幸せな時間
ずっと顔を近づけ曜の寝顔を見ていると、曜は何か呟いて目を開けた。顔が近くにある事に驚く様子もなく、優しく微笑んだ。
時間が止まったかのようにじっと見つめ合い、曜は私の髪を優しく撫ぜた。
思わず「好き」と言ってしまいそうになり、必死で言葉を飲み込んだ。
「顔色がいい。熱測ってて、お粥温めてくるよ」
薬が効いたのか、熱は37℃まで下がっていた。
ベッドに座り曜の運んで来てくれたお粥を食べた。温かいお粥は胃に優しく体がポカポカしてくる。
「ちゃんと全部食べたら、この薬を飲んで」
「もう大丈夫だよ?」
「ダメだよ、今日一日ゆっくりしないとね」
そう言って曜は部屋から出て行った。
バイト先に電話をし今日一日おやすみをもらった。初めての欠勤だった。安心して眠りについた。
「何か食べたいものある?」
曜の声で目覚めた。
「ううん、まだいいよ」
曜はそのまま部屋に入り座った。
「バイトは?」
「今日は休みをもらった」
「え、私のために?」
「そうかな、ずっとここに来て二人共忙しくしていたから、ちょっと休憩しなさいって事なんだよ」
「うん、曜ありがとう」
「気分は?」
「凄くいいよ。飛び跳ねたいくらい」
曜が側にいる。それだけで嬉しかった。
「ねぇ、曜。じゃ今日はゆっくりお話」
「いいよ」
「私最初は戸惑ったけど、曜と過ごす毎日を素敵な思い出にしたいの」
「うん」
「一日一日を大切にして曜と過ごす。いつか思い出して、あの時は楽しかったなぁって言えるように」
「じゃ、今も大切にしないとな」
「うん、曜は弁護士になるの?」
「夢だよ」
「曜ならきっと叶うよ」
「華美の夢は?」
「私はなんも取り柄がないし……」
「運命の人と出会うんじゃないの?そして幸せになる」
「うん、でも簡単じゃないんだね。私すぐに出会えると思ってたの」
「石田君は違ったの?」
「優しくて素敵な人だと思うよ。でも好きな人じゃないんだ」
「そっか」
「曜、好きな人いる?」
「……内緒だ」
曜はそう言って笑った。
「華美はいるの?」
「え……、内緒」
言ってしまおうか迷った。でも曜に好きな人がいるなら怖くて言えなかった。この生活をまだ楽しみたかったのかも知れない。
「曜、悲しい事あるの?」
「え?」
「時々悲しそうな顔するから」
「あぁ」
曜は両腕を頭の後ろにあて足を伸ばした。
「僕の母親は再婚して、年の離れた妹がいるんだ。甘えん坊で泣き虫で内向的で、いつも僕の側にくっついてた。」
「死んで離れちゃったね」
「そう、それが不憫で僕も凄く会いたくて。何故か華美を見てると思い出す」
「私に似てる?」
「似てるねぇ〜、危なっかしい所が」
「ひど〜い」
二人で笑いあった。
「でも、もう大丈夫。こっそり妹を見に行ったんだ。友達と笑いながら遊んでた。大丈夫、あいつはこの先もやれる」
「そう、良かった」
「心配なのは華美だよ」
「私?」
「うん、人に流されるし考えが定まってないし情緒不安だし……」
曜はそこまで言って、何かを考えるように上を見上げた。
「そんなに並べといてまだあるの?」
「あり過ぎるくらいあるよ、心配だ」
「心配してくれてありがとう」
「だから、華美を大切に守る素敵な人に早く出会えるといいね」
「そしたら安心なの?」
「そうだね」
「なら、要らない。運命の人なんて要らない」
「え?」
「ずっと曜に心配かけてやるんだ」
「なるほどね」
私は寂しくてそんな駄々をこねたけど、曜は笑っていた。
「そんなに心配なら……」
「心配なら?」
曜が運命の人になって私を守って、と言いたかった。それが望みだから。
「……ううん、なんでもない」
それからも、ずっとずっと話した。お腹が空くのも忘れるくらい、ずっとずっと楽しく話した。
クリスマスは最悪だったけど今日が私のクリスマス。最高な幸せな時間だった。
♡ ♡ ♡
それからも一日一日を大切にし、曜と楽しく過ごした。私が風邪をひいてから曜との距離はぐっと縮まった。
二人で笑い二人で話し二人で食事をし、おやすみを言う毎日。こんな毎日が今の私の宝物だった。
今日は大晦日。
「5.4.3.2.1 はっぴーにゅーいやー!」
「華美、おめでとう」
二人でカウントダウンして、新年を祝った。最高の年明け。
「ねぇ曜、初詣行こうよ〜」
「今から?」
「今から!」
「華美は明日もバイトだろ?」
「夕方からだからそれまで寝れば大丈夫!ねぇ〜行こうよ」
「しょうがないな、じゃあ暖かい格好して」
「ヤッター!」
二人だけで初めてのお出かけ。私は嬉しくて仕方がなかった。
歩いて行ける距離に神社がある。この近くの人達が来てるのだろうか。屋台もあり参拝客も多かった。
曜にはぐれないようにして、やっと最前列まで来た。お参りを済ませ人混みから離れた。
「何お願いしたの?」
「華美は?」
「そんなの言えません!」
「じゃ僕もナイショ」
二人でおみくじをひいた。
「小吉だって」
「吉だな、きっとこれから良い事があるんだよ」
おみくじを木に結んでいる時に声をかけられた。
「え、どういう事!?こんな夜中に二人だけで来てるの?」
見ると佐々原さんだった。
「佐々原さん、おめでとうございます」
私がそう言っても無視して曜を睨みつけていた。
「二人で連絡取り合ってるの?」
「あぁ、まあね」
曜は曖昧な返事をして歩き出した。
「待ってよ!どういう事か教えなさいよ!」
佐々原さんは曜の腕を掴んだ。曜が何か言おうとした時
「年明けのこの目出度い日に大声出してると思ったら、やっぱりあんたね!」
祐ちゃんだった。横に前田君もいた。
「いい加減にしなさいよね!ぼっちで初詣だからってカップルに八つ当たりなんて、ほんとみっともない!」
「なんですって!」
「曜が誰と初詣来ようが勝手だろうが。お前が口出しする事じゃないだろ」
前田君がそう言うと、佐々原さんは曜の腕を離した。
「覚えてらっしゃい!」
今度は私を睨んで人混みの中に消えて行った。
きっと佐々原さんも曜の事が好きなんだ。でもこんな形でしか表明出来ない佐々原さんが、少し不憫に思えた。




