第2話(3)
「変だ」
痛ッ。
今度は足蹴りかよ……。
「暴力女」
恨めしげに睨む俺を鼻で笑うように見返して、あゆなは明るい声で言い放った。
「上手くいった暁には、おいしいものでも奢ってよね」
◆ ◇ ◆
「由梨亜ちゃんって、お酒とか飲めるの?」
「やだな、わたしまだ高校生ですよ」
渋谷でストリートライブをやった帰り、俺は由梨亜ちゃんと並んで渋谷の明治通り沿いを歩いていた。
他のメンバーや美冴ちゃんなんかは機材と一緒に一矢の部屋についた頃だろう。
残念ながら、二人きりのデートに成功したわけじゃない。
わけじゃないけど、それでもこうして並んで歩いているだけでも俺は十分幸せだ。
「え、高校生って飲まない?」
「……飲みません」
由梨亜ちゃんと美冴ちゃんがライブに遊びに来ていて、なつみも来ていることだし、じゃあ終わった後に一矢の家にでも寄ってくか、と言う流れになった。
一矢の住んでいるマンションは、一介のバンド小僧が住んでいるとは到底思えない高級マンションだ。しかも一人暮らし。
何でそんなことが可能かと言えば、一言で言うと家庭の事情という奴である。一矢の家庭はいろいろと複雑だ。
それはともかくとして、バンド小僧が誰にも干渉されない一人暮らしの広い部屋を持っていれば、そこが溜まり場になるのは必然的な流れだろう。スタジオと一矢の部屋は、俺らクロス周辺の人間に良いように使われている。一矢も美保も別段異存はないようだ。
そして部屋飲みとなれば買出しが必要となるのは当然で、俺らは大概『○×ゲーム王者決定戦』とか、『棒消しバトルロワイヤル』とか、下らない変則的なゲームで買出し人材を決定する。
今回負けたのが俺と由梨亜ちゃん。普段なら面倒臭い買出しにも、ここぞとばかりに感謝をする。
「嘘。俺ら文化祭の打ち上げだとか体育祭の打ち上げだとか、何だかんだ言って飲んでたよ」
「それ、吹聴しちゃ駄目ですよー」
目を伏せてくすくすと笑う由梨亜ちゃんの軽やかな声が、耳をくすぐる。彼女が笑ってくれると、それだけで嬉しい。
下らない話で彼女を笑わせながらコンビニへの道を辿る。少しでも長くこうして隣を歩いていたくて、歩調は自然とゆっくりしたものになった。
「啓一郎さん」
時間はそろそろ十九時なろうとしているが、辺りはまだ昼の明るさを残している。空気もまだ熱気を孕んでいて、生暖かい風が吹いた。
間もなくコンビニと言うところまで来て、由梨亜ちゃんがふと俺を呼ぶ。何気なく見下ろすと、彼女はどこか複雑な表情を浮かべていた。何か言いたいことがありそうな、そんな表情。
「どうしたの?」
「あのー」
「うん」
「……えっと」
「……うん?」
何だろう。何かあったんだろうか。心配ごと?
由梨亜ちゃんに何かあれば何でも力になってやりたい。心配ごとがあるのなら、相談して欲しい。
ぎこちない彼女の様子を心配しながら、コンビニの手前で足を止める。つられたように足を止めた由梨亜ちゃんは、口ごもっては言い難そうに視線を彷徨わせた。
「何かあったの? どした?」
「あ、あの、あのね」
「はい」
「へへ変に思わないで欲しいんですけど」
「……はい」
彼女が口にしようとしていることに全く見当を付けられずに、言葉の続きを待つ。
由梨亜ちゃんは、思い切ったように早口で続けた。
「か、和希さんて」
その名前を聞いた瞬間、どきりと心臓が音を立てた。
嫌な予感。聞きたくないことを聞きそうな予感。
由梨亜ちゃんは、そんな俺の強張った表情に気がつかず、顔を俯けて慌しく一気に言った。
「和希さんとなつみさんって、な、仲良いですよね」
その言葉の裏に隠された彼女の気持ちに気づきたくなくて、痛む胸を押さえる。
無言のままの俺に、由梨亜ちゃんはかあっと赤くなった頬を両手で押さえて、恥らうように俯いた。
「や、やだな。わたし、何言ってるんだろ。やややっぱ、何でもないんです」
……はは。
あたふたとするその姿は、恥ずかしさと焦りを滲ませていて、そんな姿もまた愛らしい。
そんなふうに感じる自分に呆れたくなり、切なくなる。
胸に走る、諦めに似たショック。
(やっぱり……?)
