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【ZERO】ZERO-Crystal Moon-  作者: 市尾弘那
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第4話(3)

 てきぱきとキッチンを綺麗に後片付けし、ついでにコーヒーなんか入れて戻って来たあゆなに、俺は思わず感心して見上げた。

「さんきゅ。あゆなって意外と良い奥さんになりそう」

「……それ、褒め言葉だと思ったら大間違いよ」

「違うの?」

 褒めてんだけど。

 あゆなは俺の前にコーヒーカップをコトンとひとつ置いて、もうひとつを手に持ったまま俺の隣にすとんと腰を下ろした。

「そのセリフって意外と、自分が眼中にない女に向かって言うことが多いのよね」

「……」

「頭に『俺以外の誰かの』って言葉が隠されてんのよね」

 そうなん?

 そうかな?

 ……そうかも。

「けど、別にあゆなだって俺の嫁さんになりたいわけじゃあるまいし」

 息を吹きかけてコーヒーを冷ましながら、カップを口に運ぶ。暑い盛りは終わったとは言え、まだ残暑厳しい。エアコンを効かせた室内でホットコーヒーと言うのはそれなりに贅沢な気がする。

「そりゃあねえ……こんな手のかかる人じゃねえ」

「あのねえ……」

 顔を顰めながら、あゆながさっきマガジンラックに戻した雑誌を引っ張り出した。月刊のバイク雑誌だ。もう既に読み終えているそれを何となく開いてカップをテーブルに置く。

「でも、手がかかる男ほど目が離せないって言うのはあるわよね」

 ページを捲る手を止める。

 黙ってあゆなを見ると、あゆなは両手でカップを持ったまま、俺を見つめていた。

「……何」

「失恋したての弱みに付け込むみたいだけど」

「あゆな?」

「わたしね」

 そこで一度言葉を止めたあゆなは、何かを押し殺したような硬い表情で俺を真っ直ぐに見つめたまま、言った。

「わたし、啓一郎のことが好きよ」

 え……?

 目を見開く。

 言われている意味がわからなかった。

 呆然としてあゆなを黙って見つめる俺に、あゆなが一瞬視線を逸らす。俯けるように彷徨った視線を俺に戻した時には、あゆなの顔には落ち着いた表情が戻っていた。

 それから、コーヒーカップをテーブルに置く。身を出した、と思った時には、あの時のようにふわりと唇に柔らかい感触を受けていた。

(えっ? えっ? えっ?)

