魔人の狂想(24)
24
その日の帰り道。
生理による症状も緩和してきた俺は、改めて学校の中を見回る余裕ができたので、二人に帰りがてらに学校案内を頼んでいた。
「それにしても、こうやって見渡してみると本当にお城みたいだよなぁ」
教室から玄関まで向かう道すがら。
廊下の所々に配置されている石像や鎧を見ながら口を開く。
冒険者学校の外観は、まさに西洋のお城といった風貌だった。内装もそれに見合うほどそこそこゴージャスで、天井を飾るアーチの梁みたいなやつが集まって星のような模様を描いていたり、外向きの窓には大きなステンドグラスが嵌められていたりしている。
お城……というよりはゴシックな教会建築に似ている様な気がする。
「夜中とかそこの鎧とか動きそうな雰囲気やもんなぁ」
「ロゼッタ、それお城じゃなくてお化け屋敷だから」
ちらりと近くの鎧の一つを一瞥する彼女に、俺は軽くツッコミを入れる。
一体、彼女の中でお城はどんなものだと思われているのだろうか?
「お化け屋敷もお城も、夜なったら変わらんやろ〜。
知ってるか? 教会前の噴水広場。あそこって元々墓地なんやで。景観がどうとかで別に移されたとこが大半らしいんやけどな。
この学校の手前にも噴水広場あったやろ? 建物の建築様式から逆算するに、多分ここは元々教会かなんかやったんやろ。ということはあそこも実は元々──」
「──やめて」
不意に、得意げに語るロゼッタの推理を、アリスが手を出しながら制止する。
「アリス?」
怪訝に思って、そっぽを向きながら掌を突き出す彼女の顔を覗き見る。
「……」
しかし顔を見られまいとふいふいと首を振って、彼女は顔を隠そうとし続けた。
それに不思議に思ったのかなんなのか。
ついにまどろっこしくなったらしいロゼッタは、勢いよく彼女の顔を両手で掴んで無理やり正面を向かせた。
すると──。
「ふぎゃっ!?」
短い悲鳴。それと同時に、ロゼッタの体がハンマーなげの如く振り回され、廊下の壁まで投げ飛ばされた。
腕を掴んだわけではない。
アリスはただ、思いっきり首を回しただけである。
「な、なんて膂力……」
およそ人間技とは思えない現象に軽く身を引く。
しかし、その一瞬の隙に見えた彼女の顔色があまり良くないことに、俺は気がついた。
「私、無理なのよ……」
「え?」
無理? 一体何が無理なんだ?
ロゼッタを助け起こしながら、俺は彼女の呟きに首を傾げた。
「お化けとか、幽霊とか、そういうの……私、無理なのよ……っ!」
ピシャーッ!
漫画ならきっと、ここで雷が鳴っていたに違いない雰囲気で、彼女の独白が行われた。
しかしどうしてかな。
窓はステンドグラスなので外の景色はわからないが、少なくとも雨の降る音も雷の音も聞こえてはこなかった。
──と、次の瞬間だった。
「あっ! 今後ろの鎧動いたで!」
「ヒッ!?」
ロゼッタの思いつきの冗談に驚いたアリスが、腰の剣を背後に向かって抜き放ち、そこに立てかけられていた鎧の置物を、まるでバターを熱したナイフで切るように、いとも容易く真っ二つにしてしまった。
「「あっ……」」
倒れる鎧。広い廊下に鳴り響く、鎧の残骸の転がる派手な音。残響は思ったよりも大きく響き、三人の背中に冷たい汗が滝のように流れた。
その後、鎧はとりあえず俺の水属性と土属性の魔力で作った接着剤でなんとか強引にくっつけることに成功したのだが……正直思い出したくないので、これ以上は語らない事に決めた。




