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第31話 プロポーズ計画と実家に挨拶

「ここまでが、同棲・お付き合い編にゃ。この後、プロポーズを経て婚約編にゃ」


「改めて話を聞いてみると露子がひどいわ。正宗さんが露子を見捨てないでくれて良かった」

「露子ちゃんは運命の人だったにゃ」

正宗が頬を薔薇色に染めて、両手を頬に当てる。


「僕はプロポーズの計画を立て始めたにゃ。いろんなプロポーズの情報を集めては、“これはにゃいわー”とか、“これはアリにゃ、候補に残すにゃ”とか、ドン引かれにゃい・喜ばれる・一生の思い出になる最高のプロポーズについて試行錯誤していたにゃ」

「えー!結局どんなプロポーズしたの?」


「……僕からプロポーズ出来なかったにゃ」

青ざめてうつむく正宗。

「どういうこと?」

「いつも通り一緒に夕ご飯を作って食べていたにゃ。あの日の献立はさんまの塩焼きと出汁巻きだったにゃ。大根おろしをたっぷり擦って、あの日も美味しくできたにゃ」


「うんうん」

「露子ちゃんが“正宗ちゃん、醤油取って”って言うから醤油挿しを渡したにゃ。そしたら露子ちゃんが大根おろしに醤油を挿しながら“入籍しよっか”って言ったにゃ!」

正宗が涙目だ。


「ママからプロポーズしたの!?」

「露子ちゃんらしいけど!それにしたって! もっとシチュエーションとか! 言い方とか! あるにゃ!」

「ごめんなさいね、情緒に欠ける子で。合理性を追求しても良い時と悪い時があるって分からなかったのね…」

祖母が恥ずかしそうにうつむく。


「“さんまが美味しくて、来年の秋も正宗ちゃんと一緒にさんまの塩焼きを食べたい”って思ったそうにゃ。情熱が溢れた結果の衝動的なプロポーズだったから仕方ないにゃ〜」

さっきまで涙目だった正宗が両手を頬に当てて恥じらう。


「それで早速、次の日には会社で報告したにゃ。いろんな部署から祝福されてあの日は仕事にならなかったにゃあ」

正宗がテーブルをモミモミする。


「週末には横浜の家に報告にきてくれたのよね」

「そうにゃ、露子ちゃんのご家族に会うのは初めてだったから緊張したにゃ。前の日は仕事を休んでエステで自慢の毛皮を磨いたにゃ」

「大事な場面で毛皮の手入れ、重要だよね!」

美哉が力強くうなずく。

ケットシー族では常識らしい。


「正宗さんが家にきたら、タマとクロが急にお行儀良くなったのよね」

「タマとクロって先代の猫だっけ?」

「そうよ、タマもクロもまだ若くてやんちゃだったの」

露子の実家は猫飼いの家で、タマとクロを寿命で亡くし、現在は雑種のツブちゃんと暮らしている。


「はじめて正宗さんに会って、ああ露子の好きなタイプ(の猫ちゃん)だわ…って思ったの」

「照れるにゃ」



「照れくさそうな2人を見てピンときたのよ。ね?」

祖母が祖父に目配せする。


「そうしたら正宗さんが、ちゃんと工夫してこれからも露子にご飯を食べて貰えるように頑張るって言うのよ」

「お義父さんもお義母さんもポカンとしていたにゃ。それで露子ちゃんが、僕と付き合いはじめて脱おむすび生活したって自慢をはじめて…」


「威張るようなことじゃないでしょ!って思わず叫んだわ。私の横でお父さんが立ち上がって“結婚なんて許さんぞ、このモフモフな泥棒猫ちゃんめ”って言ってたような気がするけど、それどころじゃ無くて…。何年も出来合いのおむすびしか食べていなかったって白状して驚いたわ…」


「それで付き合いはじめてからの食生活を説明したにゃ」

「私と正宗さんが真面目に話しているのに露子はタマとクロと遊び始めるしお父さんは、引っ込みがつかなくて突っ立っているし…」

祖母がため息をつく。


「あの日は露子と正宗さんが横浜に泊まっていってくれたのよね」

「お義母さんと一緒に栗ご飯を作ったにゃ」

「正宗さんは手際がよくて驚いたわ。食材を見て、パパッと揚げ茄子の海老餡掛けと残り野菜で温サラダも作ってくれたのよね」

「お風呂上がりに露子ちゃんとお義母さんが背中の毛を乾かしてくれたにゃ」

「届かないなりに精いっぱい手を背中に伸ばす正宗さんが可愛かったわー」


正宗は露子の実家に…というか義母と飼い猫たちに直ぐに馴染んだ。

巨大な正宗をモフモフしたい義父との距離感は微妙なままだったが男性と距離を詰めたいとは特に思っていないので、正宗はまったく気にして居なかった。

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