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第44話 大晦日は正宗と美哉で水入らず

「パパ、ローストビーフはもう良いみたい」

美哉が炊飯器から肉塊を取り出してジップロックごと氷水につける。冷やして肉に火が通り過ぎるのを防いでキレイなピンク色に仕上げる。


調味料を揉み込んだ肉塊をジップロックで密閉し、炊飯器の保温機能で低温調理する方法が確実に美味しく出来る。

焼いていないから正確にはローストではないが美味しく出来ればいいのだ。


正宗のお節は伝統的なメニューは少量だけ買って済ませる。紅白なますや昆布で腹は膨れないと思っているのだ。正宗のお節は肉の重と海鮮の重と野菜の重の三段重ねだ。


今日は文治郎は自分の家の家事を済ませてから両親のサロンを手伝いに行っているので、正宗と美哉の2人でお節を作っている。


「文ちゃんたち、お休み無くて大丈夫かな」

「少し落ち着いたら順番で休みを取る予定と聞いているにゃ、健太郎も咲も年末年始は毎年疲れた顔をしているにゃ」


文治郎のいない日は滅多にない。


いつも文治郎を中心に行なっている調理を正宗と美哉の2人でするとキッチンが広く感じる。実際には割烹着姿の正宗が横に幅を取っているのだが…。


「パパ、エビは焼くんだっけ?」

「エビチリを作ってエビフライを揚げるにゃ。美哉ちゃんは煮物をお願いにゃ」


── 文治郎と3人もいいけど美哉ちゃんと2人、水入らずは最高にゃ、幸せにゃあ。


ご機嫌でお節を作り、お雑煮の準備を済ませ、年越し蕎麦と天ぷらの準備を終えたところで文治郎と健太郎と咲が帰って来た。


「おかえり文ちゃん」

「ただいま」


「よく来たな」

「お邪魔します」

「いつもすみません」

「お蕎麦の準備をするからテレビでも観てるにゃ」

健太郎と咲を座らせ、美哉と一緒に年越し蕎麦を準備する。こうなると文治郎も出番無しだ。


「美味い!」

「たくさん食べるにゃ」

山ほど天ぷらを揚げて、3人のお蕎麦は大盛りだ。


「おじさん達も明日は休みでしょう?」

「うん、2日からは家族だけで営業するよ。着付けしたいお客さんもいるから。スタッフの皆んなはお正月休み」

「みんなが戻ってきたら、私達も少し休む予定。その後は成人式。その後はバレンタインでお洒落したいお嬢さんが殺到して、その後は卒業式と入学式。大変だけどありがたいよ」


「お節を用意したから持って帰るにゃ、明日はゆっくりすると良いにゃ」

「ありがとう正宗さん」

「いつも無料で毛繕いしてもらってるからお互い様にゃ」


「美哉たちは、従兄弟が来るんだろ?」

「うん、横浜のお爺ちゃんとお婆ちゃんも家に来るから賑やかなお正月になるよ」

「正宗さんのご両親は?」

「あの2人は温泉旅行にゃ。帰ってきたら美哉ちゃんのお年玉を貰いに行くにゃ。貰ったらサッサと帰るにゃ」


── 自分の両親の扱いがひどい正宗だった。

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