新しい命
進さんという人を、横から気づかれないように見た。外見が変わったようには思えない。
「何?」
気づかれてしまった?!
「い、いえ……、マンションどこかなぁー」
「ここだね」
そう言うとすたすた入って行った。遅れないように付いて行く。
「エレベーターあるけど2階だから階段でいいよね」
彼は頭の回転が早い。
「206、ここだ」
「えっと、私が206なんだけど……」
「じゃ、2人で住むのかな」
えぇー!?ちょっと待ってそんな重大な事簡単に言わないでよ。内心ものすごく焦った。私パニくってる。
私の心配もよそに彼は中に入ってドアが閉まった。なんてマイペースと言うか動じないというか。
仕方なくドアを開けて入ってみた。ふむふむなかなか良い。
「僕は涼風曜になったからよろしくね」
いきなり挨拶?!
「えっと、私は……」なんだっけ。
貰った紙を見た。
「柑菜月華美だ」
「自分の名前は覚えないとダメだよ」
ダメだしされてしまった。俯く私をよそに2つのドアを開けて見ている。
「どうもインテリアが男子と女子で区別されてるようだね」
「……そうですか」
やっぱりここで2人で暮らすのね……、不安がつのる。どうせならイケメンで優しい人が良かったな。良い行いをいっぱいしてきたから優しいのか?いや、どうかな。
「さて、まずスマホがいるね。それから服もいる。後は、ん、なかなか揃ってるね。食料だね」
キッチンの扉を開けながらテキパキと話す。
「明日から学校だから急がないとね。ちなみに制服やカバンはクローゼット、教科書ノート類は机の引き出しにあったよ」
「はい、って、えぇー?明日から学校?」
「そうだよ」
いったいどこに書いているんだろう。貰った紙をまじまじと見てみた。書いてないじゃない。
「クラスは違うけど同じ学校だね。僕はFだからね」
私の紙を覗きこんでそう言った。
「買い物行くけど、君はどうする?」
「買い物ってどこに?」
「わかんないけど探す。行くよ」
そう言うともう玄関に向かっている。やばい、置いて行かれたら買い物出来ない。駆け足で追いかけた。
曜さんに付いて行きスマホ、パジャマ、下着、食料品を買った。
この人がいなかったら私は何も出来なかったと、思い知らされた。
彼はマンションに入ると買った物を冷蔵庫に入れ、部屋に入ってしまった。
私も部屋に入り、ベッドに横になると疲れていたのか寝てしまった。
もう夕方になり辺りは薄暗い。ちょっと寝すぎた。何か物音がする。
部屋から出ると曜さんがキッチンで何か作っている。
「今日はオムレツだよ。お金かかるから節約だな。あ、お風呂先に入ったよ。良ければどうぞ」
「あ、はい。」
この人は何でも出来るんだなぁ、感心してしまう。
お風呂に入り出て来ると、食卓に食事が用意されていた。やはり優しい、優し過ぎる。
「食べてね」
「私の分までごめんなさい……」
「いいよ」
ふわふわのオムレツに玉ねぎとミンチが入っていた。お母さんのより美味しいかも。
「私、料理した事ないの。こんな美味しいオムレツ作れるって、曜さんは凄いね」
「いや、結構料理好きなんだ。じゃ、料理は僕が担当ね。後、曜でいいよ」
「じゃ、私は掃除と洗濯する〜」
「分かった、ありがとう。一緒に住んでる事は見つからないようにしなくちゃね」
「はい、曜さん。じゃなくて曜。私も呼び捨てでいいよ」
「分かった。後はバイト探さないとね」
「バイトするの?」
「しないと家賃も払えなくなるよ?」
「そうか、なんか大変だね……」
「楽しみながらやればいいんじゃない?」
「バイトもした事なくて……」
「近くのコンビニにアルバイト募集が貼ってあったよ。1度いってみたらいいかもね」
「うん、ありがとう」