薄々、そうじゃないかと思ってたよ、そりゃ。
(やっぱり、和希のことが、好きなんだ……?)
和希の姿を探す視線。話しかけることが出来ずに俯いてしまう姿。逸らされた視線に傷ついたような横顔。
それを俺はみんな覚えている。
目を逸らそうとした。気づきたくなかった。まだ大丈夫だと思いたかった。
「わっかりやすいな、由梨亜ちゃん」
再び歩き出しながら、小さく笑う。
慌てて俺に追いつきながら、由梨亜ちゃんが急いで否定した。
「ち、違……わ、わたしはそんな……」
見えないけれど、俺の言葉に慌てふためく声が追いかけてくる。
そして、言葉とは裏腹に聞こえる彼女の心の声。――和希さんとなつみさんって、どういう関係なんですか……。
「何が? 俺、まだ何も言ってないけど」
からかうように言いながら、心臓が痛かった。
いつものコンビニに足を踏み入れる。彼女の為にドアを押さえてやりながら、俺はこっそりため息を落とした。
そうだろうと、思ってはいたさ。打ち消そうと、していただけで。
……由梨亜ちゃんが和希を探す目つきをする度に、思うことがあった。
実は由梨亜ちゃんって、前から和希のことを好きだったんじゃないんだろうか。
元々知り合いだったとは、二人の様子からして考えられないんだけど。だけどそれでも、同じ敷地内にある大学と高校に通っているんだ。どこかで一度や二度のニアミスがあってもおかしくない。どこかで見かけてたとか、偶発的に何か言葉を交わしたことがあったとか。
礼を言って目の前を通り過ぎた由梨亜ちゃんから、ふわりと花のような香りがする。その香りさえ、今は少し胸に痛んだ。
何とか平静を装う為に、手にしたカゴへ適当にスナック菓子を放り込む。それから、後ろをついてくる由梨亜ちゃんを振り返った。
「由梨亜ちゃんも、何か食いたいもんあったら適当に放り込んで」
「ありがとう。大丈夫」
「大丈夫とか言ってないで。これ食う? 食うね。これも食う? 食うね。これも食いなさい」
「やだな、そんなに食べられないですよ……」
冗談半分に言いながら、強制するようにいちいち由梨亜ちゃんの前にスナック菓子を突き出してはカゴに放り込む。由梨亜ちゃんが、口元に手を当てながら笑った。それを視界の隅で認めて俺も口の端に笑いを象りながら、また胸がずきんと痛む。
(馬鹿だな)
わかってたじゃん。薄々。
俯いたままで笑うその横顔を見て、俺はこっそりとため息混じりに繰り返した。
菓子のコーナーを離れ、ドリンクのコーナーへと移動する。
「由梨亜ちゃん、何飲む? ウーロン茶? ビールは飲まないよねー?」
意地悪く言う俺に、由梨亜ちゃんが拗ねるように唇を尖らせた。
「ひどいな。意地悪。飲もうって言ったくせに」
「でもほらー未成年だしー」
「方宮くんも未成年ですよ……」
「じゃあ武人もウーロン? 由梨亜ちゃんが言いましたって言っておく」
「あ、ひどい」
会計を済ませて店を出る。
このまま、何も聞かなかったことにして戻ってしまいたい。
だけど彼女が俺に求めている役割は感じていた。
結局俺は、彼女を促して近くにある小さな児童公園の方へと足を向けた。
「どこ行くの?」
