魔人の狂想(13)
13
結局、彼の纏っていた黒いモヤについては何も分からなかったが、その後騒ぎを聞きつけた衛兵に事情聴取を受ける羽目になった。
しかし、俺たちの身元が冒険者学校の入学試験に向かう受験生だったということもあり、取調べは簡単に済まされ、それどころか学校の前まで馬車で送ってくれることになった。
やっぱり、身元がしっかりしているのはいいことだ。きっと、前回は俺の素性が不明だったばかりにあんなに長い時間拘束されることになったのだろう。
──そんなこんなで馬車に揺られながら二人雑談を交わしていれば、あっという間に冒険者学校前に到着してしまった。
「ここが、冒険者学校……」
感慨深げにため息を吐きながら、どちらともなくつぶやいた。
丁字路が合流して少し広くなった前庭。
その中央の噴水の前に停められたコーチ馬車の客車から降りると、目の前には巨大な城が建っていた。
高い石の堅牢な城壁。
それを囲う大きな堀。
そして見上げれば見えるいくつもの尖塔。
それらが渓谷に挟まれるようにして、まるである種砦のような容姿を見せていた。
馬車で送ってくれた衛兵にお礼を言ってその場を後にした俺たちは、他の受験生たちと同じ様にズンズンと跳ね橋を渡って冒険者学校の中へと入っていく。
「……思っていたより大きいわね。
敷地だけ見れば村三つ分くらいはありそうだわ」
アリスが呟いた通り、そこは大きめの村ほどの広さのある施設だった。
継ぎ目のない巨大なコンクリートのような建材の城壁に囲われた敷地内はまさに城そのもので、地面には煉瓦が敷かれて整備されており、庭も手入れがしっかり行き届いていた。
もはやここが本当に学校なのかすら怪しいくらいで、ここが誰かの城だと言ってくれた方が納得する。
まぁ、いろんな年頃の子供がぞろぞろと中に入っていくから、まず見間違いなんてしないのだけど。
(そっか、みんな同じ年頃だと勝手に思ってたけど、未成年が冒険者になるには冒険者学校を卒業しないといけないってだけで、いろんな歳の子が来るんだ……。なんだか新鮮だな……)
ちょっとしたカルチャーショックを受けながら、あたりをキョロキョロと見回していると、不意に隣を歩くアリスと目があった。
どうやら物珍しいのはお互い様の様だ。
「ふふっ。
それじゃ、さっさと受付を済ませましょうか」
「そうね、さっさと済ませちゃいましょ」
こうして、俺たちは二人して小さく笑いながら、順路に沿って受付まで向かうのだった。