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第13話 浴衣と夏祭り

「美哉ちゃんたら着付けと髪、本当にいいの?」

「ありがとう、たぶん大丈夫」

「母ちゃん、髪は俺がやるから」

「そう?困ったらお店に寄ってね」

「ありがとう」


さきはくどいにゃ! 美哉ちゃんにはパパがついているにゃ。早く仕事に行くにゃ」

正宗が文治郎の母を仕事に送り出す。


今日は美哉と文治郎が隣の市の花火大会に行くため、咲は美哉の浴衣の着付けとヘアアレンジを心配していた。


美哉の身長の伸びが止まってきたため、母・露子つゆこの形見の浴衣を美哉に合わせてお直しした。露子は人族だったが娘の美哉はハーフ・ケットシーで尻尾があるため、露子のお古を身に付ける時はお直しが必要になる。


今年の夏はお直しした浴衣に初めて袖を通すのだ。家事に万能な正宗でも女物の浴衣の着付けは手こずるはずだが、ヘアサロンを経営するさきは着付けに慣れている。獣人の着付けも割とこなしてきたので美哉の着付けを担当したがったのだ。


「5時頃の電車に乗るから1時間前には着るね。髪はその後でお願い」

「分かった」


お盆の後に開催される地元の花火大会は文治郎と一緒に文治郎の両親のサロンを手伝うので、2人で楽しむ花火大会は、いつも電車で隣の市まで行くのだ。



「裾を整えて…。尻尾は…大丈夫、窮屈じゃないな」

タブレットで着付け動画を観ながら自分で浴衣を着る美哉。

「大体いいんだけど、なんかバランスが悪いかも………パパー!」

「美哉ちゃん!可愛いにゃ!露子ちゃんの形見の浴衣が似合っているにゃあ」

正宗の目とヒゲが波型に崩れる。


「でもちょっとバランス悪くないかな?」

「む! 美哉ちゃん、そこに立って。ピシッっとするにゃ」

美哉の周りを何周も回りながら、あちこちを引っ張ったり伸ばしたりする正宗。

少し離れたところからチェック。後ろ姿もチェック。横からもチェック。


「ふう、バッチリにゃ。もう一度鏡で見てくるにゃ」

パタパタと自分の部屋に戻り姿見で確認する。その様子を愛用のデジイチで撮りまくる正宗。


「ありがとうパパ」

「可愛いにゃあ」


「美哉、こっち来て座って」

「うん!」

ヘアアレンジは文治郎の出番だ。

前下がりショートボブなので顔にかかる髪をすくってピンで留める。さりげないアレンジだが美哉に似合う。髪を留めるピンは今日の浴衣に合わせて両親のカタログから注文したし、アレンジはロングな父親の頭で練習した。


「涼しげで浴衣に似合うスタイルにゃ。美哉ちゃんの可愛らしさを引き出しているにゃ!」

正宗がデジイチで全方向から連写する。


「パパ! 文ちゃんと一緒に撮って」

「……仕方ないにゃ」

渋々と文治郎入りで撮影した。文治郎も今日は浴衣だ。がっしり体型の文治郎は浴衣も似合う。


「美哉ちゃん、気をつけるにゃあ。文治郎、美哉ちゃんを邪悪な目で見るウェイ系なクソガキがいたら手加減無用にゃ。ウェイ系でなくても殺ってもいいにゃ」


いつものセリフで見送られた。正宗の指示は今日も愛が重すぎる。



花火が始まるのは7時過ぎなので、まずは屋台を回ることにした。


「美哉」

「何?」

「手」

手を繋ごうということらしい。

「えへへ」

もちろん恋人つなぎだ。


「指輪してくれて嬉しい」

先日の夏休みデートで文治郎から買ってもらった指輪をつけてきた。

「学校にはしていけないから残念なんだけど」

「じゃ、次のプレゼントは学校にもしていけるものにするか」

2人のイチャイチャが止まらない。


「あ」

「どうしたの?」

「県大会でうちが負けたとこ、チームで来てる。悪い、ちょっとだけ」

美哉の返事も聞かず、手を引いて歩き出す。


「ようお前ら! この間はいい試合だったな。あと優勝おめでとう、決勝もいい試合だった。今日はチームで来てるのか?」

「あ、ああ」

「そっちの学校、ここから近いもんな。俺たちも毎年ここの花火大会に来てるんだ」

ぐいぐいと話しかける文治郎と押され気味のジャージ軍団。


── 偏差値バカ高い進学校なのにめっちゃ強かった県立高のイケメンだ!

── しかも爽やかかよ!

── めっちゃ可愛い彼女がいるのか!

── しかも憧れの恋人つなぎかよ!


ざわつくジャージ軍団。


「お、お前らんとこは練習はないのか?」

「夏休み中は部活はないよ。みんな夏季講習が優先だから。うちの学校はそっちみたいに強豪じゃ無いただの県立高だし」

「何言ってるんだよ!」

「決勝より、お前らの方が何倍も強敵だったぞ!」

「ははは、社交辞令が過ぎるぞ。基礎体力とか全然違うって痛感した。本当すごいよな、お前らが将来プロになっても応援するよ」


── それは!

── お前らが頭が良すぎて!

── 戦略面で敵わないから!

── お前らのスタミナ切れを狙うしか無かったの!

── 監督からの指示もそれしか無かったの!


「…俺たち、マジでサッカーしか無いから……」

彼女いない歴イコール年齢なジャージ軍団がウンウンと一斉にうなずく。


「おいおい何言ってるんだよ、お前らに憧れてる後輩が山ほどいるだろ。お前らのポジションに憧れて叶わない奴、たくさんいるんだぜ」

「……そうだな、頑張るよ」

「冬の大会でも当たるといいな、じゃあな!」


秀才でイケメンで爽やかで超可愛い彼女持ちが爽やかに去っていった。



「彼女、指輪してたな」

「試合に来てたぞ」

「俺も覚えてる。制服だった」

「……恋人つなぎ…いいな。」

「放課後に一緒に寄り道デートとかしてみたいな」


スポーツ推薦で集められたジャージ軍団は全員寮生活で、生活や食事を厳しく管理されており、制服デートや浴衣デートなど夢のまた夢だった。

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