公園に足を踏み入れ、ベンチに買って来たビニル袋をどさりと置く。そばに灰皿があるのを認めて、ポケットを漁った。
「さっきの話、聞きたいんじゃないの?」
苦い表情にならないようにするのが大変だ。俺は、感情が顔に出やすい。
彼女の視線から逃げるように、俯いて煙草を咥える。火をつける間、由梨亜ちゃんは何も言わずに俺を見つめていた。
煙草の先から細く上る煙が、暗くなってきた空に吸い込まれていく。
口に出したら確定してしまう。
そう思う反面、口に出さなくたって、事実は事実だとわかっている。
「和希が、好きなんだ?」
痛い想いが滲まないよう、出来るだけ淡々と尋ねた。だけど、掠れた声はどうにもならない。
「そんな、別にわたしは、そそそういうつもりじゃなくて……その、何となくそう思っただけで……」
「言わないよ、別に。誰にも」
かなり早口で、急いで言い訳を口にしながら顔を伏せる由梨亜ちゃんを、遮る。
俺の言葉に口をつぐんだ由梨亜ちゃんは、次の瞬間切ない感情を滲ませて俺を見上げた。
「はい」
「ライブ、来る前から?」
「……はい」
「ふうん」
それを聞いて、思わず自嘲的な笑いが浮かんだ。
最初から彼女は和希のそばに近付きたくて、和希しか見てなくて。
そして俺は、そんな彼女に気持ちを奪われた。
優勝者が決まっているコンテストに、そうとは知らず一般応募して落選してる気分だよ。
「あ、でもっ……」
俺が黙ったのをどう受け止めたのか、由梨亜ちゃんは慌てて口を開く。
「違うんです。別に、和希さんに近づくためにどうこうって言うのはなくて、そうじゃなくって、わたし、わたしあの、クロスの人たち、みんな、好きで……」
突然マシンガンのように一生懸命話し出した由梨亜ちゃんにきょとんとする。ぽかんとする俺に気づかず、由梨亜ちゃんはまだ言葉を探していた。
「あの……あの、気分悪くしたらごめんなさい。でもわたし、みんなを利用したわけじゃ……」
その言葉に、思わず俺は苦笑いをした。
「全然そんなんじゃなくて、その、わたし、あの」
……可愛いの。
その必死な様子に、つい小さく吹き出す。泣き出しそうな笑いだ。もう笑うしかない。
そうじゃなければ、泣き出したい。
「そんなつもりじゃないことくらい、わかってるよ」
由梨亜ちゃんが言葉を飲み込んで押し黙る。俺をじっと見つめる視線が痛く、口にする言葉をなかなか見つけられなかった俺は黙って煙草を吸っていた。
少し、仲良くなれたような気がしてたよ。
だって、いつも一番話してくれるのは、俺とだったから。
だけど今わかる。和希には、話しかけたくても出来なかったんだよな。……好きだから。
「笑うことないのに」
くすくす笑い続ける俺に、やがて由梨亜ちゃんが困ったように、どこか拗ねたように言った。
笑う以外に、どうしていいかわからないんだ。ごめんね。
「だって俺が考えてもないことで必死なんだもん」
謝りながら、軽く彼女の頭に触れる。掌を通して伝わる由梨亜ちゃんの柔らかい髪と体温。
頭を撫でられるくらいの至近距離で、由梨亜ちゃんが半ば潤んだ瞳を上げた。
「わたし、本当にみんな大好きなんです。一矢さんも美保さんもなつみさんも方宮くんも……啓一郎さんも。大好きなんです」
