魔人の狂想(35)
35
その日の晩、俺たちの作戦は早速決行されることになった。
「二人とも、準備はいいか?」
街灯のないテザリアの街を、満月の明かりが煌々と照らす中。
俺は物陰に隠れながら、仮装用の黒いローブに身を包みながら二人に確認する。
「ええ、もちろんよ」
「うちも万全やで!」
小声で答える二人も、やはりハロウィン用の仮装に身を包んでいる──が。
「……」
ちらり、二人の方へと視線を向ける。
それからしばらく、果たして言うべきかどうかを逡巡して、やはり言うべきかと意を決して口を開いた。
「二人とも、その格好は流石に目立ちそうじゃないか?」
アリスのハロウィン用の仮装は幽女だ。
イメージ的には、夏の肝試しに見るような女の幽霊を想像してくれれば割と近い。
違いがあるとすれば、頭の上から被った白いベールのせいで、もう少しフリルを増やせばウェディングドレスになってしまいそうな点だろうか。
そしてロゼッタ。
彼女は流石にフランケンシュタイン(の怪物)衣装は、パーツが多すぎて動きづらいとでも判断したのだろう。そこは別に良かったのだが、それを配慮したせいか、遠目に見れば普通にゾンビに見えてしまいそうな風貌である。
さらに、その上からロゼッタ作の無骨で未来的な、例えるならスマホを使ったVRヘッドセットみたいなデザインの『暗視ゴーグル』をつけているのだから、その異様さは倍増もいいところだ。
草木も眠る丑三つ時。
テザリアの街を歩く人影は、今となっては夜間警邏の騎士団員のみであるこの状況に、こんないかにも怪しげな三人組がもし見つかって仕舞えばどうなるのか。
想像には難くないはずだ。
まだ俺みたいに黒いローブの方が、闇夜に紛れて安全とすら言える。
「大丈夫よ、どうせ見つからないように動くし」
「それにマーリンもおるしな!
なんかあったら魔法でなんとかしてくれるやろ?」
過剰な自信と信頼に、思わず頬が引き攣る。
「魔法でなんとかって言われてもな……」
姿を見えなくするアーツは、魔法スキルの中には含まれていない。
もしかすると《闇属性魔術の心得》を取得すれば可能かもしれないが、残念ながらそれは魔法スキルレベル二で取得できるアーツだし、あるとすれば暗殺スキルの《ハイディング》というアーツくらいのものだ。
しかし生憎それを取得できるスキルポイントを俺は持ち合わせてはいない。
使える可能性があるとすれば、先日習ったばかりの手印による魔法のみだが──当然、例の十二個も覚えているはずがなかった。
「あんまり期待するなよ?」
ため息混じりにそう返す。願わくば、誰にも見つからずに作戦が成功することを祈るばかりであった。




