悲しい告白
「夏祭り行きませんか?」
石田君からLINEが来た。もうそんな季節か。ここに降り立って曜と過ごしたマンションよりも、一人暮らしのアパートの方が長くなっていた。
洗濯や掃除は得意だけど、やっぱり料理はできなかった。毎日コンビニの残り物弁当。いい加減飽きて来た。
祭りに行けば屋台がある。美味しい物が食べれるかも知れない。そんな単純な理由で石田君のお誘いをOKした。
「来てくれてありがとうございます」
「いいえ、お誘いありがとう」
「じゃ、行きますか」
夕方なのにむんとする風と人混み。皆浴衣を着ていた。私は普段着。浴衣なんて持ってないし着れなかった。
「あ、イカ焼き!」
醤油の焦げた匂いが食欲をそそる。
「買いますか」
二人で買って端に立って食べた。温かいイカ焼きで体は暑くなるが、なんと言っても美味しい。次は何食べようかな。
「あっ……」
そんな事を考えていると、前から曜が歩いて来た。久しぶりに見る曜の姿。懐かしいくらいの感覚。やはりかっこいい。
曜も私と石田君に気づいたようだ。こちらに歩いて来る。どうしよう。
「やぁ、久しぶりだね」
曜は屈託のない笑みを浮かべ、そう言った。
「……お久しぶりです」
緊張がはしる。石田君と二人で来ている事を残念に思う。
「元気そうで良かった」
曜の優しさを思い出していた。いつもどんな時でも優しい。その優しさに浸っていた毎日が懐かしかった。やっぱり曜が好き。この想いは届かないけど消えはしない。
「曜も元気そうだね。どこの大学受けるの?」
「京都の方だよ」
遠い。このまま曜は遠くに行ってしまうんだ。想いは届かないまま。
「そう、頑張ってね」
「あぁ、ありがとう。じゃまたね。石田君もまたね」
そう言って人混みに消えて行った。さよなら曜……。
「柑菜月さん、大丈夫ですか?」
「え、うん、……大丈夫」
本当は曜を追いかけて腕を掴みたかった。もう離さないと言いたかった。離れたくないと言いたかった。好きですと言いたかった。
「ごめんなさい、何か疲れちゃった」
「はい、帰りましょうか」
石田君は私の気持ちを察してそう言ってくれた。
「僕は柑菜月さんの事が好きですが、今こうしていることに幸せはありません。好きな人が幸せであってこそ僕も幸せになれるんです」
帰り道石田君は急にそんな事を言い始めた。
「いつまでも耐えている必要は、ありません。僕はあなたに幸せを与えると約束します」
その時は石田君の言っている意味が分からなかった。
♡ ♡ ♡
センター試験も終わり皆大学が決まっていく。曜はやはり京都の大学に決まったらしい。石田君は望んでいた獣医学部に決まった。前田君は東京の大学に決まり、付き合い始めた祐ちゃんと東京に行く。姫那ちゃんは彼と同じ専門学校に行く。
みんな将来に向かって動き出した。私はこの町に残る事を決め、近くの工務店で一般事務として働く事が決まっていた。
それぞれの道に巣立つ皆。未来に夢と希望が詰まっている。私を除けば。
「華美ーー!!」
その日は春を思わせる暖かな風が吹いていた。道路を隔てた向こう側で、曜が私を見つけ叫んでいる。
「やっと見つけたー!ずっと探してたんだー!」
少し冷静さを欠いた曜らしくない叫び声。一体何があったんだろう。
二人で横断歩道のある所まで、走って移動した。信号はまだ赤だった。
「石田君に聞いたー!全部聞いたー!」
え……、石田君が伝えてくれたんだ。今まで押し殺していた感情が一気に溢れ出した。堪えきれずその場にしゃがみ込み泣いた。
「華美ーー!!」
顔をあげると信号が青に変わった。思わず走り出した。嬉しかった。凄く嬉しかった。
その時信号を無視したトラックが目の前に走って来た。びっくりして立ち止まると、急に体が飛ばされコンクリートに叩きつけられた。
「痛い……」
腰と頭を打ったみたいだ。先に手を付いたのか右手の平から血が滲んでいた。
「大丈夫ですか?」
見知らぬ人に声をかけられた。
「救急車!救急車を誰かー!!」
遠くで誰かが叫んでいる。
「私は大丈夫です」
そう言って立ち上がった。
「あなたを突き飛ばした青年が……」
「え?」
見るとトラックの前に曜が血を流し倒れていた。思わず駆け寄った。まさか、私をかばって……。
「曜!曜!しっかりしてよ!曜!」
「救急車が来たぞ!」
「お嬢ちゃん、あまり動かさない方がいい」
「嫌だ!曜!死なないでー!」
曜は救急隊に抱えられ、救急車のベッドに運び込まれた。私も一緒に乗り込んだ。
「曜!お願い!何か言って!」
曜は私を見て微笑み、手を差し出した。私はその手を両手でしっかりと握った。何か言おうとしているようだが、声にならなかった。
「曜、何?聞こえないよ……」
曜は必死で何かを言おうとしていたが、諦めまた微笑んだ。
「曜、聞いて!私、ずっとずっと曜が好きだった。今もこれからも変わらない!ずっと曜が好き。大好きなの」
曜は目を伏せた。一筋の涙が溢れ頬を濡らした。潤んだ目を開けまた微笑み目を閉じた。
握っていた手は力を失い、顔が横に傾いた。
救急隊員が何かを叫んでいたが、もう私の耳には届かない。曜が死んだ事を、確信したからだ。
曜の胸に顔を埋めた。まだ温かい。鼓動はなかった。その胸でいつまでもいつまでも泣いた。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます<(_ _)>次話で最終話となります。最後までお付き合いいただけると幸いです。