 脳味噌が状況についていけず、目を見開いて柔らかい感触を唇に受け止めたまま、身動きが取れない。

 遅ればせながら鼓動が胸の内で加速し始めた頃、唇を離したあゆなが俺を間近で覗き込んだ。

「耳、ないの?」

「え? あ……」

「口があるのは今確かめたけど」

 ……そんな確かめ方せんでも目で見ればわかるだろう。

「どうしたの?」

 今更ながらばくばくと暴れ回る心臓。尋ねた声が掠れる。

 ……嘘だろ? 今まで、一度たりともあゆなが俺のことを好きだなんて、考えたことも感じたこともなかった。もしかすると新手の冗談か? 体を張り過ぎと言う気もするが。

「好きだと打ち明けた女の子に対して『どうしたの?』とは恐れ入るんだけど……」

「だって、そんな素振り、微塵も……」

 あきれたように顔を離したあゆなは、膝を抱えて座り、その膝に頬をくっつけるように俺を見た。さらさらの艶やかな長い髪が、まるでシャンプーのCMのように滑り落ちる。

「馬鹿だからよ」

 ……。

 俺のことを本当に好きだと思うのならば、この態度はないだろう。

「あのなっ……」

「別に、だからどうしてくれなんて思ってないわ。言いたくなっただけ」

 咄嗟に怒鳴りかけた俺の言葉を奪い取るように、あゆなは静かな声でぽつりと言った。

 その、どこか悟っているような静かな横顔に、思わず言葉を飲み込む。あゆなが続けた。

「あなたの好きな人はあなたを見てはくれないかもしれないけど、それはあなたが悪いわけじゃない。ちゃんとあなたに惹かれている人も存在してるって知って欲しかっただけ」

「……あゆな」

 とくん、と心臓が微かに鳴る。胸の奥が、そっと温かくなる。

 先ほどの言葉が本当にしても冗談にしても、どちらだとしたって彼女が今俺を気遣ってくれている気持ちに嘘はない。そう思えた。

「ありがとう」

「だから言ったでしょ。励ましに来たのよ。一応」

「……うん。励まされた」

「そうでしょ」

 そ知らぬ顔であゆなはコーヒーカップに手を伸ばした。

「気づかないだけで、啓一郎を見ている人は、意外といるのよ」

「……美姫?」

 げっそりと尋ね返すと、あゆなが吹き出した。

「ま、アレはあれだけど……」

「アレ以外に浮かびませんが」

 間違えてもらっちゃ困るが、俺だって美姫が本気で俺のことを好きだと思っているわけじゃない。

「だって実際気づかなかったでしょ、わたしの気持ちには」

「う」

「だから、大丈夫。何の慰めにもなんないのはわかってるけど、好きな人がこっちを見てくれなくても、必要と思ってる人は……魅力を感じている人はいるわ。好きな人の評価だけが、全てじゃないわ」

 誰にどれだけ好かれたとしても、自分が本当に好きな人に好かれなければ意味はないけど。

 でも、誰にも必要とされない自分であるよりは、良い。

「そっか」

 優しく目を細めたあゆなに、俺も、今日初めて自然な笑みを覗かせた。

 痛んだ心が少しだけ、癒されたような気がした。


           ◆ ◇ ◆


 ロードランナーでのワンショットレコーディングは、結構すんなりと終わった。

 プロのレコーディング、しかもオムニバスのと違って向こう出資だからもっと時間がかかるかと思ったけど、五曲録って一週間。

 そんなもんなんだろーか。インディーズだからだろーか。それとも思いつきのワンショットだからだろーか。

「あ、啓一郎さん、一矢さんッ」

 何にしてもレコーディングを終えて一仕事片がつき、解放された気分で今日のライブは伸び伸び出来そうだ。別にいつも伸び伸びやってるけど。

 リハを終えて本番までの間、俺と一矢は渋谷の道玄坂にあるハンバーガーショップへ足を向けた。武人はリハに来てないし、美保はよそのイロオトコバンドのリハにかじりついてるし、和希は楽器屋に走っている。ゆえに、二人。

 何気なく店に足を踏み入れ、自動ドアががーっと開いた瞬間、カウンターの内側から店員に名指しをされて少なからず驚いた。

「あれえー? 美冴ちゃん」

「こんなところで」

 レジカウンターの内側では、赤とピンクのユニフォームに身を包んだ美冴ちゃんが、こちらも驚いたように目を丸くしてこちらを見ている。自然と俺たちの足はそちらに向き、美冴ちゃんがコケティッシュに首を傾げた。

「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですかー?」

「えええー? バイト? いつからやってんの?」

「ふふ。夏休みの終わりから始めたんですよ。オーダー、何にします?」

「あ、えっと」

 混み合っている周囲を気にしてか、美冴ちゃんが再度促す。確かにこんなところで立ち話とはいかないので、俺と一矢は慌ててオーダーを美冴ちゃんに告げた。

「てりやきバーガーとフィレオフィッシュのセット、ダブルチーズバーガーとフィレオフィッシュのセット、それぞれお飲み物がコーラ、以上で宜しいですか?」

「はいはい」

「少々お待ち下さいませー」

 にっこりと再び全開の笑顔で小首を傾げ、バックにオーダーを流す後姿に、思わず一矢と顔を見合わせる。普段妙に大人びて見える美冴ちゃんだけれど、こうしてみるとやっぱり高校生だな。年若さの醸し出すキュートさが。

