【番外編】パパと美哉の花粉症
── 間もなく花粉症の季節がやってくる
「どうしよう…」
「悩ましいにゃ…」
正宗と美哉は花粉症だ。
毎年、その症状に悩まされている。
「今年こそは楽に過ごしたいんだけど…」
「パパもにゃ…」
効果抜群の注射で花粉症を乗り切りたいが、大人になっても注射が大嫌いな正宗と美哉が大きなため息を吐く。
「無理に注射を打たなくてもこまめに薬を飲んだら?」
「文ちゃんは花粉症の辛さを知らないから!」
「そうにゃ!」
「そもそもお薬だって飲みたくないの!」
「不味すぎるにゃ!」
不機嫌そうに尻尾で床をタン! タン! と叩きながら正宗と美哉が文治郎を睨む。
「…俺だったら、サッサと注射を受けちまうけど」
「どうして文ちゃんは注射が平気なの!?」
「針を刺すんだから痛むのは当然だろ。目をつぶって我慢してれば、あっという間に終わるし…」
「人族は獣人よりも弱いくせに注射に強いっておかしいにゃ!」
「…じゃあ注射はやめて毎日薬を飲んだら…」
正宗と美哉に睨まれた。
「…2人とも小児インフルエンザから回復した時、薬を嫌がったのも注射でぐずったのも子供だからだって言い張ってたな…」
正宗と美哉が気まずそうに目をそらす。
似たもの親娘だ。
「今は子供じゃないから注射くらい屁でも無いんじゃないのか?」
「……」
「……」
正宗と美哉が文治郎を睨む。じと目がブス可愛い。
「注射を受けたら晩飯に“ばらちらし寿司”を作るよ」
「それくらいじゃ釣られませんから!」
「デザートもつけるにゃ!」
「…何がいい?」
「アップルパイ…」
「カスタード入りのアップルパイがいいにゃ…」
「分かった。じゃあ病院に予約の電話をして」
「…」
「…」
「今! すぐに!」
渋々と注射の予約を取った正宗が通話を終えた。
「…明日にゃ……最悪なことにちょうど昼過ぎに空きがあるって言うにゃ…。勝手に予約を確定させられたにゃ…」
「パパ…」
涙目の親娘が抱き合って悲しむ。
「サッサと終わらせて美味いものを食おう」
勝手に確定もなにも向こうはそれが仕事なのだ。
── 明日は朝からこっちの家で過ごさないとダメだな。通院前に逃げださないよう見張って、時間通りに病院に連れて行かないと…。朝からパイ生地を仕込もう。2人の気をそらすのに丁度いいな。
この世の終わりがきたかのように悲しむ親娘をスルーして頭の中で段取りを組む文治郎だった。
*******
苦労してぐずる2人を病院に連れて来ることに成功したが、すでに文治郎のライフはゼロだ。朝からぐずる2人に手を焼いて、病院に連れて来るのも一苦労だった。
それなのに正宗と美哉は今も元気いっぱいにぐずっている。
「2人ともいい加減にしろよ! 呼ばれたら診察室に入るんだろ」
正宗と美哉は診察室に入りたくないとぐずっていた。
ここまできて抵抗されるとは思っていなかった文治郎は、もう倒れそうだ。
「はーい、そのまま押さえていてねー」
待合室に現れた医師たちが正宗と美哉を拘束した。
「あらかじめ書いてもらった問診票ね、問題なしだったから。それじゃあいくよー」
激しく抵抗したが容赦なく打たれた。
「押さえ込んでブスっとやるなんて酷いにゃ!」
「やっぱりヤダって言ったのに!」
── 来年は注射も薬も放っておこうと決意する文治郎だった。




