3.
前回の続き。
リーザに吹っ飛ばされたアラロアは目を覚まして――
***
「――ん」
目を開けると、青い空が見えました。
なぜ空が?
どうやら、私は大通りのど真ん中に臥せっているようです。大勢のやじ馬が私を取り囲んでいます。
何があったんでしたっけ?
夏空の下、街の皆さんが頑張って用意しているお祭りの造作を盛大にぶち壊したその瓦礫の上で大の字になるには、それなりの理由が必要のはずです。
が、ちょっと前後の記憶が定かではありません。
私は左手で半身を起こし、そこにいたやじ馬の方の一人に事情を聞こうとすると、
「ひぃっ!!」
一体なんだと言うのでしょう。その人は青ざめて私を避けるように身じろいでいるのです。
失礼しちゃいます。
「ちっ、なんだ生きておるのかぁ」
広場に、リーザ様の麗らかな声が響き渡りました。
「リーザ様!」
声のした方を見ると、調停執行府2階の窓……というより、レンガの壁をぶち破って出来た大穴から、リーザ様が顔を出しています。
そうだ、思い出しました。
私がリーザ様の御肌に触れようとして、鉄拳制裁を受けたのでした。
執務室の壁に叩きつけられたところまでは覚えていましたが、まさかそのまま壁を突き破って広場のこんな真ん中まで飛ばされていたとは。
それにしても、照れ隠しに手が出ちゃうリーザ様も、幼稚で素敵ですよね。
とはいえ。
「リーザ様! 相変わらずの威力は素敵ですが、やり過ぎですわ~!」
また始末書ですわ!
私は抗議の意を込めて右腕を振りあげました。
と、しかし、振り上げた実感が全くありません。
「おや?」
それどころか腕そのものが見当たりませんでした。
どうやら飛ばされた衝撃で千切れてしまったようです。
よく見ると左脚もありません。
「あらあら。術の発動が中途半端だったのでしょうか……。屍・肉・惹・魂!」
術を唱えると、右手と左脚のなくなった部分がぼこぼこと泡立つようにしながら再生始めます。ほっと一息。
これ、ちょっと自慢させていただくと、私が学院の4年生の時に開発し、年間の最優秀学生としてハイリゲンブルク国王からの勲章授与を内定された術なのです!
なぜかその後内定が取り消しとなってしまったのですが。
あらかじめ自分に掛けておいて、自分の肉体が死んだとき、この世の他の屍肉から使える部材を寄せ集めして蘇生する術、という点に道義的な問題があるとか何とか……。
きっと大人の事情があったのでしょう。世の役に立てようと、研究会のみんなで制作していた解説書の発行も、無理やり止められてしまいましたし。
まあ終わってしまったことは仕方のないこと。千切れ飛んで行った私の手足の行方を気にしても詮無いことと同じです。
いずれにしても、私の学生時代の酸いも甘いも詰まった、思い入れのある術なのです。
「まあ生きておるのなら、致し方ない。仕事だ~戻ってこ~い」
きゃああああああ!
リーザ様のラブコールに、顔が熱くなるのを感じました。
ああ、リーザ様に必要とされている!
つまり、リーザ様は私を愛してくださっている! 照れ隠しが殺人的に激しいのが、その証拠ですわ。
「はい、ただいま!」
私は再生した手で官服の汚れを払って、執務室へと走りました。
***
アラロアはきっととても優秀な学生だったんですね~。
次回はリーザとアラロアの調停執行官としての仕事ぶりを紹介する予定です。
まだ続きを見てやろうかなと思う方がいらっしゃいましたら、
ブックマークや評価を頂けると嬉しいです!