「お待たせ致しましたー」

「いいえー」

 出揃ったオーダー品を受け取りながら笑顔を返すと、その場を離れかけた俺たちに美冴ちゃんが小声でこそっと尋ねた。

「後で、席まで行っても良いですか? わたし、もうじき上がりなんです」

「もちろん。俺ら、二階の喫煙席のトコいるから」

「待ってるねーん」

「はーい」

 トレーを持って階段を上がる。

 カウンターの混み具合から考えれば、思ったほど席は埋まっていなかった。窓際の四人掛けに陣取って一矢と向かい合う。

「びっくりしたー」

「制服姿ってそそるよね」

 ああそう……。

 フライドポテトをつまみながら、あきれた視線を一矢に向ける。一矢は気にした様子もなく、にっと笑ってハンバーガーの包みをあけた。

「美冴ちゃん、もうじき上がりってことは今日のライブって来てくれるのかなあ」

「後でどうせ来るんだから、聞いてみれば良いのではないでしょーか」

「そりゃそうだ」

「由梨亜サンはどうなんですかねえ」

 何食わぬ顔をして、一矢が地雷を踏む。

「さあね」

 平静を極力装いながら、俺はハンバーガーにかぶりついた。俺の動揺には無頓着に、一矢が言葉を続けた。

「あ、そーだ。俺ねえ、夏に知り合った三つくらい年上のモデルの人がいてさあ」

 そこまで言うと、ぱかっと口を開いてダブルチーズバーガーにかじりつく。どうせナンパだろう。驚くような話じゃない。

「あ、そう」

「今日ライブ見に来るって言ってたよ」

「へえー。そりゃありがたい。今度モデル友達紹介してね」

 口先で適当なことを言いながら、ハンバーガーを片付ける。

「大体どこで引っ掛けてくるのかね、そういうのを」

「クラブ」

「何をしに行ってるんだよ」

「ナンパ」

 ま、好きにしてくれて構わんのだが。

 俺の沈黙をどう受け取ったのか、一矢がどこかため息混じりの複雑な表情で付け足した。

「特定の彼女とかは、いらないっす。当分」

「ふうーん。俺は欲しいけどね」

「そう? 面倒でしょ? いろいろと。そう言や、あゆなちゃん辺りいい感じなんだけどなあ。構ってくれましぇん」

 どき。

 あゆなの名前が出て、微かに俺の表情が固まる。気付いた様子もなくダブルチーズバーガーをぺろりとたいらげた一矢は、フィレオフィッシュに手を伸ばしながら親指を舐めた。

「ああいうのタイプ?」

「本気で好きになるタイプかって言うとちょっと違うけど。見目麗しい方に遊んで頂く分にはやぶさかではないわけで」

「見目だけで良いのかよ」

「ああ、でもねえ、今日来る人、麻美さんって言うんだけどさ、彼女はああいうタイプだなあ。きりっとした綺麗な人で、口の悪さは天下一品みたいな」

 そのテのタイプを周囲に増やすのはやめてください。

「お互い割り切って付き合うには好きなタイプ、ってところかな。啓一郎のタイプじゃないわなー」

「……まあね」

「啓一郎はさしずめ……由梨亜ちゃんとかあのテのタイプ」

 思わず、手にしたてりやきバーガーを落としそうになった。し、心臓に悪い。

「まあでも意外と和希とくっついちゃったみたいで」

 俺の動揺には気がつかなかったらしく、一矢はフィレオフィッシュもマッハで食べ終わってコーラをずずっと飲んだ。俺の心はピンヒットしまくった地雷の爆撃でぼろぼろだ。

「……そうだね」

 和希と由梨亜ちゃんが付き合い始めてから、二週間ほどが経過する。

 言葉にならない俺の苦痛は相変わらずだけど、ようやく少しだけ、俺の感情としても理解し始めたと言うか、諦め始めた。

 なつみのことがあるし、和希もあまり人前でべたべたするようなタチでもないせいか、想像通り和希ははっきりとは何も言っていない。由梨亜ちゃんも夏休みが終わって学校が始まってからは、一度しか遊びに来ていない。明確に知っていたのは、由梨亜ちゃんの口から聞いた俺と、多分、美冴ちゃんだけだったんじゃないかと思う。

