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魔人の狂想(53)


 53


 『拝啓、家族へ。

  最近ますます寒くなり、冬が近づいてきましたが、どうお過ごしでしょうか?

  冬が近づくと魔物も強力になって、仕事を休む冒険者も多くなってくるとカールさんに聞きましたが、ちゃんとお店は回っていますか?

  毎月送ってきてくれている手紙を見れば心配なさそうな気もしますが、油断は大敵です。

  風邪をひかない様、体を暖かくして寝てください!

  さて、ここからは近況報告といきましょう。

  こちらは今、時期遅れのハロウィンパーティーをしています。

  というのも、もうハスティアの方まで伝わったと思いますが、テザリアで起きたあの大事件の後始末に時間がかかったからです。

  そしてなんと、後日その事件の被害拡大を食い止めた功労者として、ハーゲン理事長先生から表彰状を頂いたのです!

  あ、表彰状は手紙に同封して送りますので、店に飾るなりしてぜひ自慢してください!

  そうそう、まとまった報奨金も貰えたので、一部だけ一緒に送りますね!

  家計の足しにしてください。

  いえ、待ってください。言いたいことはわかります。ですけど受け取ってください。

  これは私から家族への恩返しなのですから』


 そこまで手紙を書いて、俺は筆を止めた。

 便箋が文字で埋め尽くされ、これ以上かけるスペースが無かったからである。

 俺は机の引き出しを開けて二枚目の便箋を引っ張り出そうとするが、引き出しに手をかける寸前で、そういえばこれが最後の一枚だったことを思い出す。

 裏に書けばインクが滲んでしまうし、とはいって別の紙に書こうとすると規格外だと郵便してくれなくなる。


 俺は、最後の隙間に『紙が無いので、パーティーでの話はまた来月に』と小さく書き添えて、封筒に入れてしまう。


 随分と復興も進んだが、生活必需品以外のものはまだ売られていないし、行商を待っていれば手紙を出せるタイミングが来月になってしまう。

 仕方ない事情なのである。

 レターボックスに表彰状と、幾らかのお金を入れた皮袋を入れた。


「それにしても、色々あったなぁ」


 事件がひと段落し、全てのイベントが順調に片付いたことで、肩の力がどっと抜ける。

 ある日突然異世界に転移させられてきて、マルコさんを助けて、慣れない女の子の体でウェイトレスをして、冒険者学校に行ったと思ったらなんかナンパされたりして、先生とも戦った──あ、いや戦ったのはアリスか。


 パラノイア探しもしたし、最後にはでっかいボスモンスターも協力して倒した。

 あの後パラノイアに逃げられたのは失敗だった。

 倒した後で分かった事だが、ラミアクイーンはどうやら逃げるための目眩しの様なものだったらしい。

 おかげで、戦闘終了後に奴の姿はどれだけ探しても見当たらなかった。


 ついでに言えば『ページ』も取り戻せなかった。

 やはり、取り戻すためには魔人どもを倒していかなければいけないのかもしれない。


「それから、俺が異世界人だって話も、もう二人に打ち明けちゃったんだよなぁ」


 あの日の夜、祝勝会を開いたあの時の出来事を思い出しながら、ベッドで目を瞑った。


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