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31:「謎の女」



「さっき言っていた例の女とは一体誰のことだ、詳しく聞かせてもらおうか」



 男達を睨みつけながら、問い詰める。

 さっきこいつらが言っていた、例の女。

 吸血鬼に懸賞金を出しているらしい、謎の人物。


 俺の眼光が恐ろしかったのか、

 まるで雪でも降っているのかというくらいに、男達はぶるぶると体を震わせる。

 それから、調子はずれの上ずった声で豚が必死に喚く。


「し……知らねえ……知らねえ! 本当だっ……!」


 地べたに尻もちを付いている豚は、俺の方を見ながら後ずさりをした。

 瞳は得体の知れない何かに対する恐怖と絶望に犯されていて、顎はがくがくと歯音を立てている。


 知らない?

 そんな言い訳が通るとでも思っているのか。


「……おい、そんな言い分が通るとでも思っているのか」

「ひっ……!」


 豚の胸倉を掴み上げる。

 肉のだぶつき、首との境界線が曖昧になっている顎が、恐怖感からか大きく開かれる。

 捕食者に睨まれた草食動物のような瞳に視線を真っ直ぐ合わせ、もう一度問いかけた。



「例の女とは一体誰だ」

「ほ……本当に知らねえんだ! 一度会っただけなんだ……!」

「一度会った、だけ?」

「話す! 話す! 俺の知っていることなら全部話す……! だから、手を離してくれ……ぐるじいっ……」



 気道がふさがって苦しいのか、男の顔色が青白くなっていく。

 俺は手を離す。

 地べたにどさりと倒れこむ、豚。

 そのままゴホゴホと咳をして、涙で赤く染まった目線を上に動かし、思い出しながら話すように語りを始めた。


「……あれは、一月ほど前の話だ……月が完全に雲に隠れちまった、不気味な夜……俺達はこの路地裏で酒を呑んでいたんだ……ガキに盗ませた、良いワインだ……俺達はそれを、三人で呑んでいた」


 ワインの味を振り返るように、豚は唇を舌で舐める。

 俺が視線を強めると、あわてて話を続けた。



「よ……酔いもある程度回ってきた時のことだ……! もう真夜中で、いつもは物音一つ立たねえ時間。けれどその日は、どこか遠くからコツコツと足音が聞こえて来たんだ!」


 取り巻きの男達を振り返る。

 俺の視線に気づいたのか、男達は焦り気味に、大げさにうんうんと頭を上下させた。


 ……嘘を吐いているような様子ではないな。



「続けろ」

「……男の足音じゃねえ、高いヒールを穿いている、女の足音だ! しかも、こっちに近付いてくる! 酔いが回っていた俺達はテンションが上がっちまった。真夜中に、女が一人で歩いているんだ、やってくれと言っているようなもんだ!」


 興奮した様子で、男は声を荒げる。

 睨みを利かせると、ひっ……と小さく悲鳴を上げ、守るように頭を抱えた。



「……いいから、早く言え」

「わ、わかった、わかった。話す、話す……」


 男は気持ちを落ち着けるよう、ふーっと息を吐く。

 それから俺を見上げ、詳細を語り始めた。



「女を手籠めにしてやろうと、三人で壁に張り付いて、待ち伏せしたんだ。……女が現れたら、がばっと壁から飛び出す算段だったんだ」



 けれど、と。

 男は表情を曇らせる。



「……目の前まで足音が近づいてきて、さあやるぞと、意気揚々と俺達は壁から飛び出した……だが、女を見た瞬間、俺達はまるで魔法にかけられたみたいに、全身が固まっちまったんだ」

「どういうことだ」

「……美しすぎたんだ……この世の物とは思えないほどに、美しい女がそこにいた……銀髪の女神……神様の前に連れてこられたような気分だったよ……あまりの美しさに圧倒されて、その場から一歩も動けなくなったんだ……しかも、女はまるで俺達が待ち伏せしていることを知っていたように、全て見通しているような目でにっこりとこっちに笑いかけるんだ」