わかってる、彼女の『大好き』の意味が俺が思うのとは全然違っているってことくらい。
由梨亜ちゃんを見ていることが出来なくて、俺は視線をそらして煙草を灰皿に放り込んだ。
……まだ、間に合う。
まだ、俺は引き返せる。
由梨亜ちゃんのことを本気で好きになっているわけじゃ、ないだろ。
少し惹かれただけ。……それだけ。
「俺も、由梨亜ちゃんのこと、好きだよ」
自分のセリフが、思ったより痛かった。
由梨亜ちゃんが俺を見上げる。その顔に向かって俺は懸命に笑顔を作った。
「友達じゃん」
「啓一郎さん」
ほっと安心したように柔らかい微笑みを浮かべるのを見て、悲しくなる。
『友達』、か。
「心配するのはわかるけどさ。和希となつみは、別に付き合ってるわけじゃない」
行こうか、と由梨亜ちゃんを促して歩き出す。小さく頷いた由梨亜ちゃんが、俺に並んだ。
「なつみのことが好きなわけでもない。少なくとも、俺はそう聞いてる」
「そう、なんですか」
「うん」
由梨亜ちゃんがまだ微かに潤んでいる瞳で俺を見上げていた。街灯が映り込んできらきらと輝いている。
俺は、どうしたいんだろう。どうすれば良いんだろう。
……彼女のことを、どう、思っているんだろう。
「俺で良ければ、いつでも相談しにおいで」
飲み込みたい気持ちを抑えて、無理矢理言葉を押し出した。
風が揺らす彼女の髪が、半そでの腕から伸びる俺の肌に触れる。その僅かな接触さえ胸に痛んで、俺は微かに顔を顰めた。
オトモダチ。
お兄ちゃん。
そういうポジションに収まることは、彼女の恋愛のマウンドから自分で下りていくことになる。
だけど。
「力になるから」
少しでも、由梨亜ちゃんの力になってあげることが出来るのなら。
「俺が出来ることならしてあげるし……わかることなら、教えてあげる」
「ありがとう」
言った由梨亜ちゃんの曇りない笑顔が、俺にはひどく悲しく映った。
*
複雑な想いを抱えたまま、一矢の部屋へ戻る。
戻った瞬間、美保がふてくされた顔で「遅い」と文句をたれた。
「あんなトコ、十分で行って帰って来られるじゃない」
「そんなに時間かかった?」
「二十分」
ああそう。そんなにかかったの。
「由梨亜ちゃんがどうしても日本酒の一升瓶を買うんだって言って聞かないから。探しに行くって言うのを止めてて」
「ちょっ……啓一郎さん、ひどいっ」
ビニル袋を一矢に手渡すと、中をごそごそ漁りながら一矢は俺を見上げた。
「俺のカラッキューは?」
「売り切れ」
「がーんっ」
言いながら、どしどしと床の上にビールだのサワーだのを並べて行く。美保が、ビールに手を伸ばしてプルリングを開けながら言った。
「ほらそこのラブラブカップル。どれ飲むの」
視線は和希となつみに向けられている。なつみは、こういう場面でもしっかり和希の隣を陣取ることを忘れない。
和希もまた突き放したりしないもんだから、こういう場面が誤解を呼んでいるんだよな、やっぱり。
和希にも責任があると俺は思う。加えて美保が拍車をかけるんだよな。なつみの気持ちを知っているもんだから。女の友情と言う奴か?
