魔人の狂想(15)
15
空から女の子が降って来る。
そう言われてまず初めに連想するなら、とある有名なアニメ映画だろう。
首に、空を飛ぶ不思議な力が宿る石のネックレスを掛けたある王族の少女と、炭鉱だったかどこかで働く一人の少年の冒険の話。
しかし、今目の前で半裸になって、濡れた服を乾かしながらお喋りをするこの赤い髪の少女は、きっとそんなドキドキワクワクな時間を持ってくるような子供には見えなかった。
むしろどちらかというと、ごく一般的な、と形容した方が、随分と似合っているように思える。
赤い髪に褐色の肌、紫がかった綺麗な瞳はとても印象的だが、神聖さは特に感じない。
感じないが──。
「いやぁ、助かったわ……。
それにしても凄い判断力やったなぁ、じぶん」
(関西弁……)
試験の受付を済ませた後。
俺たちは冒険者学校の保健室を借りて、彼女──ロゼッタの濡れた衣服を、保健室に常備してあった『冒険者学校の体操服』に着替えさせていた。
ちなみに、体操服のデザインは赤色のジャージである。
「いやいや、ロゼッタさんの行動力の方が凄いですよ……。
頭のネジどこに置き忘れてきたんですか」
濡れた髪を、魔法で軽い熱と風を起こしてドライヤーのようにしながら乾かしつつ尋ねる。
ちなみにこれは魔法スキルレベル一で取得できる《火属性魔術の心得》と《風属性魔術の心得》の合わせ技で、本来ならばスキルレベル四にならなければ使えない《ダブルスペル》によって成立させている。
もしかして、スキルレベルを上げなくても使い方さえわかれば、アーツを取得しなくても魔法が使えるようになるのだろうか?
「ふふん、エンジニアにその言葉は褒め言葉やで?」
「別に褒めてないんですけどね」
「お姉さん、そこを何とか」
手を合わせてこちらをチラチラと見てくる彼女に、思わず吹き出しそうになるのを堪える。
「頼んで褒めてもらうのって虚しくならない?」
「んぐ、確かにせやな……」
ついに入ったアリスの鋭いツッコミに、ロゼッタは体操服の襟を指で引っ掛けてパタパタと扇いで遊びながら、少しだけ不満そうに口を尖らせた。
ここからの角度だと、彼女の日焼けしていない胸元の境目や、明るいピンク色をした頂点がチラチラと見えて無防備で落ち着かない。
ついつい視線がそちらに吸い込まれていくのを、見まい見まいとするのにかなりの精神力を消費しそうだ。
(まぁでもただ考えるだけじゃなくて、実際に作ってあそこまで完成させたのは、素直に凄いと思うんだよなぁ)
意識を逸らすべく、頭の中で話題転換を試みる。
彼女が空から飛んでくるのに使っていたグライダーについての話だ。
実はあの機械は、彼女が自作したマジックアイテムらしく、今日を機会に南の山頂からここまでの飛行実験をしていたそうだ。
うまくいけば風の魔法で自由自在に空が飛べるはずらしかったのだが、どうやらうまくいかなかったらしい。
彼女の反省によれば、翼の素材を本来ならペガサスの羽毛で編んだ布を使わなければならないところを、ケチって普通のシルクを使ったことが原因かもということらしいが……正直俺にはその知識はなかった。
マジックアイテムなんて、練金屋に素材を持っていけば、あとはメニューを操作するだけで簡単に作ってもらえたからである。
何だか少しだけ、ゲームの裏側を知った気分であった。