曜 ありがとう
バイトと家事に追われる中、やっと試験が終わりホッと一息。結果は散々だったけど、まぁいつもの事だから気にしないっと。小心ものだけど、そういう所は楽天的なんだな。
「華ちゃん、今日は食堂で食べよ!」
姫那ちゃんが誘ってくれたので、祐ちゃんと3人で走った。何で走るんだろう、息がきれちゃうよ。
丸テーブルにガラス張りの、綺麗な食堂だった。さすが私立。
「良かった!いい席だね〜」
「いい席?」
「だってほら、周りが一望出来るでしょ」
「ほら見て!E組の川嶋君、かっこいいよねー」
「ま、彼女いるからアレだけどね」
なるほどね、そう言う事か。教室で食べたら他のクラスの男の子が見れないわけだ。
割とイケメンがいるな。あ〜この中に運命の人がいるのかな、そう思うとワクワクしてきた。
「あ、転校生の涼風君だ。イケメンだよね〜、彼女まだいないかもね!」
「え、涼風君?!イケメンなの?」
曜の名前に反応してしまった。
「えぇー大丈夫?どこから見てもイケメンじゃない」
「今回のテスト、ダントツで1番だったらしいよ!転校生なのに凄いよねー」
二人共、曜を見てうっとりしている。今まで一緒に住んでいてイケメンなんて思った事ない。しかも頭が良かったんだ。
「やっぱり眼鏡がね……」
うっかりボソッと声に出てしまった。
「なに言ってんのよ!眼鏡がいいんじゃない!知的な感じを醸し出して。あ〜ステキ」
「声聞きたいよねぇ」
二人共かなりのぼせ上がっている。一緒に住んでるって知ったら羨ましがられるかな。でもやっぱり私はタイプじゃない。
♡ ♡ ♡
バイトでレジの前に立っていたら、見知らぬ人がやって来た。
「ちぃーす!」
「何しに来たんだよ」
同じシフトの大川君の友達みたい。
「ちゃんと働いてるか見に来てやったんだよ!」
「声でかいよ……」
「客いないからいいじゃん!」
「柑菜月さん、ごめんねぇ」
「いえ」
その友達はいきなり私の方を振り返った。
「あ!柑菜月華美!A組の転校生だよね!」
ジャニーズ系の超イケメンだった。この出会いもしかすると運命の人だったり?!
「俺、B組の細川工。華美ちゃんよろしくね〜、ていうか日曜日ひま?」
私、誘われてる?!
「おい、またお前の悪い癖だぞ!柑菜月さんごめんねぇ、気にしないで」
いやいや、こんなチャンス滅多にないんだから!それに運命の人かも知れない!
「日曜日夕方までなら暇してます」
「うあー、柑菜月さん無理しなくていいよ!コイツはさぁーー」
「やった!さすが華美ちゃん!じゃ、10時に駅前で!」
会ったばかりの人と、あっさりとデートの約束をしてしまった。ま、電撃っていうのもあるし、ありかも知れない。なんと言っても超イケメンだしね。
♡ ♡ ♡
日曜日、今日は初めてのデートの日。そう、今までデートなんてした事がない。
「ちぃーす!先に来てたんだ。凄いな!」
凄い?どういう意味だろう。偉いって事かな?
「ううん、こんにちは!」
「さてと!ボルダリングでも行く?それともボーリング?」
どっちもスポーツじゃない。苦手なんだよなぁ……。
「おまかせします」
「へっ?変な奴!じゃボルダリング!」
二人で電車に乗った。いいなぁこういうのって、凄く憧れてたんだよね〜。ガタゴト揺れながら工さんを見てみた。明るい人かと思ったけど、静かだな。
電車から降りて駅からすぐだった。靴とチョークを借りたけど初めてなんだよね。
「ねぇ、どうやって登るの」
「へっ?知らないの?まぁ、手と足で適当にどうぞ」
そう言うと自分だけどんどん登って行く。やってみたけど、やっぱり運動音痴。何だかつまんない。もっと違うデートが良かったな。
工君は1人で夢中になって遊んでいる。仕方なく椅子に座って、いろんな人が登ってるのを眺めた。みんな凄く上手い。
「飯食いに行くか!」
そう言うとジムを後にしてどんどん歩き、カフェに入った。
「何食べるかなぁ〜」
「私はオムライスにします」
「食べる事だけ早いな……」
「すいません、ピラフとオムライスあとコーラ」
私も何か飲みたかった、気がきかない人なのかな。
「お前ってさー、男慣れしてないの?」
突然何言うんだろう。
「それだけ可愛いのに、プライドないし話題無いし、華やかさも無いし。ハッキリ言って魅力無いね。あっ、もしかして整形した?」
「え、い、いえしてませんけど」
「学校でも噂なるくらい目立ってもないしな。お前みたいな奴初めてだよ」
何で私ダメ出しされてるんだろう。やっぱり生まれた時からずっと綺麗な人とは、違うのかな。つい最近までブスだったし。内面は変わらないし。そうだよね、可愛いのにデート初めてってないわ。
「可愛いから彼女にしたかったんだけど、俺いいわ……、ここ割り勘ね」
何なのいったい。イケメンってこんな感じなのかな。私だってお断り。あー運命の人だと思った私がバカだった。
食事が運ばれて来たけど、無言で食べた。味も分からない。こんな嫌な気分の食事は初めてだった。
♡ ♡ ♡
凄く腹が立っていたんだけど、バイト中考えてたら自分が情けなくなってきた。急に可愛くした所で内面は変えられない。女慣れしている工君には分かるんだろうな。
落ち込みながらマンションに帰った。
「おかえり、ちょうど僕もこれから食事だよ」
曜の声が優しく感じた。食卓にはいつものように、曜の美味しそうな手料理が並んでいる。椅子に座ったが食欲がない。
「ん、華美どうした?食べないの?」
「私……、やっぱり無理かも知れない」
「なにが?」
「いくら可愛くしたって、華やかさなんてないよ……」
そう言うと何故か涙が溢れた。曜はそんな私を見て椅子から立ち上がった。私の横にしゃがみ頭をポンポンした。涙を拭き曜を見ると優しい笑顔がそこにあった。
「ゆっくり行こ。折角の天国からの贈り物なんだよ。華やかさなんか華美には必要ないよ。そのままで充分」
「こんな私でも運命の人に出会えるかな……」
「大丈夫、きっと出会えるよ。だから焦らないで、ね?」
私はコクリと頷いた。心の中が曜の優しさで満たされていく。
それから二人で楽しく食事をした。お昼ご飯とは比べ物にならないくらい、話が弾んで笑いあって楽しい食事。
「曜、ありがとう」
寝る前にお礼を伝えた。曜はにっこり微笑み首を横に振った。
何があったのかも聞かない思いやりに、心から感謝した。もしかしたら頭がいい曜は察したのかも知れない。多分1人だったら寝付くまでずっと泣いていただろう。
本当に本当にありがとう。




