魔人の狂想(31)
31
「理不尽だぁ〜っ!」
あの後、礼儀とか場の空気を読むこととか色々説教を食らった俺は、精神をすり減らしていた。
マジおまいうだよ。
カフェで暴れて店員さんに暴力振るって連行されていった人に、何で俺が礼儀とか説教されにゃならんのだ!
「あはは……。
人間、誰にでも触れられたくないこととかあるんやって」
慰める様に、ロゼッタが俺の背中を撫でる。
「だからって理不尽だろアレは──って、慰めるフリして背中にスライム入れるなぁ!?」
急にやってきた冷たいこんにゃくのような感触に悲鳴を上げる。
「うひゃはぁ! マーリンその反応最高やなぁ! アハハハハハ──へぶしっ!?」
笑いながら遠くに逃げる彼女の頭に《ウォーターボール》を投げつけて反撃しながら、恨みがましくぼやく。
「全くこいつは……」
しかし、おかげで少し心が軽くなったのも事実。
どうやらロゼッタの悪戯のおかげで、少し気分がリフレッシュされてしまったらしい。
ほんと、人付き合いの上手いやつだよ。
それから、俺たちは三人でいつもの商店街へ繰り出すことになった。
ハロウィンの衣装を作るための小道具を買い足すためである。
「いやー、にしてもこの一週間ですっかり仮装してる人も増えたなぁ」
商店街を歩き回りながら、ロゼッタが不意にこぼす。
「だなぁ。これだけ頻繁に見てると、流石のアリスも慣れてきたんじゃなきか?」
笑いながら、アリスに話を振る。
「な、ななな何を言ってるのよ!?
慣れてきたも何も、さ、さいしょからここここ怖くなんか──」
──と、その時だった。
「キャーーーッ!」
ハロウィンの喧騒に紛れて、女性の悲鳴が鼓膜を打ったのは。
「──ひぃぃいい!?
ちょっ、ちょっと驚かさないでよ!?」
ぎゅっ、と握っていた俺の袖を、涙目になりながら一層強く握るアリス。
「違う、さっきの悲鳴は俺たちの声じゃない!」
「ぅえ? じゃ、じゃあ誰が叫んだって言うのよ!?
ドッキリだったら許さないわよ!?」
涙目になりながら訴えてくるアリスを他所に、俺は悲鳴の聞こえた場所を目指して走り始めた。