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第6話 太一の後悔

「美哉〜」

「由香ちゃん、おはよう」

「今日も仲良いねえ」


同じクラスの由香は中学からの友人で、美哉と文治郎の関係には詳しい。中学に入学して直ぐ、小学校で美哉と一緒だった生徒たちから美哉と文治郎の話が伝わったのだ。美哉の小学校時代のエピソードにも詳しい。同じように高校でも同じ小学校や同じ中学校だった生徒達から美哉と文治郎の関係が周囲に伝わっている。


美哉に手を出したら正宗と文治郎が黙っていない。


正宗の猫パンチを受けてみたいと夢見る者も居なくは無いが、今のところ平和に過ごせている。


「今度の日曜日、空いてる?」

「日曜日は文ちゃんと約束しちゃった」

「そっかー」

「何かあるの?」

「買い物に付き合って欲しかったんだけど約束しちゃったなら仕方ないなー。でもちゃんとしたデートっぽいお出掛けは久しぶりなんじゃない?」

「えへへ、そうなんだよねえ」

美哉が嬉しそうだ。

「いつも一緒なのにデートは嬉しいの?」

「そりゃ嬉しいよ!」


2人の会話を盗み聞きしながら血の涙を流す男子生徒がいた。

小学校から美哉と一緒の太一だ。


「またしても同じクラスで、あいつとのイチャイチャな話を聞かされるとは…くそっ」


太一は小学三年生の時、美哉に一目惚れし、美哉の尻尾を掴んで即効で嫌われた。正宗からはゴミを見るような目で見られ、文治郎からもマークされているが、未だに初恋を拗らせている。


── 獣人族の尻尾を触っちゃいけないって聞いてたけど、まさかあんなに嫌われるなんて…。


太一は大人の言うことを聞かない系の子供だった。獣人の尻尾には家族以外は触れてはいけないと国際法で定められているし、社会的なタブーとして認識されている。


しかし小学校三年生で美哉と同じクラスになった太一は、すぐに美哉を好きになり、尻尾を掴んだ。


美哉が悲鳴をあげ、大騒ぎになった。

怒り狂った正宗が、その日のうちに警察に被害届を出し、民事訴訟を起こした。


ゴタゴタの末、太一が美哉に近付いたり話しかけたりしないよう裁判で決められた。小学校、中学校では同じクラスにならないよう配慮されたが、高校で再び同じクラスになった。


久しぶりに近くで見る美哉は超可愛い。

でも近付いたり話しかけたりしちゃいけない。


── それなのに生物のグループ研究で同じグループに入れられた。

5時限目、今日最後の授業での出来事だ。


「先生、同じグループ、ダメ」

美哉が怒りの声をあげる。

「ど、どうした?瞳孔が開いているぞ?」

生物の教師がビクビクとたずねる。


「太一、私の尻尾、掴んだ。許さない」

美哉の尻尾がタン! タン! と机を叩く。


「えっと小学校の時に。それで太一は美哉に近付いたりするのを裁判で禁じられてて…」

言葉少なく怒りを表明する美哉を、由香がフォローする。

美哉の尻尾がタン! タン! と机を叩く音が教室に響く。


「え!そ、そうだったんだ! 知らなくてごめん。それじゃグループ分けは…」

オロオロする生物教師。


「太一、うちのグループに来いよ!」

狼獣人の鉄平が太一に声を掛ける。

人族と獣人の割合は1クラスに獣人が平均で2〜3人。美哉のクラスは美哉と鉄平の2人だ。


「じゃ、じゃあ向こうのグループに入ってくれるかな?」


「でも俺の尻尾もダメだぞ! いくら俺が魅力的でもな」

「ああ、もう身に染みてるから……」

鉄平は鈍感系のムードメーカーだが、それでも尻尾はダメなようだ。


気まずい空気のまま生物の授業が終わりそうだったが、鉄平のフォローとおとぼけで和やかに終わった。

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