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魔人の狂想(29)

 29


 学校からの帰り道。

 夕日が差し込む商店街には、さまざまなかぼちゃのランタンやら蝋燭、仮装用の仮面などが並ぶ様になっていた。


「そういえば、もうそろそろハロウィンやったな」


 並ぶお化けの被り物を試しに装着して見せながら、ロゼッタがそんな風に口を開いた。


「……そういえば、もうそんな時期だったわね」


 嫌そうに口をムズムズとさせながら応えるのは、同じく親友のアリスである。


「お? 怖いんか? お?」

「うっ、うぅさいわね! 仮装と分かってるなら、べ、べべべべべ別に怖くなんかないわ!」


 揶揄う様に被り物を身につけた頭で顔を覗き込もうとするロゼッタに、アリスが胸元で腕を組みながら抗議の声を挙げる。


「いやいや、隠せてないから」


 いつかのようにやり過ぎて、また壊されてはかなわないと被り物を元の場所に返しにいくロゼッタを見送りながら、俺はそうツッコミを入れる。


「は? 隠す? 何のことよ。

 別にわわわ、私は仮装くらいで驚かない──ひゃあ!?」


 不意に、小さな悲鳴が彼女の唇から弾け出した。

 というのも、後ろからこっそり近づいてきていたロゼッタが、どこから見つけてきたのやら、こんにゃくの様なものを、彼女の制服の中に滑り込ませたからだった。


「ちょっ!? 何これ!?

 ロゼッタ、私の服に何入れたのよ!?」

「ん? 『デビルタン』っておもちゃやで。

 スライムの樹脂をな、こうゲル状に固めたドッキリグッズでなぁ、お化け屋敷とかでも使われるやつなんやけど──知らん?」

「知らないわよっ!?」


 冒険者学校の制服は、ワイシャツの上からコルセットベルトを装着する。つまり、どれだけ暴れても自然と『デビルタン』が出てくることはない。

 スライムの、微妙に冷たい、そしてむにゅむにゅとした気持ち悪さに全身鳥肌を立てながらロゼッタとキャッキャ暴れる二人。

 それを見て、俺は少しだけ羨ましく感じる。

 三人寄ると、一人余って手持ち無沙汰になる。

 コミュ障気味な俺は、いつだってその余る方だ。

 一歩引いたところで俯瞰して、二人のやりとりを笑いながら見る。

 そうやっているうちにいつの間にか自分だけグループからあぶれていくんだ。


「……ほら、人通りもあるんだからその辺にしとけよ?」


 追いかけあう二人の動きを止めて、アリスの背中から『デビルタン』を引っ張り出す。

 ──だから、こうやっていつだって、自分から関わろうとしなきゃ、失うんだ。


 それから結局、アリスは寮に帰るまで頑なに仮装のお化けなら怖くないと言って譲ることはなかった。

 正確には、途中でこれ以上揶揄うと本当にアリスの無言の剣が飛んできそうなので、俺が話題を変えたのだが。


「──そんなに言うなら、いっそハロウィンパーティーに参加してみればいいんじゃないか?」

「え」

「それや!」


 俺の提案に、予想通り反応が二つに分かれる。

 何とも言い難い様な表情で固まったのは、言わずもがなアリスであったが、ロゼッタはといえば目をキラキラと輝かせながらその提案に食いついていた。

「だってほら、これならアリスも“仮装ならお化けは怖くない”って、身をもって証明できるだろ?」

 寮までの通学路になっている商店街の壁のあちこちに貼られてある広告を指さしながら、アリスを説得にかかる。


 ハロウィンパーティーはお菓子の交換をし合うパーティーである。

 仮装さえしていれば誰でも自由に参加できるパーティーだから、仮装ならどんなお化けでも怖くないという彼女の言葉を証明するのにぴったりのイベントであると言えるだろう。


「ぐぬぬ……はぁ。

 わかったわ、やればいいんでしょ、やれば!」


 彼女はしばらくの間、承服しかねるとばかりに渋い顔をして見せていたが、しかし結局は俺のこの提案を飲み込むことになった。


 そんなわけで、俺たちは翌日から早速、パーティーの準備に取り掛かることにしたのだった。


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