二人で住む事に凄く抵抗があったけど、曜があまり気にしてないから気が楽になった。何より頼りになる、それに優しい。生き返る事の不安も彼のおかげで解消された。
♡ ♡ ♡
次の日の朝、曜はお弁当まで作ってくれていた。曜を見失わない様に、少し離れて学校まで付いて行く。
職員室に入りA組の担任の先生に挨拶した。スポーツ刈りにした若い男の先生で、田渕と名乗った。
チャイムがなると田渕先生に付いて行き、教室へと入った。転校生なんか初めてで緊張した。
「はい、おはようございます!今日は転校生がいます」
そう言うと私の名前を大きく黒板に書いた。
「柑菜月華美さんです。簡単な自己紹介をどうぞ」
足が震え出した、こういうの苦手だよ。
「どうか、仲良くしてください」
これが自己紹介かどうか分からないけど、そんな事しか思い浮かばなかった。
「可愛いっ!」
「ヒューヒュー!」
「俺と仲良くしてぇー!」
何だか上手くいったようだった。外見がいいとやはり得だな。
お昼時間になりお弁当を広げていると、二人の女の子が近ずいて来た。
「一緒に食べよう」
そう言うと机をくっつけて二人が座った。
「うちは篠原姫那よろしくね。姫那ちゃんって呼んでね」
姫那ちゃんは長い髪を束ねポニーテールにしていた。愛らしい笑顔が魅力的だった。
「あたしは高橋祐希、男の子みたいな名前で嫌いなんだけどね……、祐ちゃんって呼んで!」
ボーイッシュなショートヘアが良く似合う、目がクリクリした女の子だった。
「華美って可愛い名前だよね〜、苗字だって柑菜月だし、なんか女優さんみたい。なんて呼んで欲しい?」
姫那ちゃんにそう言われたけど、全然考えて無かった。
「うーん、どうしようかな……」
「華ちゃんは?」
祐ちゃんが提案してくれたので「それで」と答えた。結局何でも良かった。
「じゃあ、今日からお友達ね!」
「ウンウン!お友達だァ!ずっと二人だったから嬉しい!」
二人共とても明るく人懐っこい性格で、私もこれからの学校生活が楽しくなった。
♡ ♡ ♡
学校が終わりマンションに戻ると、曜はいなかった。曜の言う通り着替えてバイト探しに出かけた。
マンションの斜め前にあるコンビニの前に立った。本当に求人の貼り紙があった。私、働けるかな……。
不安に思ったが、勇気を出して店に入った。
店長だと名乗ったおじさんは少し怖そうだったが、親切丁寧に店の中を案内しながら、仕事の内容を教えてくれた。
やってみたい気がしたので、明日から働く事に決まった。時間は17時から22時。休みは月曜日。毎日学校に行ってそんなに働けるかと、体力的に不安になる。
マンションに戻ると曜が食事の用意をしてくれていた。掃除と洗濯をするって言ったのに、何もしていない事を思い出した。
「ただいま、洗濯するね」
急いで洗濯カゴから洗濯物を取り出す。男もののブリーフに焦ったが、えいっと洗濯機にほり込んだ。
続いてトイレ掃除とお風呂掃除をした。ずっとぐうたらしていた私は、これだけで疲れてしまった。
「バイト決まった?」
食事の時に曜が聞いた。
「うん、明日からコンビニに行くの」
「何時から?」
「夕方5時から10時までなの」
「いきなり大丈夫?」
「うん、何とかやってみる」
「学校終わってからパンとか食べて行きな。お腹空いちゃうからね」
曜はよく気が尽くし優しいし内面完璧じゃない。
「ねぇ、何故外見変えなかったの?」
ずっと気になっていた事を聞いてしまった。
「変えたよ。身長を高くして、小鼻を小さくした」
「え、それだけ?」
私はほとんど変えたのに、曜は気にいってるのかなぁ。
早く運命の人に出会いたい!どんな人だろう、なるべくイケメンでありますように。




