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魔人の狂想(54)-END-


 54


「それじゃあ、街の平和を祝して──かんぱーい!!」

「「かんぱーーい!!」」


 その日は、ハロウィンパーティー前日の夜だった。

 ラミアクイーン討伐による報酬に加えて、街を脅かした危険への対処に対する功労のための報奨金を得た俺たちは、早速と三人だけの小さなお菓子パーティーを開催していたのである。


 ちなみに今日のラインナップは、いつかアリスと食べたクレープの再現お菓子や、その余りの材料で作ったミルクレープやパフェ。

 即興で考えて作ったキャラクターのクッキー、スコーン数種類である。


 こんな夜中にこれだけ食べては太ってしまいそうだが、それについては心配いらない。

 なぜなら俺たちは冒険者。

 食った所でどうせ同じくらい体を動かすから太ることはまずないのである。


 ……まぁ、魔道具頼りのロゼッタは、俺たちに比べて太りやすいかもしれないけれど、それでも授業で走り込みなんかをやらされるし、まぁ、たぶん、きっと問題ないはずである。


「それじゃあ、まずは聞かせてもらおうかしら」


 ジュースを片手に持ちながら、ズイ、とちゃぶ台越しに身を乗り出してくるアリスに、思わず少しだけ後ずさる。

 聞かれている質問の意味は理解していた。

 すなわち、俺がパラノイアと同じく異世界人だった、という話についてである。


「えーっと、そんなに知りたい……?」

「勿論よ。それに答え如何では、今後の私たちの付き合い方を考える必要もあるもの」


 言われて、少しだけ凹む。

 俺は、二人とは親友だと思っていた。

 別に俺が実際何者であったとしても、笑って受け入れてくれる様な。


 しかし俺には人間関係における経験値が足りていなかった。


 だから、人を本気で信頼して、何もかもを打ち明けてしまえる様なそんな関係というのは、果たしていつから始まるのだろうと考えることも少なくなかった。

 何が言いたいかというと、つまり、俺は親友だと思っていても、相手はそう思っていないのではないか、という不安である。


 しかしアリスのいうことも尤もだと感じているところもあった。

 というのも、俺がパラノイアと同じく異世界人だ、なんてややこしい説明の仕方をしてしまったからである。


 だから、もし俺がパラノイアと同じ世界の住人なら、世界に危険を与える恐れのある人物かもしれないと、少し警戒せざるを得なくなってしまうのだ。

 親友とはいえ、まだ出会って一ヶ月と半分ほどしか経っていないのである。

 全てを信頼し切るには、あまりに期間が短すぎるのだ。


「……わかった、説明するよ」


 俺は、前世が男だったとか、容姿を変更する課金アイテム『魔法の姿見』の話は伏せて、この世界に来た経緯を説明した。


にわかには信じられないけれど……」


 悩む様に、顎先に人差し指を這わせながらアリスが呟く──が、どうやらロゼッタの方は納得のいく部分があったのか、『そうやったか〜』と目を丸くして驚いていた。

 いや、彼女の場合は多分、何も考えていないだけの様な気がする。


「ロゼッタは信じるの、今の話?」

「まぁな〜。

 そう考えた方がロマンあるし、何より、ドラゴンスレイヤーの話とかさ、この世界の誰でも知ってそうな話知らんかったりするところとか、あと、リモコン、だっけ?

 いつやったか言うとったわからん単語とかも、そっから来とんのかなぁとか思ったらさ、やっぱ、異世界人って言われても信じれるかなぁ、って」


 訂正。

 思ったより考えてくれていた様だった。


「そういえば、確かにそうよね……。

 冒険者を目指すなら知らない人はいないまでに名を轟かせたお母様の事を知らなかったんだもの。

 ……いいわ、信じてあげる。

 ついでに、パラノイア? とかいうのとは、別の世界の人だってことも」


 おもったよりあっさり信じてくれる二人に、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 それから俺たちは、月がてっぺんを超えるまで下らない話をしながら飲んで食べて騒いだ。

 途中、寮長がうるさいと苦情を言いに来そうな気配がして、慌てて寝たふりをしたりしたけど、疲れていたせいもあったのか、寝たふりが本当の睡眠に変わったことに、起きるまで気づかなかった。


 ……まぁ、そのおかげで、パーティーの開会式に遅刻しかけたわけだけど、それはまた別の話ということで。

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