良・・・世良太一です。」
「世良さん・・・ですか?よろしくです。というかなんで嘘の名前を?
」
「い、いや・・・せっかくの異世界なんで、かっこいい名前にしようかと・・・すみません。」
「気持ちはわかりますよ!俺も新しい名前考えればよかった。(急に変な嘘つくからビックリしたわ。)それよりここが異世界だってご存知なんですね?」
「ええ、ここに来る前・・・といっても記憶は曖昧なんですが、異世界に転生する契約をしました。」
「魔法のことについては覚えてませんか?」
「魔法ですか?いかにも異世界らしいですが、思い出せないです。魔法が使えるんですか?」
「はい。ただ、魔法を使うには服が必要らしいんです。」
「服ですか・・・。」
魔法以前の問題だった。
「とりあえず、探索してみませんか?ツタとかがあれば下着位は作れそうですし。」
「そうですね。」
股間をおさえた二人組が森を行く・・・。幸いなことに寒くはなかった。