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魔人の狂想(6)


 6


 しばらくそうやってアーツやステータスの改造をしていると、不意にコンコンと扉がノックされるのが聞こえてきた。


 開けてみればそこにはマルコさんの奥さん──ギルダさんというらしい──がいて、『ねぇ、一緒にお茶をしないかしら?』と誘ってくれた。


「マーリンさんは、冒険者なのかしら?」


 運ばれてきた茶菓子がなんだ、これはどこどこのお茶だ、なんていう他愛もない話から始まって、マルコさんを助けたお礼を言われたのち、そういえばと思い出した様にギルダさんが口を開いた。

 ちなみにマーリンというのは、俺がゲームだった頃から使っていた名前だ。

 今回も流用させてもらっている。


「あー、いえ、まだ登録してないので違いますね。

 いずれ登録しようかと思ってるんですけど」


 詰所で騎士の人に受けた尋問を思い出して苦笑いを浮かべながらそう答える。

 この世界ではどうやら、冒険者になれば冒険者証なんてものが貰えるらしいのだが、残念ながら今の俺は持っていない。

 というか、ゲーム時代にはそんなシステムなかったから、存在すら知らなかったのだが。


 そんな俺の返答を聞くと、彼女は『まぁ、そうだったのね』と驚いた様に口元に手を当てた。


「となると……今年の九月には一年生になるってことかしら?」

「九月……? 一年生……?」


 何の話かわからない、というように首を傾げる。

 冒険者って一年生とか二年生とか、そんなシステムあったっけ?

 俺の知る限りそんな設定は聞いたことないけど……もしかして、これも現実になった影響、とか?

 しかし、その予想は間違いだった。


「マーリンさん、あなた今未成年でしょ?

 なら、冒険者学校に通わなくちゃいけないわ。

 未成年は基本的に学校で訓練を受けてからじゃないと、冒険者になれない決まりなの。

 うちも上の娘が冒険者になったからよく覚えてるわ」


 そういえば、ソフィアさんも姉が冒険者になって家を出て行ったって言ってたっけ。

 今着てるこの服だってその人──クロエさんのお下がりらしいし。


 それにしても、そういう変化は予想外だったな。

 そういえば詰所で学生証がなんとかとか言ってたような気もするし、よく考えてみれば冒険者なんて危険な仕事、未成年に任せられるはずがないんだし、当たり前の変化と言えば当たり前の変化か。


 俺だってゲーム時代では百回くらいは死んだし、当然死者が出ないように何か対策するよな、うん。


 それから話してくれたギルダさんによれば、どうやら入学するにも入学金や学費、その他もろもろお金が掛かるらしい。


 一応、奨学金もあるらしいが、親もいないし住所も不定。完璧に身元不明なこの俺ではまず受けられないに違いないだろう。

 そんな話を聞いてか、リビングを通りがかったマルコさんが『だったら、その費用は僕が出そうじゃないか』と、コーヒーを口に運びながらそう告げてきた。


「いいんですか!?」


 驚いて机から身を乗り出す。

 激し過ぎて椅子を倒しそうになったのは少しだけ恥ずかしかったが、二人は笑って頷いてくれた。


「そうね。あなたは主人の命の恩人だもの。

 私たちのことは、本当の親だと思って頼ってちょうだい」

「そうだな。なんなら、早速明日は役所に行って養子縁組の手続きをしに行こう」


 二人の言葉に、目頭が少し熱くなるのを感じる。

 知らない街で一人放り出され、挙句に職につくにも学校に行かないといけないとか学費がどうとか、これからどうすべきか不安になってきていたのだ。


 そんなところにこんな温かい言葉を投げかけられては、感動しないという方がおかしいだろう。

 俺は、優しく微笑んで受け入れてくれるこの夫婦に、泣きながら何度もありがとうを口にしたのだった。


 ──その晩は、マルコさん家族からの歓迎会が行われ、夫妻の娘として受け入れられ、ソフィアさんには新しい妹ができたと喜ばれたのだった。


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