魔人の狂想(33)
33
「『丸パン』と『スプラッシュサーモンの燻製』、『風車草とピネバッキンの炒め物』、あっ、『白葡萄とアルミラージの炒め物』も美味しそうね。それを八人前でもらえる?
飲み物は『コッコ鳥の卵スープ』をお願い。
こっちは一人前で結構よ」
「おぉう、相変わらずよぅ食べんなぁ……。
じゃあウチはこの『オークのステーキ、マッシュポテト添え』と『丸パン』。あ、あと飲み物は『マタンゴのスープ』で。もちろん一人前な」
「俺は……これ、この『コッコ鳥と蜂蜜のリゾット』を。飲み物は『白葡萄のジュース』でお願いします」
「か、かしこまりました……」
人外すぎる量を頼むアリスの注文内容に未だに頬を引き攣らせながら、注文をメモってその場を後にするウェイトレス。
俺もウェイトレスの経験があるから、大食漢(女だけど)に面食らうのはよくわかる。
(しかも、相手がこんなに小さな女の子なら、本当に食べ切れるのかって不安になるんだよなぁ。
アリスなら本当に全部食べるんだろうけど)
同情の眼差しをウェイトレスの背中に向けながら、俺は苦笑いを浮かべた。
あれから数時間が経過した。
結局、『ペストマスク』を売っている店を総当たりで調べて見たが、白い『ペストマスク』や赤い『ローブ』なんてありふれた仮装故か、パラノイアに繋がりそうな有益な情報は手に入らなかった。
魔導書(?)についても、冒険者ギルドの図書室を借りて調べてはみたが、該当する様な書物は無く、やはり魔導書なるアイテムの存在は見つからなかった。
あと調べるところがあるとすれば、学校の図書室くらいのものだ。
「はぁ、全然ダメね……」
不意に、アリスが愚痴をこぼした。
「普段ならともかく、今はハロウィンやもんなぁ。
全く考えたもんやで、木を隠すには森の中〜ってさ」
同意する様に、ロゼッタも背もたれにもたれかかりながら天井を仰いだ。
あまりにも集まらなさすぎる情報に辟易とした俺たちは、腹が減っては戦はできぬというアリスの胃袋の訴えにより、今は近くの宿屋の食堂で夕食を摂ろうとしているところである。
「やっぱり、聞き込みだけじゃ限界があるのかしら」
アリスの呟きに、俺はなんとも言えない気持ちになる。
ゲーム時代のハロウィンイベントの攻略手順は、被害者に対する聞き込みだけだった。
被害者を見つけてパラノイアからの脅威を取り去り、正気に戻ったところでパラノイアについての情報を収集するを繰り返す。
しかし、今となっては襲われた人すら見当たらない始末で──あ。
「……いや、待てよ?
そういえばまだ聞いてない人がいる」
そんな俺の呟きに、アリスがバッと振り返った。
どうやらその言葉で彼女も気づいたらしい。
「そういえば、まだあの人には聞いてなかったわ!
どうして忘れていたのかしら!」
「待て待て待て、なんや、どうしたんや急に二人とも!?」
しかし、どうやらロゼッタはついて来れていないらしい。
そんなわけで、俺は入試の日にあったフォルルテ先生とのことを話した。
「あ、今日授業の時にマーリンが言ってたんってそれやったんか!」
「そういうこと。
だから、フォルルテ先生もきっと謎の仮面男と会ってるはずなんだよ」
合点がいったと手を叩くロゼッタに、俺は結論を述べた。
そういうわけで俺たちは、翌日、フォルルテ先生に話を聞きにいくこととなった。




