#1
1話です。よろしくお願いします!
羽田一樹は目を覚ますと、様子が変なことに気付いた。
(なんだ・・・体が動かない。)
目を開けようとしても、まぶたが開かない。体全体がだるくて重たい。しかし温かい粘液に包まれているような感覚があり、なんだか心地がよかった。呼吸も問題ない。
(これって金縛りか?金縛りってこんなに気持ちいいんだな。)
のんきなものだが、一樹はそのまま二度寝に入ろうとする。普通はもっと動揺しそうなものだが、深夜までゲームをやっていて、とにかく一分でも長く眠っていたかったのだ。それにこの温かくて無重力のような感覚は、とにかく眠気を誘う。
それからうつらうつらしていると、腕と足が段々動かせるようになっているのに気付いた。体のしびれが抜けていくような感覚。
(ふぁ~、気持ちいいなぁ~)
温かい粘液の抵抗を感じながら、ゆっくりと手足を伸ばしていく。すると足の先に何かが当たった。
(ん?なんだこれ。)
そのまま足を伸ばしていくと、その足に当たったものはゴムのように、足先と一緒に伸びていくのを感じる。
ブシュン!
突然、そのゴムのような感覚がなくなり、くぐもった音が体に響いた。
ズルルルルルルル・・・!
すると、麺をすするような音と共に、体が滑り落ちていくのを感じた。
(な、なんだあああ!)
急なことにさすがに驚いた一樹は、かすかに開くようになったまぶたを開けて、なんとか周囲の様子を見ようとする。すると視界に光が差した。
(うぉ!まぶし!)
と思ったのもつかの間、ドスン!という音と共に、尻に鈍痛が走った。
「痛ってえええ!何なんだよ!」
痛む尻をさすりながら周囲を見渡すと、そこには鬱蒼と茂る草と木々があった。見知らぬ光景に一樹は自分の目が信じられず、目をこすったり、頬を叩いたりするものの、やはり夢ではなく現実だった。
「どこだ・・・ここ?ってか俺の部屋は?」
一樹は寝る前のことを思い出そうとした。いつもと同じように二時か三時くらいまでゲームをして、それからベッドに入ったはずだった。目を覚ませばいつもの天井か、散らかった部屋が目に入るはずだ。しかし着ていたのはいつもの寝間着ではなく、黒のTシャツにカーキ色のハーフパンツだった。靴も履いていた。
「いや待て、俺は昨日・・・くそっ!思い出せない・・・頭いてえ。ってかなんだこのヌルヌル。」
全身についた無色の粘液はまだ微かに温かかった。さっきまでこの粘液に包まれて寝ていたのだろう。あの時の快適さとは打って変わって、今やこの粘液はただただ不快なものに様変わりした。
「あ~気持ち悪い。最悪な目覚めだ・・・。」
なんとなく上を見上げると、そこには今にも自分を食べようとするように、何かが大きな口を開けていた。
「うわっ!」
驚いてすぐそこから身を翻し、その口の正体をよく見ると、それは大きな植物の管の先端だった。下の方は破れた紙みたいに、ぽっかり口を開けていた。今までみたことのないくらいに大きな植物だった。まるでウォータースライダーみたいだ。そしてこの管の元をたどっていくと、これもまた見たことがないくらい大きな樹がそこにあった。見上げると首が痛くなるくらいに高く、太さも桁外れな樹だった。
「なんだこのでっかい樹。ホントどこなんだここ・・・。」
自分が落ちてきた管の横を見ると、もう一つの管が口を開けていた。近づいてみると地面に同じような粘液が落ちていたが、もう冷たくなっていた。
「俺以外にも誰かいるのか?」
アァッーーーーーーーーーーーーーー!?
突然森の奥から叫び声が聞こえた。
「な、なんだ!?」
いきなりの叫び声に驚きながらも、自分以外の人間がいることに少し安堵した。だがあの叫び声からして、危険な状態に陥っているのは間違いない。慎重にしかし急いで叫び声の方に向かった。
声のした方向に近づくにつれて、だんだん色々な声が聞こえてきた。
「グガ!」「離せ!」「グゲゲ!」「なにするんだ!」
どうやら何人かで小競り合いをしているようだ。
(何人かいるみたいだな・・・。危険な奴らだったらどうしよう。)
声がだいぶ近くなってきたので、一樹は身をかがめて音を立てないように、低木に身を隠した。どうやらこのすぐ先で争っているようだ。
「ああん!」 「グゲゲ!」 「それはだめ!」 「グゲ!」
(一体何が起こってるんだ・・・。)
慎重に草をかき分けてみると、そこでは小さな緑色の人間(?)のような集団が、もうほぼ全裸に剥かれたおじさんのブリーフ・・・ファイナルブリーフを、引っ張って奪い取ろうとしていた。
(なにこの状況・・・?)
一樹は口を開けてただ眺めることしか出来なかった。