表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/65

65:「川沿いの街」



 大きな川の近くには、賑わいのある町が築かれているのが普通だ。

 人の生活と水資源というのは切っても切り離せない。

 毎日を健康に生きていくには水は必要不可欠であり、豊富なたんぱく質を多く含む魚介類の取れる川沿いに賑やかな街が築かれるのは、ある意味では当然だ。

 元々、最初に生まれた文明は、巨大な河川の側で始まったとも言われている。

 というわけで、俺達は川沿いにある町に来ていた。

 古き良き少し年期の入った石造りの建造物が立ち並ぶ街で、町と言うよりは都市と言った方が適切な賑わいを見せる活気ある町だ。

 

「タコ、楽しみですねえ」


 四人掛けのテーブルを挟んで椅子に腰かけながら、ティアはうきうきと頬を緩ませていた。

 その隣では、着替えてシャツ一枚の薄着になったイリスが頬杖を突きながら面白くなさそうにその様子を眺めている。


「……何が好きで、あんな化物を食べなきゃいけないのよ」

「タコは絶対美味しいですよお。タコ、タコ、タコ、タコ~」

「変な歌うたわないで。頭が痛くなるわ」

「タコ、タコ、タコ、タコ~」

「リズムを変えても一緒よ」

「……それは二度と取り戻せない日々、過ぎ去った日常」

「タコじゃなくて過去でしょそれ。というかいきなり真顔で変なこと言わないでよ。あなたそういうキャラじゃないでしょ」

「初めてのタコ料理ですよ~。しかもとれたて新鮮……これが冷静でいられますか!」


 どうやらどちらも巨大なタコ型の生物「ジャイアント・オクトパス」を食べるのは初めてらしいが、その反応は対照的だ。

 流石のイリスも自分を襲ったタコを食べるのは、気が進まないらしい。

 あれから、船夫にトラブルに巻き込んでしまったお詫びとお礼に、知り合いの飲食店を紹介された。俺達は今、店主がタコを捌いて料理にして出してくれるのを、小料理屋の外に配置されたテーブルの一角で待っている。

 そうしてしばらく待った後――。


「あいよ、お嬢ちゃん達。これがこの店特製のタコ料理だ!」

「ほあ~」


 俺達の目の前に、様々なタコ料理が並ぶ。

 刺身、煮つけ、素揚げ、酢漬け、タコご飯……などなど。とりあえず、美味しそうだ。


「見てくださいよ、色とりどりのタコ料理……テーブルがタコさん一色です!」

「色が多いのか一色なのか、どっちなのよ」

「どっちでもいいじゃないですか、論より証拠です。証拠よりタコ料理です!」

「お嬢ちゃんみたいな可愛い子がそう言ってくれると、おじさんも作った甲斐があるねえ」


 短髪に白髪を散らす壮年の男は、腕を組みながら嬉しそうにうんうん首を縦に振る。


「タコ、タコ、タコ、タコ~」

「……このタコ娘が」

「イリス様、何か言いました?」

「別にい」

「? そうですか」

「ささ、早く食べてみてくれ。川沿いでタコが取れるなんて珍しから、普段のメニューの百倍は気合を入れて料理したぜ」

「女の子が可愛かったからだろ店主~。それも二人も」

「違いねえ」

「うるせえお前ら、とっとと仕事しろ」

「「へーい」」


 店の奥から出てきた従業員である若い男二人が、店主を囃し立てる。

 軽口を言い合っている様子を見るに、料理屋は和気あいあいと運営されているらしい。

 

「ま、じゃあそれではいただこうか」


 俺の言葉を合図に、楽しい食事が始まった。

 

   *


「ほあ~タコ美味しいですう~タコ、タコ、タコ、タコ~」

「……」


 結論から言えば、タコは滅茶苦茶美味しかった。

 食べる前は渋っていたイリスも、無言になって黙々と食べ進めている。


「ねえイリス様。言ったでしょう。タコは絶対美味しいって」


 何故かニヤニヤしながら勝ち誇るティアに、イリスは複雑そうな視線だけを向けた。

 そうして、うまいうまいといいながら食べ進め――。


「おいてめえ、この店はどうなってるんだ。俺が頼んだのとメニューが違うじゃねえか!」


 唐突に、店の中から大声が湧いた。

 ニコニコしながらタコを食していたティアは、ビクリとして店の出入口を振り返る。

 厳つい大男が、苛立った様子で先ほどの若い店員に詰め寄っていた。

 

「す、すいません」

「……すみませんじゃねえんだよ。どういう脳みそしてたらこんな簡単なこそ間違えるんだ、ああ?」


 おろおろと視線をキョロキョロさせながら、店主に助けを求める。

 俺達の側に付いていた店主は小さく悪いと謝罪をした後、助太刀に向かった。


「お客様、一体どうされましたか?」

「どうもこうもねえ。この薄ら馬鹿が俺が頼んだメニューを間違えやがったんだ。ふざけるんじゃねえぞ!」

「申し訳ございません、お客様。すぐに取り換えさせて、」

「おいてめえ、俺誰だかわかってるのか。俺はあのキメラの傭兵だぞ……わかってんのか? その程度の誠意で――」

「おい」


 俺は席を立ち、男の元まで歩みを進める。


「あ、なんだてめえ」


 筋骨隆々の体格の良い大男は、怪訝そうに眉を顰め、こちらを不快そうに睨む。


「もしよければ、そのキメラという傭兵団のある場所へ、案内してくれないか」


 こんなところでその名がきけるとは、運が良いのか悪いのか。





面白い、続きが気になったと思っていただければ、下の評価欄から評価していただけると嬉しいです!


下に新作のリンクもあります!

自信先なので、こちらも是非応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] つづき...が読みたいんじゃ!!! お願いしますm(*_ _)m
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