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監獄

 天候に恵まれた大地。

 恵みの太陽が、どこまでも明るく照らしている。

 ──などと喜ぶ者はいない。


 ここ荒野。

 太陽の眩しさをありがたがる者などいない。


 当たり前だ。

 荒野での晴天は、生命の潤いを貪る悪夢に過ぎないのだから。


 最近は太陽の自己主張が激しかったせいで、例年以上に大地の荒れが酷い。


 まるで、悪鬼に大地の生命を食い荒らされたかのようですらある。

 そのせいでモンスターや盗賊の隠れる場所が無く、安全に移動できることは皮肉だとしか言いようがない。


 これほど見通しの良い土地なのだ。

 外道なる錬金術の痕跡も隠す事はできない。


 大きなレンガを運ぶ巨人

 それは人の倍はあろうかという高さと、生物ではありえない怪力を誇っている。

 ゴーレムと呼ばれる岩の化け物だ。


 巨大な建造物を作るために動いている。


 まるでローマのコロッセオのようなソレ。

 建築状況は、ようやく全体の輪郭が出来てきたというところだ。


 休みなく働くゴーレム。

 だが、それを扱う人間には適度な休みが必要だ。


 少し離れた場所に設けられた仮設テントの下。

 一仕事終えた男達が話している。


「こうやって見ると、。本当にデケエよな」

「俺のウチよりもデケエぞ」

「お前の内と比べたら、犬小屋もでかく見えらあ」

ちげえねえ」


 眺める先にあるのは、あまりにも巨大な建造物を前に笑い合う2人。


 冗談を口にしているが、そこにはこれ程の建築に携われる事への誇りが感じられた。


 監獄ではなく、別の建造物を作りたかったという複雑な想いがないとは言わないが。


「それにしても何人いれんだろうな」

「んだ」


 適当な話をして、時間がきたら仕事に戻る。

 それが彼らの日常。


 この土地を治めるアーシュが正式に領主を引き継いだおかげで、今までよりも大胆な政策をとれるようになった。


 おかげで彼らに回される仕事も増えている。

 そのせいもあり、彼らが明日の仕事を心配することは無くなった。


「ん? 交代か」


 見知った顔がコチラにやってきた。

 ”そう言えば、もう時間だな”と立ち上がる。


「それもあるんだが……現場監督を見なかったか?」


 現場監督──どっかで見た気がする。

 喉に魚の骨が刺さったようなもどかしさを感じならも考える。

 ようやく思い出した。


「さっき報告の資料を作るって宿舎に戻ったぞ」

「そうか……引きとめて悪かったな」


 そのまま宿舎の方へと向かおうとした。

 普段なら見送るだけだが、少しが焦っているように見えたのが気になる。


「なんかあったのか?」

「大したことじゃねえんだけどな。ゴーレムの調子が少し悪いんだよ。それを言おうと思ってな」


 ゴーレムの調子が悪いのか。

 そいつを使って事故でもあれば、大怪我をしかねない。

 もう少し詳しい話を聞いた方が良さそうだ。


「調子の悪いゴーレムって何番だ」

「6番だ」


 そう言えば、昨日はかなり重い物を持たせていたなと思い返した。


「無理をさせて壊して弁償しろなんて言われたら首を吊るしかねえからな。作業から外してあるが、お前らも使わねえほうがいいぞ」

「んだな。俺らも使わねえでおくわ」


 一頻り話し終ると、彼らはその場を離れた。


 最近になって導入されたゴーレム。

 恐ろしく高額であるため、極貧のリクレイン領で使われることは無かった。


 馴染みのない道具だが、途方もなく高価なものだということは分かる。


 そんな物を弁償しろなんて言われたら、冗談ではなく本当に首を吊らざるえない。


 6番のゴーレムは使わないように注意しよう。

 そう心の中で誓い、自分の仕事場に戻っていった。


 *


 リクレイン領主の館は、街から離れた場所にある。


 屋敷のある敷地の外れ。

 最近になって建てられた、少し大きめの建物がある。


 窓の一切ない建物。

 仕える者たちの中にも不気味に思う者が多くいた。


「わりと必要みたいだね」


 窓が存在しない建物の中。

 銀色の髪をした少年が報告書を読んでいる。


「街をつなぐ道にも必要ですが、それ以上に老朽化した建物を壊すのに使いたいと報告を受けています」


 隣に立つ初老の執事に詳細を聞きながら、資料に目を通していく。


「まあ、いいんだけど」


 色々と思う所はあるが、大半はどうでもいい話だ。

 結局、何体のゴーレムを作ればいいのだろうか──?

 彼の疑問はこの一点に尽きる。


「そうだねー。街は人が多いから普通のゴーレムがいいだろうね。道の方はジックリと見られるのは面倒だから・…詳しい人間が近くを通らないか確認をしてから作るとしようか」


 報告書を読む限り、普通のゴーレムは5体も作れば十分だろう。

 一方で楽園の技術を使ったゴーレムは、作るのを見送った方がいいかもしれない。


 見た目を偽装しても、近くで見られると性能が全く違うのがバレてしまう。

 オーバーテクノロジーを使っているとバレたら厄介だ。


「今日は監獄作りで使う6番ゴーレムと、あとは普通のゴーレムの核を5つ作るっていうことでいいのかな?」

「よろしくお願いいたします」


 執事に確認を取ると作業に移る。


「6番ゴーレムの核を持ってきて」


 指示を出すと鋭い目の男が動いた。

 この場には全部で6人がいる。


 アーシュと執事、この鋭い目の男。

 そして錬金術の知識を持つ3人。

 今のところ裏の技術を見せて良いのは彼らだけだ。


「こちらです」


 作業台の上に置かれたカプセル。

 子どもが抱えれば、顎まで隠れそうな大きさ。

 ガラス質な部品から中を覗く。


「ふーん」


 手を伸ばして確認する。

 カプセルの上下に設けられた金属部分に刺激を与えてみた。


「大丈夫。壊れていないみたいだ」


 穏やかな笑みだ。

 可憐な少女を連想する柔らかな笑み。


 だが異常な光景だ。

 彼の表情を見ていた誰もが息をのんだ。


 カプセルの中。

 彼の笑みは、銀色の金属と化した人の頭部と目を合わせながら浮かべたものだからだ。


「サージ、今回は君が接続をお願いするよ」

「は、はい」


 作業を命じられた彼の手は震えていた。


 震えるのは何故か?

 異常な精神を持つ主への恐怖か、異常な技術を持つ主への畏怖か。


「失敗は気にしなくてもいい。せいぜい、そのカプセルが壊れる程度だからね」


 生きた部品が見せた表情。

 それは感情や思考があることを証明する物であった。

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