魔人の狂想(18)
18
「なんや、ものっそい盛り上がってんな?」
「えぇ、一体何が……」
アリスの実技試験の様子を見に行くべく、敷地内の第三アリーナへ向かった俺たちは、不自然なほどに熱狂する受験生たちの声援と熱気に、不審な表情を浮かべていた。
第三アリーナは長方形の広い体育館のような形状をしている。その周囲をコロッセオよろしく階段状の観覧席が取り囲んでいるのだが、背の低い俺たちでは、雑に集まった観衆たちが邪魔で、様子がわからないのである。
「おい、あいつやべーぞ……。
アーツを一切使わずに試験官と互角に渡り合ってやがる……」
不意に、そんな受験生と思しき少年の呟きが、熱狂する声援の隙間縫うようにして鼓膜に響いた。
どうやら凄い剣術の腕を持つ人が今年の受験生に紛れているらしい。
試験官ともなれば、それなりにレベルの高い人が選出されるはず。そんな人物の攻撃をアーツも使わずに対処しているとなると、相手は相当な腕前か。
ノタコンにおけるPvPでは、熟練度が低いとアーツを使う前に少し溜めが入り、それが隙になるから、初心者はそれをカバーする動き方を学ぶ。
しかし熟練度が上がるにつれてその溜め時間も短くなる。試験官ともなればおそらくこの溜め時間はほとんど一瞬だろう。
アーツを使わずに互角に戦っているのであれば、この受験生はその一瞬の隙を見抜いて攻撃するなりしていることになる。
……要するに、プレイヤースキルが半端なく高くなければできない芸当をしているということだ。
(一体、誰がそんなことを──)
ちらり、と金髪碧眼のあの小柄で大食いな少女の姿を思い出す。
その想像は、果たして──。
俺は小さなロゼッタと逸れないように手を繋ぎながら、観衆の集まる観客席の最前線まで練り歩いた。
途中から剣と剣がぶつかり合う音が鼓膜に届く様になって、視界が開ければ錦を裂くような気合いがこちらまで届くのが伝わってくる。
「えっ、アリスやん!?」
ロゼッタが驚いた声で、受験生の名前を叫んだ。
そうだ。そこにいたのは、『長い木剣』で牡牛の構えを取る、金髪の巻毛の少女──アリス・ティンゼルだったからだ。