魔人の狂想(3)
3
日本のお父さん、お母さん。
ごめんなさい、夕食の席にはつけません。
俺は今、異世界にいます。
なんか変なバグで紆余曲折あって、なんか駐屯兵団の留置所に居ます。
本当は特に悪いことは何もやってないけど、でも、通行許可証を持ってなかったからとか言う理由で不法侵入者にされています。
ほかに身分詐称とか言われて、余罪があるのではと根掘り葉掘り聞かれて──。
酷いよね、目が覚めたら街の中にいたのに不法侵入って。
俺にどうしろってんだ。
「はぁ……」
某会社の昔のテレビ広告のパロディを頭の中で歌いながら、俺はため息をつく。
街に侵入していたガラット・カヴィアロードを討伐することに成功した俺は、その後、騒ぎを聞きつけたこの街──ハスティアの駐屯兵団の人に、事情聴取のため詰所に連行されることになった。
その時俺は、苦労して魔物を倒したのだから報奨金でもくれるのかな、とか期待してついていったのだが──これが間違いだった。
正直、事情聴取はなんとかなった。
子供なのに剣を持っていたことも、冒険者ですと答えれば普通にスルーされたし、モンスターがどうしてあんなところで暴れていたのかと聞かれても、その場に偶然通りがかっただけだからわからないで終わった。
問題はその後──報奨金の手続きの時だった。
どうやら報奨金を渡すにあたって身分証明書(たとえば冒険者カードとか学生証とか)が必要だったらしい。
当然、この世界に来てまだ一時間どころか三十分すら経っていない俺に、そんなものを用意できるはずもない。
すると今度は騎士さんとの話し合いが始まって、曰く、『えっ、君冒険者って言ったよね?』『はい』『でもその歳で冒険者にはなれないだろうし、きっと学生って意味なんだよね。だったら学生証とかあると思うんだけど』『学生証……って何のことですか?』『えっ?』『えっ?』『……じゃあ、街に入った時に通行手形もらったはずだよね?』『えっ?』『えっ?』──みたいなやりとりが起きた。
その結果、なんやかんやあって、場所的にも隣国と近いことから敵国のスパイかもしれない! みたいな流れになって、身分が割れるまで留置所に拘束される羽目になったのだ。
「いや、ほんとなんでこうなった」
正直、宿に泊まるお金とかなかったし、結果オーライ(?)ではあるのだけど……。
いや、全然オーライ違うけど。
下手したら断頭台行きかもしれない。
いやだよ、異世界転移してすぐ罪人に間違われた挙句殺されるとか。
「はぁ……」
重いため息をつく。
きている服は返り血で下着までべちょべちょだし、『ショートソード』はガラット・カヴィアロード戦で刃がボロボロだ。
ゲーム時代はモン◯ンみたいに切れ味とか気にしなくて良かったけど、リアルになるとそうもいかないことに気がつき、あぁ、本当に異世界なんだなぁと実感せざるを得ない。
願わくば、白馬に乗った王子様とは言わないが、誰かこの状況から助けに来てくれないだろうか。
そんなことを願っていると、房の前に一人の看守がやってきて、徐に鍵を開けて口を開いた。
「出ろ、バーサクガール。お前の身分は保障された」
「……え?」
房の扉を開けて、外に出る様促す看守の言葉に、俺は疑問符を浮かべる。
さっきも言ったが、俺はこの世界に来てまだ三十分も経っていない。
そんな短い時間の間に関わった人なんて、あの屋台の主人くらいしか思い浮かばない──ってまさか!?
房を出て詰所の外に案内される。
するとそこには、一人の男性がニコニコと笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。