魔人の狂想(17)
17
そんなこんなで、試験は俺の手番まで回ってきた。
(さて、どうするか……)
場はロゼッタの謎の魔道具の迫力の余韻が残っていた。
彼女から俺の手番に移るまで数人の受験生が的を狙って魔法を放っていたが、萎縮したのか、どうにも彼女の迫力にかき消されて微妙な雰囲気が漂っている。
別にこれは入試であって、魔法の派手さを競うモノでは無いのだから関係ないのだが、しかしあんなものを見せられた後ではパフォーマンスが落ちてしまうのも無理はない。
かく言う俺も、こんなラノベ主人公的な立ち位置に居ながらして、ロゼッタに派手さや凄さで前をいかれて少し焦りを覚えているのも事実。
主人公なら、この場の誰よりも目立って、きゃー、すごーい! と、盛大な歓声を浴びるべきだし、実際俺も人見知りとはいえ目立ちたい気持ちもあるわけで。
(さて、どうやって攫っていこうか……)
目を瞑り、魔力を適当に体内でコネコネしながら思案する。
魔法の威力自体は、的に届かせることはできるし、ロゼッタの魔道具の威力を鑑みるに、頑張れば俺でも貫通できないこともない。
スキルの取得に応じて、魔力の操作に関しては基本の操作の仕方なら完璧に会得できているから、もっと高レベルの魔法でなければ簡単に発動できる。
更に、スキルレベル四にならないと取得できなかったはずの《ダブルスペル》も使えるということは、チートで習得した魔力操作能力以上の操作は、俺自身の技能とセンスでいくらでも底上げができる筈。
……魔力量は十分にあるし、試しに《ダブルスペル》を重ねがけして四種類の魔法を同時に発動させられる《クアドロプルスペル》でも作ってみるか?
これならきっとインパクトがあるし、みんな驚く筈。
問題は選択する術式だ。
レベル一の《ボール》や《アロー》、《ボルト》じゃあ味気ないし……
(──となると、これしかないな)
俺は内心ニヤリとほくそ笑んだ。
今から驚く観衆の反応が楽しみだ。
「……受験番号三十八番、マーリン。
──いきますッ!」
四つの的を正面に迎えるようにして立つと、体内の魔力に意識を集中させて、一気に右手を横へと振り抜いた。
すると、その軌跡をなぞるようにして火、風、水、土と四属性の《ボール》が出現した。
どうやら自力での《ダブルスペル》の重ねがけは成功したようだ。
「「……っ!?」」
背後で受験生らの驚く気配が伝わってきて、思わず口角が釣り上がるのを感じる。
しかしここで集中を切らしてはダメだ。
俺は、そのバスケットボールほどもあるサイズの《ボール》全てに、同時に意識を集中させながら、その動きを制御し、一気に野球ボールほどの大きさまで魔力を圧縮させていく。
イメージは渦潮。
球体の中心に向かって魔力が渦を作って流れ込み、ブラックホールのように圧縮されていく──。
そうして五秒ほど経っただろうか。
硬く硬く圧縮された魔力を完成させた俺は、そのイメージが崩壊しないよう、ゆっくりとそれぞれの的の前まで運んでいき──一気に解放した。
──ドバゴアァアァァァァ……。
小さな爆発。その爆音と衝撃波が重なり合い、強い耳鳴りをもたらした。
何がどう言う原理でそうなったかはわからなかったが、しかし自分の試みがどうやら成功したらしいことだけはわかった。
なぜなら、土煙の晴れた向こう側には、横長の浅いクレーターがあるばかりで、的の姿形など微塵も残っていなかったからである。
「すごい……」
誰かが呟いた声が、くぐもった音の波間から聞こえてきた。
……うん。俺もそう思う。これ、四つ離して起爆したからこうだったけど、もし同じ箇所で起爆していたらもっとすごいことになっていたのではないだろうか?
試してみたいけど、思ったより魔力を食ったからそう連発はできそうにないな……。
視界左上に表示されているMPバーを確認して、乾いた笑いを浮かべた。