魔人の狂想(14)
14
試験の受付場所は、人の波に流れていった終着点にあった。
「では、資料の提示をお願いします」
おそらくこの学校の事務員だろう女性に返事をして、書類を受け渡すべくウィンドウを開いた。
(えーと、たしかここら辺に……)
ストレージをスクロールしていき、目的の書類を実体化させる。
と言っても、そんなに物が入っているわけじゃないのですぐに見つかるのだが。
「どうぞ」
一つの封筒に纏められた書類を、何も考えずに受付に手渡す。
「……」
──が、しかしどうした事か、彼女から反応がない。
「……?」
伺うように顔を覗き込むと、なぜか少し唖然と口を開いて驚いたように固まっていた。まるで、あり得ないものでも見たかのように。
「ね、ねぇ、マーリン」
すると、同じく唖然としていたのだろう、やや固まり気味な口調で、アリスがようやく口を開いた。
「はい、何ですか?」
キョトン、と首を傾げてみる。果たして何か驚くようなことでもあったのか。そして、その答えは如何に?
「その封筒、いったいどこから出してきたのかしら?
突然、何もないところから出てきたように見えたのだけど……」
「あ」
言われて、ハッとする。
今まで人前でウィンドウを操作することなんてなかったから気づかなかったけど、もしかしてコレ、他の人には見えてない!?
「あ、あー……えぇ……っと……」
ダラダラと滝のような冷や汗が流れるのを感じながら、何とか誤魔化そうと必死に頭を働かせる。
魔法、と言うにしても、ゲーム時代にこんなアーツは無かったし、手品と言うにはずっと一緒にいたから仕込む暇もなかっただろうし言い訳には使えない。
はてさて、いったい何と言って誤魔化すべきか──と、そんなふうに頭を高速で回転させていた時だった。
「どいてどいてどいてぇえええええ!!
そこをどいてぇええええええ!!」
背後から聞こえてくる叫び声に振り返ると、何か大きな鳥のような物体が、ものすごい勢いで生徒の列をモーセの奇跡の如く割りながら飛来してくるのが見えた。
「きゃあ!?」
「《ウォーターボール》!」
受付員の悲鳴を背中に、俺はとっさに、ちょうど二段ベッドを丸呑みできるほど巨大な水のクッションを作った。
ドボン、と大きな水柱をあげて、何かが水のドームに勢を殺されて失速していく。
「ぇえええれべらべろぼあぶわぐぶぐぶぐぼぐ……」
突っ込んでくる勢いもあってか、しばらく白い気泡だらけだった水のドームだったが、しかししばらくすれば、そこに何か人のような影が浮かんでいるのが見えて、俺は魔法を解いた。
「ぐへぇっ」
びちゃり、と音を立てて、人の様な物体がその場に落下する。
良く見てみれば、それはグライダーのようなものを背負った小さな赤い髪の女の子だった。