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魔人の狂想(26)


 26


「──冒険者のパーティは、基本的にアタッカー、ディフェンダー、そしてアシスタントの三種類の役割がある」


 冒険者学校、第三アリーナ。

 入学式の日にアリスがカナミと模擬戦をしたあの場所に、俺たちのクラスは集められていた。


「モンスターを攻撃する役がアタッカー、アタッカーをサポートする役がアシスタント、そしてアシスタントを護るのがディフェンダーだね。

 だから、基本的に冒険者がパーティを組む時は三人一組スリーマンセルになるんだ」


 科目の名前はパーティ戦闘演習。

 冒険者パーティにおける戦闘の基本的なセオリーを学ぶ授業だ。まだ始まって間もないからか、ゲーム時代のパーティ戦闘の基本とほとんど変わらない事しか説明されていない。

 俺はこの世界の体操服なのだろう赤いジャージに着替え、地面に腰を下ろしながら担当の教師カナミの話を半分聞き流しながら頷いていた──ら。


「じゃ、あ〜……マーリン」

「っ!?」


 ちゃんと聞いていないことがバレたのか。不意にカナミが俺を名指ししてきた。

 驚いて声を出さなかったことを褒めて欲しい。


「君、先週寝てたし、この程度の基本知識は全部持ってると思って質問しよう。

 パーティでの戦闘において、最も重視しなければならないファクターは何かな?」


 理由はさておき、きっちりサボっていたのがバレていたらしい。俺は一瞬気まずい顔を向けると、その場で起立して即答した。


「信頼関係です」

「ふぅん? そのこころは?」

「信頼関係が築けていなければ連携がまともに取れません。連携が取れないとどんなに相手が弱くても足元を掬われてしまいます。それはすなわち危険に対する油断に繋がるということです」


 ──と、即答できたのも、実はカールさんの受け売りなんだけどね。

 ゲーム時代はほとんどソロプレイだったし、実際の冒険者からこういう話が聞けて良かったよ、ほんと。


「おぉ、まさか本当に答えちゃうとは思ってなかったよ。成績に加えなきゃね」


 言って、何やらを手に持っているボードに書き込むカナミ。


「付け加えていうなら、実は信頼関係の重要性は連携プレイ以外のところの方が大きいってところかな。

 背中を任せて戦える相手がいると、長期のクエストの時に精神不良を起こしにくくなる。

 みんなも経験がないかな?

 一人で知らない場所にいると、心細くて不安になる。

 だけど誰かと一緒にいれば心が落ち着き、冷静な判断ができるようになってくる。

 このように、人といるだけで討伐や護衛などのクエストにおける生存率は大きく上がるし、さらに仲間のためと思えば、自分がやられては仲間も道連れにしてしまう緊張感から、実力も普段より強く発揮されるの」


 言われて、思い当たる節があった。

 この世界に来た当初、俺はとても不安な気持ちでいっぱいだった。

 しかしマルコさんたちに出会って優しくされて、俺の心は平穏を取り戻せた。

 あのまま一人でいたら、どうなっていたか想像できない。


 それに、このテザリアに来た時だってそうだ。

 行きこそカールさんたちと一緒だったが、そのあと別れて一人になってしまったし、あれからアリスと出会わなければ、きっと元の世界での様に、またこの学校でもぼっち生活を送っていた自信がある。

 仲間との信頼関係には、人を生かす力がある。

 それは紛れもない事実だと、俺は感じた。

 それから授業の導入を終えた彼女は、さっそく本題へと足を踏み入れ始めた。


「それじゃさっそくだけど、君たちには小隊戦闘パーティプレイを経験してもらおうと思う。

 せっかくの演習なのに口で話して伝えるのも勿体無いし、それに、まずはやってみた方が早いからね。

 ちなみに演習の相手はヒュージ・グリーンスライムだよ。

 スライムだからって油断してたら、足元すくわれるから注意するように」


 ヒュージ・グリーンスライム……。

 ゲーム時代では聞いたことがないモンスターだ。グリーンスライムなら何度か見たことはあるけど、大型化したものはヒュージ・スライムしかゲーム時代にはいなかった。

 グリーンスライムが使ってくる攻撃は、たしか体当たりの他には風魔法の《ウィンドバレット》と《ウィンドストーム》くらいだ。

 魔法スキルのアーツとしては、二つともレベル五相当だが、こいつらが使う魔法の威力はかなり弱い。

 しかし既存のヒュージ・スライムが使ってくるユニークスキルの《アシッドバレット》などの毒攻撃の威力はかなり強めだ。


 このことから、おそらくヒュージ・グリーンスライムの風魔法の威力も、相当に高くなっているだろうことが予測された。

 でもまぁ、ゲームだった頃は、スライムの目の向きに注意を配っていれば簡単に避けられるものばかりだったし、対処法はさほど変わらなさそうだから大したことはないはず。


「はい。じゃあスリーマンセル作って固まってね」


 カナミの言葉に、生徒たちが一気に騒がしくなって、それぞれがすぐにチームを作り出していく。

 出た。出たよ悪魔の呪文が。ぼっち殺しの言葉のナイフが!

 前の世界にいた頃は、この言葉にどれだけ悩まされたことか……。

 しかし! 今の俺はあの時とは一味違う。

 なぜなら俺には、今や二人も友人がいるのだから!

 手を叩いて、生徒たちを急かすカナミを視界の端に追いやって、当然のようにアリスとロゼッタを捕まえに行く。


 あぁ、気分最高。なんだかちょっと勝者の気分だ。

 友達と体育の授業でチームになる。前はぼっちだったから、痛いほど学生を満喫していると思える。

 素晴らしきかな異世界! ハレルーヤー!


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