第55話 猫の日
2月22日は猫の日だ。
「お爺ちゃんとお婆ちゃんの家のツブちゃんとマメちゃんに会いたいなー」
「2匹とも良い子だったにゃ。美哉ちゃん、お義母さんがインスタに写真をアップしているにゃ。ストーリーに動画もあるにゃ」
「みる!」
美哉が正宗にくっついて正宗の持つタブレットをのぞき込むと、ツブ&マメが箱に入ったりストーブにあたったり、猫じゃらしに夢中になる様子が映っていた。
「はわわー、可愛いなあ」
「新しいハウスを買ったのに、ハウスには入らず、ハウスが入ってた箱に夢中です。って書いてあるにゃ」
「猫あるあるだね!」
「美哉ちゃんも小さな頃は狭い場所が大好きだったにゃ」
「そうだっけ?」
「あれは美哉ちゃんが2歳の頃にゃ。新しい炊飯器が届いて設置していたら美哉ちゃんの姿が見えなくなって…露子ちゃんと一緒に泣きながら探したにゃ。お部屋にもトイレにもお風呂にもいにゃい。窓もベランダも玄関も鍵がかかっていて密室にゃ。でもどこにもいなくて…。美哉ちゃんは炊飯器が入っていた箱の中ですやすや眠っていたにゃ」
「お、覚えていないなー」
「露子ちゃんは猫みたいだって笑っていたにゃ。僕はすやすやな美哉ちゃんを抱いて号泣にゃ」
「ご、ごめんね」
「あれ以来、箱の類は直ぐに片付けるようにしていたのに、またしても美哉ちゃんは密室で行方不明になったにゃ」
じわあー…と、正宗の目に涙が浮かぶ。
「えっと…覚えていなくて…」
「露子ちゃんは、どうせ直ぐに出てくるからって、本気で探してくれなかったにゃ」
プンスコと怒る正宗。
「僕が猫じゃらしを持って探し回ったら、美哉ちゃんがベッドの下から飛び出してきたにゃ」
「えええ…私が本当にそんな猫みたいなことをしたの…?」
美哉はショックを隠しきれない。
「猫っぽい美哉ちゃんに露子ちゃんは大喜びだったにゃ。これがその時の写真にゃ」
正宗がスッとタブレットを差し出す。
そこには猫じゃらしに夢中で瞳孔を半分開いて猫じゃらしに戯れる美哉と、猫じゃらしを操る露子が映っていた。
「これが私…」
落ち込む美哉。
「美哉ちゃんは狭い場所が好きなだけで宗平のように、暴れたり、脱走したりしなかったから、良い子だったにゃ」
「そ、そう?えへへ」
「いや。そうでもなかった」
今まで黙ってお茶を啜っていた文治郎が参戦した。
「俺が美哉と一緒におじさんに面倒を見てもらうようになった頃の美哉は、好奇心が旺盛で無鉄砲な子供だった」
「ちょっと文ちゃん、嫌な予感がするんだけど…」
「あの日、幼稚園でおじさんのお迎えを待っていたら美哉が“文ちゃん、パパをおむかえに行こうよ”と言って家と反対の方向に脱走しようとした。
大人が通れない隙間から逃げようとする美哉を捕まえたら、美哉が激おこだった。ぷくっと膨れた美哉は可愛かった」
「危ないにゃ…なんてことをするにゃ…」
正宗が青ざめて涙目だ。
「家の方向が逆だと言ったら照れ隠しに笑った。そんな美哉も可愛かった」
正宗がウンウンと、うなずいている。
「そうこうしているうちに、おじさんが迎えに来てくれた」
「……もしかして文治郎が“美哉ちゃんのために明日から早めにお迎えに来て欲しい”って言い出した時かにゃ?」
「そんなことが5〜6回ほど続いた時に頼んだ。もう美哉を止めるネタが無かったから」
「美哉ちゃんたら、おてんば娘にゃ!」
正宗が涙目で美哉を責める。
「覚えてないもん!」
「文治郎は僕と美哉ちゃんの恩人にゃ」
「世話になってきたのは俺の方だし。おてんばな美哉は可愛かった。それに美哉が無茶を言い出す理由はいつもおじさんだった」
「そうにゃ?」
「“お散歩で見かけたお花をパパにプレゼントしたい”とか、“パパをびっくりさせたいから隠れていよう”とか」
「可愛いにゃ、パパも美哉ちゃんのことが大好きにゃあ〜」
目とヒゲを波型にしたデレ顔の正宗が美哉を抱きしめてゴロゴロと喉を鳴らした。




