魔人の狂想(9)
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「ついに……この時が来てしまった……」
俺は、浴室の中で装備メニューを開きながらぽつりとつぶやいた。
服を脱いで風呂に入るということは、昨日もやった。
しかしそれはあくまで、お姉ちゃんに強引に服を脱がされてのこと。自らまた裸になるのでは、抵抗感が違う。
しかし、いつまでもそうは言っていられない。
今日は気温も高くていっぱい汗かいたし、何よりお風呂に入らないと、きっと明日は体中気持ち悪くて仕事に支障が出る。
「すぅ……はぁ……」
俺は、一度心を落ち着かせるべく深呼吸をして、忘れ物はないか確認する。
ストレージの中には、クロエお姉ちゃんのお下がりの寝巻きと下着が全て入っていたし、目の前の桶の中には中庭の井戸から汲んできた水が入っている。
もし足りなくなったとしても、昨日取得した魔法スキルから作った《ウォーターボール》の魔法があるから多分大丈夫だろう。
「……」
ゴクリ、と生唾を呑む。
さて、いよいよ風呂に入らない理由を模索して時間を潰す作戦も難しくなってきた。
どちらにしろ、最終的にはやらなきゃいけないのだから無意味な足掻きだが……。
(これは俺の体だ! だったら俺が見ても何も悪いことじゃない!)
自分に言い聞かせるように心の中で叫び、意を決して全装備解除のボタンをタップする。
「……っ!」
一瞬、淡い光に黄色の給餌服が包まれ、眩しくて目を閉じる。
素肌に少し湿り気を帯びた冷たい空気がふわりと触れる感触がして目を開けると、そこには人形のように綺麗な少女の体が映っていた。
「……」
お尻じゃない方の穴が、少しだけキュッと締まるような感触を覚えると共に、心臓の鼓動が少しだけ早くなるのを感じる。
しかし俺はそれを無視して桶にかけられたタオルを手に取って、体を洗い始めた。
こういうのは考えたら負けなのだ。
俺は比較的無心に近い状態でさっさと体を洗い、髪を洗い、シャンプーもリンスもコンディショナーもないので、代わりに頭皮を指の腹で念入りにマッサージした。
女の子にとってデリケートなところももちろんしっかり洗ったが、詳しい描写については控えさせていただこう。
ただ一つ付け加えるとすれば、そこに指を入れるのにはかなりの勇気を振り絞ったということだけは明記しておく。
それから紆余曲折の試練を乗り越えた俺は、体を完全に乾かして服を着替えると、一直線に自分の部屋へと舞い戻るのだった。
(女の子の体って、こんな気持ちいいんだ……。
男の時とは全然違う……)
──翌朝、謎のシミがシーツにできていたが、それができた経緯については、各々の想像に任せることにしよう。