クリスマス
池の畔に石田君を呼び出した。祐ちゃんに言われたように、ちゃんと好きな人がいる事を打ち明けるつもりだった。
石田君はもう来ていてベンチに座っていた。
「こんなに寒い所に呼び出してごめんなさい」
石田君は慌てて立った。
「いえ、大丈夫ですよ。僕の好きな場所にしてくれたんですよね」
そう言うとまた座った。私も横に座った。なんて言おう……、こういうの苦手。モジモジしていると石田君が先に話してくれた。
「柑菜月さんから呼んでくれたの初めてですね、とても嬉しかったです」
「あ、いえ……でも」
「分かってますよ。僕にとっては楽しくない話がある事」
「え」
「好きな人が出来たんですか?それとももう恋人になったんですか?」
「いえ、あのね、好きな人がいるんです。ごめんなさい」
「謝らないで下さい。涼風君ですか?」
「はい……」
「そうですか。恋は実らなくても素敵なものです。それを教えてくれたのは柑菜月さんです」
返す言葉がなかった。はっきりしない私のせいで石田君に辛い思いをさせてしまった。
「まだちゃんと言ってなかったので、言わせて下さい。柑菜月さんの事が本当に本当に好きでした。今頃って感じですよね」
「いえ、こんな私の事想ってくれてありがとうございます」
「まだ自信持てませんか?あなたは素敵な方なんですよ」
「私なんか……」
「次は柑菜月さんの番です。自信を持って涼風君に打ち明けて下さい」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「ここに僕はもう少しいます。柑菜月さん、先に帰ってもらえますか……」
そう言われ後ろ髪を引かれる思いで席を立ち、石田君を残し歩き出した。
振り返ると石田君の肩が震えていた。
「石田君……」
私は深々とお辞儀をし、その場を後にした。石田君の悲しみが伝わった。次は私が振られる番かも知れない。
♡ ♡ ♡
今日は楽しいクリスマス。なのにクリスマスケーキを店頭で売らなくては行けい。昨日からシフトの時間が早くなった。
朝10時から夜8時まで、店頭に立ってクリスマスケーキを売る。
体が芯まで冷え足が痛くなった頃、粉雪が舞い始めた。クリスマスに雪はとてもロマンチックだろうな。でも私にとってはただ寒いだけだった。
「お疲れさま!もういいよ、よく売れたね」
店長は嬉しそうにそう言った。
「お先に失礼します!」
着替えて店を出ると、石田君が雪の中に立っていた。
「石田君……、どうしたの?」
「お疲れさま。今日はクリスマスだから」
そう言って紙袋を渡された。
「プレゼント」
「え、でも私……、こんなの貰えない」
返そうとすると石田君は大きく首を横に振り、受け取らなかった。
「実は柑菜月さんから話しを聞く前に、用意してたんです。僕、初めて女の子にプレゼントを買ったんです。君を想いながら選ぶのは、とても楽しかったです」
「石田君……」
「最初のクリスマスプレゼントだから、受け取って欲しいんです。勝手なのは分かってます。でもこれも良い思い出になります」
「……うん、分かった。石田君ありがとうございます。大切にしますね」
「こちらこそありがとう。じゃ!」
そう言うと走って暗闇に消えた。空を見上げると黒い空に白い雪が舞う。とても綺麗だった。
♡ ♡ ♡
マンションに戻ると、食卓に並んだご馳走に驚いた。
「すごーい、どうしたの?!」
「クリスマスだからね、着替えておいでよ」
曜はそう言いながらスープを温めてくれていた。
私とクリスマスを過ごそうと思ってくれた事に、びっくりしたが凄く嬉しかった。
着替えて食卓につくと、曜はシャンパンを開け注いでくれた。
「アルコールじゃないからね。ジュースだよ」
二人で乾杯をした。まるで恋人同士のように思えた。
「メリークリスマス!」
「カボチャのスープ、ローストチキン、マルゲリータ、ポテトサラダだよ」
「もしかして全部手作りなの?」
「今日は一日家にいたからね」
今日の曜はとても嬉しそうだった。
沢山のご馳走を前にしても、残念ながら食欲がなかった。
こんなに幸せな時間を作ってくれているのに、身体はだるく話も浮かばなかった。
「ん?華美どうしたの?」
「え、ううん、なんでもないよ」
「顔が赤いな」
そういうと曜は席を立ち、私のおでこに手をあてた。
「……熱い」
イスに座っていた私を軽々と抱き上げた。
「え、いいよ、大丈夫だよ」
その言葉を無視し、曜は大切な宝物のように私を部屋のベッドまで運んでくれた。
「暖かいパジャマに着替えてて、体温計持ってくるよ」
熱は39℃近くまであった。曜は急いでドラッグストアに行ってしまった。
雪の中で立ってたからかな……、せっかくのクリスマスなのに。そう思いながらいつしか寝てしまった。
目を覚ますとおでこに冷却シートが貼られていて、曜が床に座りベッドに凭れ眠っていた。
「ん?起きたか……」
曜は目を擦りながら私の顔を見た。
「スープかお粥どっちがいい?何か胃に入れてから薬を飲もう」
言われるがままスープを飲み、薬を飲んでまた深い眠りについた。
目覚めるとまた曜はベッドに凭れ寝ていた。素敵な寝顔。
私は横になりながら顔を近ずけ、その寝顔を脳裏に焼き付けるように、いつまでもいつまでも見ていた。




