悲しい恋
お昼休み食堂で祐ちゃんといると、石田君がやって来た。
「一緒に食べてもいいですか?」
「あ、あたしもう終わるから……」
祐ちゃんがまた気を使って、急いで食べ始めた。
「いえ、高橋さんも一緒に食べましょう」
「え、あたしの名前知ってるの?」
「はい、高橋祐希さん」
「そう!」
「柑菜月さんの一番の友達ですから、僕にとっても大事な人です」
「え、彼氏になったみたいな言い方!」
「あ、いえ……、ごめんなさい。友達として柑菜月さんの事知りたくて。そう言う意味です」
祐ちゃんに突っ込まれてあたふたしてる。
「分かった!じゃあ、今日から3人友達ね!食堂に来るから毎日一緒に食べよぉ!」
かなり乗り気な祐ちゃんに、どんどん決められている。石田君は隣に座りお弁当を広げた。
曜はやはり佐々原さんと前田君、いつもの3人でお弁当を食べていた。曜の作ってくれるお弁当は美味しい。同じお弁当を食べてるんだと思うと、ちょっぴり嬉しかった。
「ねぇ〜、華ちゃん!聞いてる?」
「ぇ?」
「もうまたボッーとしてぇ!LINE交換しなよって言ってるの!」
「あ、うん。しようか」
祐ちゃんのペースに乗せられてLINEまで交換してしまった。
「バイトって何時までですか?」
「夜10時」
「駅前のコンビニ?」
「そう、家から近いからね」
「土日も夕方からですか?」
「そうです」
「じゃあ、もしよければ土曜日美術館に行きませんか?」
「お、いいねいいね!石田君押せ押せー!」
祐ちゃんは本当に石田君を気にいっている。美術館は行った事がなかった。
「あまり興味がないですか?」
「石田君絵に詳しいの?」
何故か祐ちゃんが聞いている。
「詳しくはないですけど、見るのが好きなんです。なんか落ち着くというか、静かだし」
「あ、そういうの石田君似合いそう!」
「ですか?」
「てか、華ちゃん聞いてる?答えなよ〜」
「あ、うん。一度行ってみようかな」
「おぉー!そう来なくっちゃ!」
祐ちゃんは石田君よりも喜んでいた。本当に優しいんだろうな。
「高橋さんもいかがですか?」
「あ、ありがとう!でも行きません!あたしには似合わない。身体動かしてる方が好きなんだ!」
♡ ♡ ♡
土曜日、駅で石田君と待ち合わせて美術館へと向かった。
話し声のしない館内では、静かなメロディーが微かに聞こえる。広い館内の壁に一面飾られた絵画を、丁寧に一枚ずつ見て回った。
時折石田君は、気に入った絵の前で立ち止まり見入っていた。私の好きな絵は海辺に浮かぶ1艘の小舟。空はもうすぐ夕暮れ時だろうか。何故か引き込まれ、絵の中にいるような気持ちになった。
美術館を後にし、石田君はイタリアンレストランに入った。
「お昼ですね、何か食べましょう」
そう言うとメニューを差し出してくれた。この店も落ち着いた感じで、美術館の後にはぴったりだと思えた。
「素敵な店ですね」
「気にいってくれて良かったです」
カルボナーラとペペロンチーノを頼んだ。
「初めての美術館はいかがでしたか?」
「凄く良かった。なんか大きく深呼吸をしたくなったり、静かな中に癒されたり、とても好きになりました」
「そうですか!嬉しいです。僕の好きな所ばかり誘ってすいません」
「いえ、こういう機会がないと行かなかったかも。ありがとう」
二人は美味しくパスタをいただいた。会話も弾み楽しかった。次の話題が出るまでは。
「昨日初めて同じクラスの涼風さんに話しかけられました」
「え……」
「涼風さんは頭も良くて、クラスでも男女問わず人気者なんです。どんな人か興味はあったんですが、自分からは話しかけづらくて、声をかけてもらえて嬉しかったです」
「どんな人でしたか?」
「凄く気配りが出来て優しい感じの人でした。将来の事もいろいろ話しました」
「将来の事……」
「はい、僕は獣医になりたいんです。動物が好きですから。涼風さんは弁護士を目指していると言ってました」
「そうですか」
「顔が良くて頭が良ければ、普通は人を見下したりしますが、僕なんかにもちゃんと丁寧に話してくれて優しかったです」
「そう、良かったですね」
「人気者になる訳がわかりました。柑菜月さんもやっぱり、涼風さんみたいな方が好きですか?」
「え?」
「時々見ているからそうなのかなと……」
好きだよ、たぶん……、ううん、きっと。あの日から頭の中から離れた事がないよ。
「たんなる憧れです。ほら、皆そういうのってあるでしょ?私なんて相手にはしてもらえないよ」
自分で言っておいて涙が出そうになった。初めてこんなに人を好きになったけど、恋愛って悲しいな。こんなんなら好きにならなければ良かった。
「行きましょうか……」
石田君は私の曇った表情に気づいたかのようにそう言った。
♡ ♡ ♡
「今日ね、石田君と美術館に行ったの」
曜との晩ご飯。別にこんな事話したい訳じゃない。ただ目を見て明るく振る舞う事しかできなかった。
「ほぉ、いいね」
「曜も美術館好きなの?」
「たまに行くと落ち着くね。華美は初めて?」
「そうなの。でも石田君優しくて結構楽しかったよ」
「良かったね」
「うん!石田君いい人そう。もしかして運命の人なのかな?そしたら付き合うって事もありなのかな……」
「石田君と話したけど誠実だし、華美を傷つけたりはしないと思うよ」
そんな言葉聞きたくない。
「曜は……?」
「ん?」
「運命の人に出会えた?」
そんなことも聞きたくないのに、どうして勝手に口が動くの?
「さぁ、どうかな」
「佐々原さんは違うの?」
「佐々原は友達だね」
「でも、佐々原さんは曜の事好きだと思うな」
あぁ〜もう!また何言ってるの?!どうして曜の前では素直になれないの?私は違う自分が出ちゃう事に戸惑った。
「華美は何も知らないと思うけどな。僕の事も佐々原の事も」
ほら、言われたくない言葉言われちゃった。
出口の見えない暗いトンネルの中にいるようで、灯りを必死に探していた。




