魔人の狂想(25)
25
「それにしても、アリスがあそこまでびっくりするとか思わんかったわぁ」
女子寮談話室。
無事誰にもバレる事なく戻ってくることができた俺は、ロゼッタの疲れたような声に苦笑いを浮かべていた。
正直、あれには俺も驚いた。
まさかあそこまで──反射的に剣を振り回すほど驚くとは思わなかったからだ。
「しっ、仕方ないじゃない!
だってロゼッタが変なこと言うから!」
ぷんすこ怒りながら、アリスが腕を組んでそっぽを向く。
「それにしても、どうしてそんなにお化けが怖いんだ?」
急に出てきてびっくりしたりとか、幽霊が出てきて金縛りにあったりとかは確かに怖いが、この世界は元は《ノタリコントラクト・オンライン》というゲームだ。
出てくる幽霊は全てアストラル系、あるいはアンデッド系呼ばれるタイプのモンスターなので、聖属性のアーツや『聖水』と呼ばれるアイテムさえ有れば倒すことは可能だ。
物理はちょっと……いや、かなり効きにくい難敵ではあるものの、基本的に倒せない相手では──。
と、そこまで考えて、まさかとある仮説が思い浮かぶ。果たしてそれは当たりか否か。そんな俺の雰囲気を感じ取ったらしいアリスは、諦めたように答えを口にした。
「……だって、あいつら剣で斬っても斬ってもまったく倒れないじゃない。
むしろなんか元気になっていってるっていうか……気持ち悪いのよ……っ」
わなわなと声を震わせながら告げられたそれは、なんというか、アリスらしい答えだった。
彼女は強い。
物理的にもそうだし、何より気が強い女の子だ。
きっとお化けが怖い理由もそんなことだろうとは予想していたが……。
「プハッ!
アハハハハハハ! ベタ! めっちゃベタやん何その理由! アハハハハハハ!」
突然、ロゼッタがお腹を抱えて笑い出した。
それに釣られて、俺も思わず失笑してしまう。
「ちょっ、マーリンまで!?
なんでそんなに笑うのよ!?」
心外だとばかりに地団駄を踏みながら詰め寄ってくる。
その顔は羞恥に赤く染まっていて、しかしどこか楽しそうに見えた。
「もうっ。じゃあロゼッタ、あなたはどうなのよ?
何か怖いものとかないわけ?
笑ってあげるからあなたもはやく答えなさい」
「だってさ、ロゼッタ。
特に無しとかは無しだぞ」
「マーリン、あなたもだからねっ!」
「えっ!?」
「えっ!? じゃないわよ!
ロゼッタと一緒になってゲラゲラ笑ってたくせに!」
「いやだってあれはロゼッタに釣られて──」
「ダメよ、あなたにもちゃんと白状してもらうんだから!」
両腰に拳を当てながら、ズイと迫るようにして言いつけるアリス。
あぁ、参ったな。こんな事になるなら、あの時無理やり彼女の顔を覗こうとするんじゃなかった。
……いや、ロゼッタのことだ。
もしかすると俺が何もしなくても、彼女はきっと同じようにアリスをからかったに違いない。
(諦めるしかないかな……)
こうして、俺たちの嫌いなもの合評会が幕を開ける事になったのだが──それはまた別のお話。




