別居
「今日からバイトなの?」
「そう、受験生だからな。可哀想に正月も勉強だよ」
曜はそう言いながらバイトの準備をしていた。
「華美もだろう?コンビニは休みがないからな」
「うん、でも夕方からだからね」
「じゃ、行ってきます。夜は温かいもの作るよ」
「ありがとう。行ってらっしゃい!」
まるで新婚夫婦のようで、本当に楽しい。洗濯を干し掃除が終わった頃、インターフォンがなった。
セールスかな。ドアを開けると驚いた事に佐々原さんが立っていた。
「やっぱりね〜、おかしいと思ったら当たったわ!ここは曜の家よね、なぜあなたがいるのかしら?」
「そ、それは……」
不意の事で返事ができなかった。
「同棲よね〜」
「違います!訳あって一緒に暮らしてるだけです」
「同じ事じゃない。高校生が二人で暮らしている。学校に知れたらどうなるかしらね〜」
「学校に……?」
「あら、私が通報するのよ。まぁ、退学になるわよね」
退学?!そんな事になったら、曜の夢が消えてしまう……。
「私もそんな事はしたくないわ。そこまで悪くないつもりよ」
「お願いします!学校には言わないで下さい!」
「そうね、いいわ!その代わりすぐに別居しなさい!」
「え……」
「当たり前じゃない。悪い事をそのままにしておけないからね〜。引越ししたら石田君が確認するから連絡しなさいよね。ねぇ、石田君?」
ドアの影で見えなかったが、石田君もいた。なぜ……?!石田君は申し訳なさそうに俯いたままだった。
「別居したら学校には通報しませんか?」
「この事は曜には内緒ね。あ〜、それと……」
佐々原さんはそう言うと隣にいる石田君を見た。
「お昼ご飯は石田君と二人で食べてねぇ」
「それは……」
石田君が躊躇した。
「何よ?良い考えじゃない!今思いついたんだけどね。じゃ、そういう事で!しっかり約束を守ってくれたら、私も約束を守るわ」
そう言うと石田君と一緒に帰って行った。途中石田君は振り返ったが、何も言わずまた俯いて歩き出した。
♡ ♡ ♡
この楽しかった曜との生活が終わってしまう。悩んでる暇はなかった。冬休み中に引越しをしなければ、曜が退学になってしまう。
不動産屋に行き手頃なアパートを見つけた。今のマンションからそう遠くなく、コンビニのバイトも続けられそうだ。
そのままバイトに行ったが、曜に何と説明しようかと、その事で頭がいっぱいだった。
「ただいま〜」
「おかえり。今日も寒かったなぁ。風呂先に入って暖まっておいでよ。今日は鍋焼きうどんだぞ」
曜はいつもと変わりなく優しく明るかった。そうよね、私が暗かったら怪しまれちゃう。それに最後の最後まで曜と楽しく過ごしたい。
お風呂に入り食卓についた。
「すごーい!エビまで入ってる!」
「まだ正月だから贅沢した。いただきます」
「いただきま〜す」
曜の顔を見た。二人での夕飯はこれが最後かな。しっかり見ておこう。そうだ、学校でもお昼ご飯一緒に食べれないんだった。
「何見てんの」
曜は優しく笑った。笑顔ももう見れないかも知れない。
「ううん、美味しそうに食べるなと思って」
そう言って私が笑うと曜もまた笑った。幸せな時間、短かったな……。
洗い物が終わってから曜に話をした。
「あのね、曜」
「ん?」
「私、曜と別に暮らそうと思うの」
「どうした?何かあったのか?」
曜は驚いた様子もなく、心配そうな顔をした。
「何かって……、ほら、曜も以前言ってたでしょ?好きな人が出来たら同居はまずいって!それ、そう、それよ!」
「そうか……、じゃあ、新しい所探さないと」
「わ、私はもう見つけて来ちゃった!」
「え、もう?いつ引越すつもり?」
「明日かな……」
「なんでそんな急に?」
「そ、そう、急にね、何か好きになってしまって」
私は一生懸命つくろって、笑顔を絶やさなかった。曜以外の人を好きになんてなれないよ。他に好きな人がいるなんて言いたくないよ。本当は泣きたかった。
「分かった。僕もここの家賃は高いから探すよ。先に引越していいよ。後華美が必要なものは全部持って行っていいからね」
「うん、ありがとう。明日はバイト?」
「明日は朝からだ」
「何時に出るの?」
「9時位」
「分かった。それから荷造りするね。部屋の荷物片付けるから……、これで」
「うん」
私が部屋のドアを閉めようとすると、声をかけられた。
「華美、無理するなよ。困った事があったらいつでも言って来いよ」
「……うん」
涙が溢れて慌ててドアを閉めた。ベッドに顔を押し当て、声をひそめていつまでもいつまでも泣いた。
♡ ♡ ♡
「おはよう、そろそろ行く時間だね」
「今日は起きるの遅かったね」
「う、うん。昨日遅くなったから」
「華美……目が腫れてる」
「え、うん。なんでかな……、疲れたのかな」
「そうか……、じゃ、行く時間だ」
曜はそう行って玄関に向かった。私も後を付いて行った。最後のお見送り。
「曜、今まで本当にありがとう。楽しかったよ、凄く」
「こちらこそありがとう、僕も楽しかった。じゃ、行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい!」
曜は最後まで笑顔だった。これで良かった。これで良かった……、自分に言い聞かせた。