「やだ、美保ったら」
嬉しそうになつみが体を前に乗り出した。和希を振り返る。
「和希、何飲む?」
「ビール」
「はい」
どう見たって新妻だよそれじゃ。
なつみが缶のプルリングまで引いてやって、抱え込んでいたギターを床に横たわらせながら和希が受け取る。
「奥さん、手のかかる旦那だね」
床に直接あぐらをかいて一矢がアタリメの袋を開けて一本くわえながら言うと、なつみは嬉しそうに便乗した。
「そうなのよー」
和希は反論をしない。
我関せずと言う感じで、手近にあった椅子に腰を下ろすと、テーブルの上の雑誌に手を伸ばした。
俺も床に座り込んで缶ビールを一本片手に壁に背中を預けながら、それをぼんやりと眺める。
読めないんだよな、和希の気持ちってやつが。
「今日美姫ちゃん、どうしたの?」
「友達と出かけるって言ってたみたいだよ」
「ふうん。ケイちゃん、ハニーがいなくて寂しいわね」
ずるずるとテーブルを自分の方に引き寄せて煙草を咥えながら、一矢が俺をからかう。美姫が、俺の姿を見るとタックルかける勢いで溺愛してくれているのを揶揄しているんだろう。
「誰の話だよ」
「お姫様」
半ば気もそぞろに聞きながら、俺はちらりと由梨亜ちゃんの方に視線を向けた。
由梨亜ちゃんはソファに美冴ちゃんと並んで腰を下ろし、顔を寄せて二人で話している。
はっきりと知ってしまった彼女の気持ち。
俺はこれから、どうすれば良いんだろう。
「和希、何読んでんの」
「車」
「車? 買うの?」
「買わないけど。欲しいよね」
気持ちの半分以上は先ほどの由梨亜ちゃんとの話に残したまま、俺は和希の隣に移動した。その手元を覗き込む。反対側から、なつみが一緒になって雑誌を覗き込んだ。
「どっち派?」
「俺? ボックスかなぁ」
「アコードとか良くない? 俺アコード欲しいなぁ」
「ああ、良いね。俺、ゴルフとかが良いな。何か楽そうで。ごめん、俺の煙草、取ってくれる?」
「これ?」
言われてテーブルに手を伸ばして和希に煙草を渡してやる。
「一矢さん、これ、誰の?」
「俺のー」
「かけて良い?」
「駄目」
「はいはい」
そんな会話が聞こえたと思ったら、ステレオから音楽が流れ出す。80年代のアメリカのメガヒットバンドの古いアルバムだった。
雑多な会話。複雑な俺の気持ちとは裏腹の、表面上は何も変わらない空気。
「これさ、レコーディング、一発録りだって」
雑誌に視線を落としながら、和希が呟くように言う。
「そうなの?」
「うん。凄いよね。それでこの完成度って。ところどころ『今外したでしょ』ってのもあるけど、何かそれが良い味出してる感じで面白いよ。一矢に借りて帰れば? ライナーノーツにいろいろ書いてある」
和希はこういう音楽関係の薀蓄を本当に良く知っている。
「あ、うん」
頷きながら何気なく顔を上げると、ソファにいる由梨亜ちゃんと目が合った。ぱっと顔を伏せる。多分、和希を見てたんだろう。
自分の気持ちの整理をしきれないままで、俺はそのまましばらく和希と雑談を続けていた。『一発録りをするのはどうなのか』だとか、『昔のレコーディング技術と今』だとか、何だか本のタイトルにでもなりそうなことをつらつらと話し、なつみが時々口を挟む。
「ふうん。一矢ぁ、そのCDのケース貸して。……あれ? 今、何時?」
気もそぞろだったせいか、今更になって唐突にそんなことに気がついた。頭の後ろで和希が「二十二時」と短く答える。
「え? 二十二時?」
「二十二時になろうとしてる」
「うっそ」
言われて時計を見上げると、壁の時計はあと十分ほどで二十二時になろうとしていた。
はっとして由梨亜ちゃんと美冴ちゃんの方を見ると、いつの間にか彼女たちに混じって武人が笑っているのが見えた。その周囲にはかなりのビール缶が転がっている。概ね、犯人は武人だろう。
「ああ。彼女たち、そろそろまずいよね」
和希が雑誌をテーブルの上に置いて顔を上げる。
武人はいつものことだから良いとしても、彼女たちはあんまり遅くなる前に帰さないとまずいだろう。
本当は……俺が送ってあげたいけど。
想いを押し殺して、俺は言葉を押し出した。
「お前、由梨亜ちゃん送ってやってよ」
「は?」
俺の言葉に、和希が顔を顰める。同時になつみが責めるような視線を俺に向けた。怖い。
「何で俺……」
「方向一緒じゃん。どうせ。彼女、新中野だろ」
「それはそうだけど」
由梨亜ちゃんの住む新中野と、和希の暮らす南阿佐ヶ谷は、同じ丸の内線沿線だ。
新高円寺に住む俺だってそうなんだけどさ……。