 だけど、そうは言ってもこういうのって薄々周りにバレていくもんなわけで。

 ああ、でもなつみはもしかすると、和希に問い質したりしたんだろうか。俺は別にその辺の確認なんて取っていないけど、そう言えば最近見かけなくなったな。

「意外?」

「啓一郎に行くかと思った。和希もそう思ってたみたいだし」

「……そうなの?」

「仲良かったじゃん」

 俺は食べかけたままぼーっとしてたてりやきバーガーを口に放り込み、二つ目に取り掛かった。むぐむぐと口を動かしながら、人知れず小さく溜め息をつく。

「別に仲良かったわけじゃないよ。相談乗ってただけ」

「相談?」

「だから……和希のことで」

「ふうん」

 ちょうど俺がフィレオフィッシュを食べ終わって包み紙をくしゃくしゃと丸めたところで、私服に着替えた美冴ちゃんがトントンと階段を上ってくるのが見えた。ひらっと手を振る。

「お疲れ様」

 片手にコーラの小さなドリンクカップを持った美冴ちゃんは、迷ったような顔をして手近な一矢の隣に腰を下ろした。学校の制服姿だ。

「そいつの隣に座ると妊娠しちゃうよ」

「そうそう」

 俺の言葉に一矢がこくこくと頷く。くすくすと美冴ちゃんが笑い、「じゃあやめた」と言って俺の隣に移動した。一矢が怨めしそうに俺を見る。

「せっかく女の子と相席だったのに」

「人望でしょ」

 しれっと言って、俺はまだポテトの残るトレーを美冴ちゃんの方に押しやった。

「良かったら食べて良いよ」

「あ、すみません」

 美冴ちゃんが頭を下げてポテトを一本つまんだ。

「今日ってスタート何時からですか」

「十八時半」

「何時からバイトしてんの?」

「今日は十六時から二時間だけ。普段は一応二十時までやってるんだけど」

「学校の後? 疲れない?」

「でも、クロスのライブ行きたいし、CD出たら欲しいし」

「……えっ? その為にバイトしてんのっ?」

 思わず手にしたポテトを落とした。

 いや、でも、そっか。一回2,500円+ワンドリンクとかとられるライブの入場料ってのは、高校生の財布には結構痛いかもしれない。俺にだって痛いんだから。

「何だ、言ってくれれば全然入れてあげるよ」

 頬杖をついて言うと、美冴ちゃんはふるふると首を横に振った。

「そんなことみんなに言ってたら、大変なことになっちゃいますよ」

「そりゃそうだけどさ。だって、友達じゃん?」

 言いながらポテトに指を伸ばす。美冴ちゃんは、ぱっと顔を赤らませて笑顔になった。

「え、ええっ? ホントですか?」

「ホントって? 入れてあげるって話?」

「じゃなくて。友達って、思ってもらえてるのかなあって」

 どこかくすぐったそうに目を細めるのを見て、俺も一矢も思わず笑う。

「当たり前なんですけど」

「ふふっ。でもね、ダメです。クロスが好きだから、クロスがいっぱい活動出来るようにお金落とさなきゃ」

「泣かせるのう……」

 一矢がさめざめと泣き真似をした。

 くすくすと美冴ちゃんが首を縮めるようにして笑ったところで、一矢が「あ、ごめん」と呟いて携帯を取り出す。

「はいはい。……ああ。そう? うん、わかった。迎えに行くよー。はーい」

「麻美さん?」

 通話を切って立ち上がる一矢に、頬杖をついたまま問い掛ける。一矢は自分のトレーを片手に持って頷いた。

「うん。ちょっと迎えに行くわ、俺。んじゃ美冴ちゃん、また後でねー」

「はーい」

 一矢がトントンと軽快な足取りで階段を降りていくと、俺と美冴ちゃんは何となく顔を見合わせた。

「二人しかいなくて隣同士って何かヘンだよね」

「……移動します」