「それで、どうしたんだ」

「それから女はピンク色の唇で、微笑みを浮かべながらこう言った……貴方たち、吸血鬼の知り合いはいる?って……勿論そんな知り合いはいねえ、ぶんぶん頭をふって否定したさ、そしたら女はもし見つけたら、殺してここまで持って来てちょうだいと、一枚の紙を渡してきた……いきなり物騒なことを言う女だと思ったが、俺はその紙を素直に受け取っちまったんだ……あの目を見ていたら、断るなんて気が起きなかったんだ」

「……紙?」



 男はズボンのポケットから、くしゃくしゃになった藁半紙を取り出す。

 それを見て、俺は心臓がドクリと脈打った。

 そこに書かれていたのは、まぎれもなく。

 黒い鷹の研究所があった、隠れの林の地図だった。


 隠れの林。

 吸血鬼を探している銀髪の女。


 昨日の夜の光景がフラッシュバックする。

 サクラの親父さんを救った後。

 こちらをじっと見つめていた、銀髪の少女。

 ……まさか、あの子か?



「……吸血鬼を殺して持ってこれば、一生遊んで暮らせるくらいの大金を保障するからと……女はそう言って、すーっとどこかに消えちまった……その発言は、絶対嘘じゃねえ……あの目は、嘘を吐いているような目じゃなかった……そうして一月経った今日、お前達が現れたんだ! 俺が知っているのはそれで全部だ! 本当だ、嘘じゃねえ!」

「おい、その女、一体何歳くらいの女だった」

「……正確にはわからないが……多分、二十歳は越えていると思う……本当に美しい女だった」



 豚は恍惚とした表情を浮かべる。

 二十を超えている……。

 昨日の少女は、どう見ても、十三歳前後だった。

 ……別人、か。



「……それで、知っていることは全部か」

「ああ、そうだ! これで全部だ! ……あ、いや……」


 男は何かを思い出したように、口元に手を当てる。






「――そういや、私と会ったことは誰にも話すなって……最後に」






 その時だった。

 まるで風船のように、取り巻きの二人も含め、男達の身体が内側から膨らんでいく。


「お……おい……なんだ、これ!?」

「……!」



 これはまさか、約束のギアス


 相手に気付かれないように種を植えつけ、

 対象者が命令を破った際に発動する、遅効性の攻撃魔法。

 Aクラスの魔法使いにしか扱えない、高難易度の魔法。


 どうやら女はこの三人に会った際、その種を植え付けたらしい。

 ……全く、悪趣味な奴だ。




「ああああああああああああああああああっ!!!!!!」

「ぐえええええええええええええええええっ!!!!!!」

「ぬうううううううううううううううううっ!!!!!!」




 三人の身体が、急速に膨らんでいく。

 そのまますぐに、まるで風船が破裂するかのように、

 三人は血飛沫をまき散らしながら、粉々の肉片と化した。

 路地裏の壁に、血飛沫が舞う。

 俺たちの方へ肉片が飛んで来ないよう、魔法で壁を作る。

 ベトリと、人間だったものは壁に張り付き、跡をつけながらぽとりと下へ落ちた。



「……きゃっ……」



 見るも無残な姿に、ティアは小さく悲鳴を上げる。

 俺はそんな少女を落ち着かせるように、悲惨な光景を見せないように、

 ティアの前に立つ。



「……あまり、見ない方がいい」

「は……はい……」

「……もう、行こうか」



 吸血鬼を探している、謎の女。

 隠れの林の地図。

 結局詳しいことはわからなかったが。

 間違いなく、女はあの研究所の関係者だ。


 またあいましょう。


 そう言った銀髪の少女といい……また、一波乱ありそうだな。






更新遅れてしまい申し訳ありません!



次回の更新は12月27日になります……!


追記(12月28日)

更新遅れ、申し訳ありません。

年末で色々と立て込んでいまして、なかなか思うように執筆の時間が取れなくなっております。

31日までには32話を投稿出来るよう尽力致しますので、それまでしばしお待ちください……。


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