第28話 露子の引越し
「正宗ちゃんの家はきれいだねえ」
「…露子ちゃんの家は大分混乱していたにゃ」
露子の家には読み終わった本や雑誌が積み上がっていた。なんなら一部が崩れていたが、そのままだった。
正宗の指示で『もう読まない分』と『手元に残したい分』を分けて、もう読まない分を売却したら大分スッキリした。これで引越しも楽になるだろう。
露子はスッキリしているが、正宗はぐったりだ。
しかしダラダラしている訳にはいかない。
露子にバランス良い食事を取らせて規則正しい生活を送らせるのだ。
「お昼は外食だったから夜はお家ご飯にゃ。露子ちゃん、一緒に作るにゃ」
「うん。正宗ちゃんと一緒にお料理、楽しそうだなあ」
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「それで? 本当に週末から正宗の家で同居しているの?」
月曜日のランチは露子の同期の京子も一緒だ。
「土曜日に露子ちゃんの家の要らないものを少しだけ処分して、床が見えた分だけ荷物を一緒に片付けて、今週必要な着替えや荷物を運んだにゃ」
「正宗ちゃんに言われて、いつか片付けようと思ってた本と雑誌の一部を処分したら久しぶりに床が見えたんだよ」
「……この子、大分面倒だと思うんだけど、同居して大丈夫かい?」
「幸せにゃあ。夜ご飯は一緒に作ったにゃあ。毎食、同じものを食べているって、同棲って感じがするにゃ。今日のおむすびは恋の味がするにゃ」
同居を同棲と言い換えてきた。
「正宗が良ければ良いんだけど。露子もちゃんと家事を担当するんだよ。お互いに働いているんだから半分ずつだよ! 大丈夫なのかい?」
「うん、正宗ちゃんが教えてくれるんだけど、すごいの! 正宗ちゃんの頭の中って実用書みたいなの!」
「じ、実用書?」
「うん! 行動力を高める科学的な方法とか、いつか読んだけど忘れちゃった本に書いてあったこととか実践してるしね、正宗ちゃんと一緒に料理しているとレシピ本と栄養学の本を一緒に読んでいるみたいなの!」
「そうなんだ。正宗と同棲していたら露子も人間らしい生活できそうだね」
「えへへ、やだなあ京子まで私をダメ人間みたいに〜」
「いや、あんたはダメ人間だから」
「ええ…そんなキッパリと…正宗ちゃんまで肯いてる!」
「大丈夫にゃ、僕が露子ちゃんを真っ当な人間にしてあげるにゃ」
「そ、そんなキラキラしたお顔で…ぐうカワ…」
「真っ赤になった露子ちゃんも可愛いにゃ」
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「それでママは生活改善できたの?」
「僕が一緒の時はいいにゃ。でも僕が研修で1週間ほど留守にしてた間、おむすび生活をしていたにゃ」
「ママ…」
「あの子ったら…」
「…。」
祖父母が恥ずかしそうに俯いた。
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「露子ちゃん。無理させてごめんにゃ」
「正宗ちゃん」
「限定のおむすびが発売されたら、おかずとお味噌汁だけ持って行こうにゃ。おむすびを選ぶのも一緒に食べるのも、きっと楽しいにゃ。好きなものや楽しみにしていたことを我慢するのはダメにゃ。一緒に楽しく過ごしたいにゃ」
「…正宗ちゃん」
「それで今日はおかずとお味噌汁だけ持ってきたの?」
「定番メニューの唐辛子味噌のおむすび、美味しいにゃ。家で再現するにゃ」
「本当に?再現出来るの?凄いよ、正宗ちゃん!あのお店の唐辛子味噌の焼きおにぎり、大好きなんだ」
「一緒に作るにゃ」
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「そこで“ごめん”て言える正宗さんは凄いわ。私だったら怒ってしまうもの」
「照れるにゃ」
正宗のイケメンぶりに、ぐぬぬ…となる祖父だった。