 美冴ちゃんが一矢の座っていた席に移動する。それから首を傾げた。

「一矢さんの彼女さん、ですか?」

「まさか」

 即座に否定してのけて、俺はストローを咥えた。コーラを飲んでから続ける。

「不特定多数」

「へえ。でも珍しいですね、ライブに連れてくるの」

「そう? 見てないだけで実はうじゃうじゃいるんじゃないかと俺は踏んでるけど」

「うじゃうじゃって……」

 コン、と空になったコーラのカップをトレーに置いて俺は頬杖をついた。美冴ちゃんを斜めに見る。

「由梨亜ちゃんと和希は、調子良さそう?」

「ええ……えっ?」

 ぼと、と美冴ちゃんの手からドリンクカップが滑り落ちた。

 中身がまだたっぷり詰まっているらしく、そのままばすっとテーブルに落ちて液体の重みで直立する。

「そんな驚かなくても」

「や、し、知ってたんですか?」

「知るも何も……」

 俺に話したことを由梨亜ちゃんは言っていないらしい。

「……まあ、見てればわかるしね。みんな知ってるんじゃないかな」

 俺の茫洋とした回答に、美冴ちゃんが複雑な表情で視線を落とす。

 それから、おずおずと言う風情で俺を伺うように上目遣いで続けた。

「あのう」

「うん?」

「ショック受けたりとか、しました?」

 右手で意味もなく玩んでいた空のカップを、今度は俺が落とす番だった。中身が溶けかけた氷ばかりなので、テーブルに弾んでコンと軽い音を立てる。

「お、俺が? 何で」

「由梨亜のこと、好きなのかなって。勝手に思ったりしてました」

「……まさか」

 笑顔が引きつる。何だよ、俺ってそんなにわかりやすいのか? だったら、どうして的確に的だけを外してバレるんだよ……。

「あ、ち、違うんだったらいいんです、別に」

 慌てたように美冴ちゃんが言う。お互い引きつったような作り笑いを浮かべ、奇妙にぎこちない空気が漂った。

「まあ、可愛いとは思ってたけど」

 自嘲的な気分で、真髄に触れない言葉を探す。

「美冴ちゃんも可愛いと思ってるし。別にそんな、深い感情はないよ」

 だったら良かったんだけど……とほほ。

 俺の言葉に美冴ちゃんが安心したような表情を見せた。心配してくれたのかなと少し嬉しく思う。

「なら、良いですけど」

「うん。ありがとう」

 俺の言葉に納得をしたのか、美冴ちゃんは肩の力を抜くようにそっと白い歯を覗かせて、先ほどの俺の問いにようやく答えた。

「由梨亜はね、今、凄い幸せそうです」

 そっか……。

 和希とはそういう恋愛っぽい話とか全然しないから、二人がどういうふうに付き合ってるのかは俺は全く知らない。付き合い始めてからは、当然由梨亜ちゃんも俺に相談したりすることもなくなったし。

 でも幸せならそれで……良かったと思えるから。

 ……思うしか、ないから。

「なら良かった。和希もさ、ずっと彼女いなかったし。良かったんじゃん?」

「そうなんですか?」

「うん。変に生真面目なトコあるから。あいつ」

「でもそれなら、親友を安心して任せられるわ」

 言って笑顔を見せる美冴ちゃんを、変な意味ではなく素直に可愛いなあと思う。仲が良いんだな。

「おっと。そろそろ行こうか。スタートだ」

「わ、大変」

 時計を見て慌てて立ち上がる。

 美冴ちゃんの話を聞いて、安心した。

 幸せに二人が付き合ってくれてれば、それで良い。

 彼女が泣かずにいられるのなら。

 笑顔で、いてくれるのならば……。












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