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第68話 宗一郎、中学生になる

今日は吉宗一家の家に祖父母と正宗と美哉が集まっている。みんなで宗一郎の中学入学を祝うのだ。


獣人学校の入学には特に試験もないが、やはり節目は祝いたい。


「こんにちは!」

「美哉ちゃんにゃ!」

予想通り宗平が抱きついてきた。


「久しぶりだね、宗平そうへい君」

「俺に会いたかったにゃ?」

「皆んなに会いたかったよ」

「俺と結婚するにゃ!」

「しないからね」


「今日も会ってすぐにフラれてるにゃ…」


宗平の後ろで今日の主役である宗一郎そういちろうが呆れた様子でつぶやく。


「宗一郎兄ちゃんはうるさいにゃ、俺は美哉ちゃんを口説くのに忙しいから、あっちに行くにゃ」

「こら! 今日の主役は宗一郎君でしょ!」

美哉がベリッと宗平を引き剥がすと、正宗が宗平のうなじを掴んで宙にぶら下げた。


「おめでとう、宗一郎君。いよいよ中学生だね」

「ありがとう美哉ちゃん。小学校と特に何も変わらないんだけど、やっぱり嬉しいにゃ」


宗平の行動に振り回されてきた宗一郎は年齢に比べて大人びているし、時宗の影響もあって人間が出来過ぎだ。今日も穏やかに微笑んでいる。こうでなければ宗平の兄などやっていられない。


「旅行先からハガキありがとうにゃ。猫のハガキ可愛いにゃ」

正宗との京都・奈良旅行で訪れた春日大社のお土産屋さんで買ったポストカードを従兄弟達に送ったのだ。メールやLINEで済むこともハガキで貰うと嬉しい。


「楽しかったよ。時宗君がいまどこに居るか分からなかったから、ここに送っちゃったんだけど」

「うん大丈夫にゃ。メールで知らせたら帰国を楽しみにしてるから置いておいてって言ってたにゃ」

仲良く会話しながら美哉と宗一郎が奥に進む。


宗平は正宗にうなじを持ってぶら下げられながら玄関で美哉と宗一郎を見送った。

「悪いにゃ、正宗」

「なんてことないにゃ」


正宗から吉宗に、物のように渡された。


── 屈辱的にゃ。うなじを掴まれるとピクリとも動けないにゃ。


手足をダラーンとしたまま吉宗に運ばれ、リビングに着いても開放されず、そのまま吉宗のお膝に座らされた。


吉宗と美哉からの入学祝いはオロビアンコのボディバッグだ。もう小学生ではないから子どもっぽいものは選べない。

それに記念なので、ちょっと良い物を選びたかったし、せっかくなので使って欲しい。2人で悩みまくって決めた。


「わあ! ありがとう。おじさん、美哉ちゃん! 僕、大事に使うよ」

嬉しそうな宗一郎が可愛い。


「これは宗平君に」

ブロックのセットだった。


宗平へ贈る物は特に難しい。

悪戯を助長する物や、暴れる理由づけになる物はNGだ。

つまり、この年齢の子供に人気のヒーローにまつわる物や、身体を動かして遊ぶキックボードやインラインスケート、サッカーボールなどは絶対にダメなのだ。


それなら宗平には何も無くていいのでは?今日は宗一郎のお祝いだし?とはならない。そういう訳にもいかないのだ。


「宗平には、まだ難しいかと思ったけど美哉ちゃんが、宗平なら出来るって言うにゃ」

「宗平君は大人びているから、こういう頭を使う物が向いてるかな〜って」


「美哉ちゃんの学校に凄い作品を作る生徒がいるにゃ。美哉ちゃん、あの写真を見せてあげたらどうにゃ?」

「あの写真ね! ちょっと待って…これこれ。学園祭でレゴ部が作った作品なんだけど凄いよね! 作品と一緒の記念撮影も順番待ちだったんだ。こういう作品を作れる人って憧れちゃうなー」


若干、棒読みだったのは仕方ない。シナリオ通りのやり取りだった。


─ 美哉ちゃん、ナイスにゃ!

─ ありがたいにゃ!

─ 待望のインドアな玩具にゃ!


吉宗と志津と宗一郎、心の叫びだった。


「こういうのを作れる人がカッコいいにゃ?」

「想像力とセンスだけじゃないんだよ。事前に計算し尽くされた作品なんだから。有名なのは東大のレゴ部だよね。レゴ部に入部したくて東大に入学する人もいるらしいよ」

「そうにゃ…」

宗平が何か考え込んでいるようだ。


「美哉ちゃんは進学校だからにゃ!」

「美哉ちゃんも東大を目指してるのかにゃ?」

祖父母が美哉に加勢する。



とはいえ宗平がLEGOにハマって大人しくなる可能性は極めて低いと、全員が諦めている。

でも、ちょっとだけ夢を見たいのだ。


夢見心地で宗一郎の入学祝いを祝った。

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