表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/65

2:「裏切り」




「――単刀直入に言わせていただきます。ジークフリード様、あなたには、レイア様暗殺を企てた疑いがかかっています」


 ギルバルドは冷たい表情を崩さぬまま、静かに笑った。

 冷ややかな空気が流れる地下204号室。

 向かい合う、俺たち2人。


「俺が国王暗殺の疑いとは、どういうことか説明して貰おうか、ギルバルド」



 地下室は石造りで、岩肌が露出しており、空気が湿っぽい。

 スペースは比較的広く、最大30人ほど収容出来る造りになっている。


 国王暗殺を企てた容疑。

 全く身に覚えのない罪状だった。


 なるほど、どうして地下に呼び出されたのかと不思議だったが、そういうことか。



「……実はですね、昨日私が捕らえた賊……どうやら、操り人形であったようなのです」

「操り人形?」

「そうです。操り人形……つまり、何者かによって、操られていた可能性が高いのです……それも、特別高ランクの魔法使いに」


「……なるほど」


 昨日見た呪印は、特Aクラスの魔法陣だった。


 魔法によって人を操る場合、使役する人間にも、魔法を使用させることが出来る。

 例えば。

 魔法使いが全くの素人を操る場合、本来は魔法を使えない相手に、魔法を使用させることが出来る。

 操作を通して、魔力の源であるマナが、相手に流れ込むためだ。


 だが、これにはある程度の制約がある。


 仮に、操作を行う者がAクラスであった場合、操作対象に発動させることが出来る魔法は、1ランク下のBクラスが精々だ。

 いくらマナが流れ込むと言っても、所詮は傀儡。

 自らと同じクオリティーで、魔法を扱うことは出来ない。


 つまり、だ。

 昨日の刺客は、特Aクラスの魔法陣を生成して見せた。

 仮に奴が、何者かに操作されていたのだとするならば、

 本丸は、Sランク以上の魔法使いだということになる。

 Sランク。

 魔法使いとしての最高位を指すその称号。

 持つ者は、エメリアに十数人しかいない。


 ……なるほど、俺に容疑がかかるわけだ。


 だが。


「だとすれば、お前にも疑いがあるはずだ、ギルバルド……いや、そもそも俺を含む賢者全員が、容疑者なのではないか」

「その通りです、ジークフリード様。よくお判りで。流石、ゼロの大賢者」

「俺だけを呼び出した理由を教えろ、ギルバルド」


「まだわかりませんか、ジークフリード」


 ギルバルドはこちらを振り返る。

 顔からは、表情が消えていた。

 氷のような冷たさで、蒼い双眸が、俺を見据える。


「あなたは、嵌められたのですよ」

「……!」

「――ティルヴィング」



 瞬間、薄暗い地下室に強烈な光が迸った。

 ギルバルドの両手に現れる、光り輝く長剣。


 マナによって具現化された、魔法剣だ。


 ギルバルドは体制を低くし、有無を言わせず俺に斬りかかる。



「……ぐっ……」

「おしい!」



 間一髪で避けた。

 斬れ味の良い刃先が、頬にかする。

 そのまま俺は、バックステップで距離を取った。


「何の真似だギルバルド!」

「さっきも言ったでしょう……嵌められたのですよ、あなたは」


 一瞬で距離を詰めるギルバルド。

 下から突き上げるような斬撃が、俺を襲う。

 嵌められただと……まさか、昨日賊がリシアを襲った事件は、ギルバルドが裏で手を引いていたのか。

 それも、はなから俺に罪を擦り付ける算段で。


「レーヴァテインっ……!」


 すんでの所で、魔法剣を召喚した。

 ギルバルドの剣を、何とか受け止める。

 剣と剣がぶつかり合い、発生する衝撃波。

 ズオンッと、断罪の間が激震した。


「真犯人はお前だったのか、ギルバルドッ!」


 ほくそ笑む、ギルバルド。

 無言の肯定だった。


「ジークフリード。あなたは常に、国を正しい方向へ導こうとする。そして導く力もある」

「……それの、何がいけない!」

「だから、邪魔なのです。あなたがいる以上、私はいつまでたっても、主役にはなれない」

「お前の……目的はなんだ!」

「あなたに言う義理はありません」


 斜め下から、ギルバルドが剣を振り上げる。

 ギィンと衝撃波が弾け、俺は背後の壁へ吹き飛ばされた。


「おやおや。今日は調子が悪いようですね、ゼロの大賢者様。私ごときの一撃で、あなたが不覚を取るなどと」

「……この部屋……何か細工がしてあるな」


 立ち上がり、ギルバルドを睨みつける。

 この部屋はどこかおかしい。

 さっきから、魔力の源であるマナを集めようにも、上手くいかない。

 ギルバルド相手に苦戦しているのはそのためだ。

 敵は賢者の称号を持つ、Sクラスの魔法使い。

 エメリアでは10本の指に入る凄腕だ。

 だが、本来ならば、俺の相手ではない。

 俺とギルバルドは、象と蟻以上の力の差があるはずだ。


 ……やはり、この部屋は何かおかしい。



「ご名答、この部屋は空気中のマナが極端に少なくなっています。よって、体内にマナを宿さぬあなたは、本物のゼロ――陸に上げられた魚も同然」

「……そういうことか」

「ゼロの大賢者。体内にマナを宿さず、潜在的な魔力の量が0のまま、大賢者となったことからその二つながついた。魔法が使えない落ちこぼれだと勘違いされて、一時は奴隷にまで堕ちたと聞きます」

「……よく知っているな」

「マナを持たぬあなたが、どうして大賢者にまでなることが出来たのか――答えは至極簡単。あなたは、体内のマナこそ0――しかし」


 ギルバルドは剣を構えた。

 膝を曲げ、姿勢を低くする。


「あなたしか有していない、特殊な能力を持っている。それは、空気中に漂うマナを、自らのマナと変換し使用出来るということ――故に、潜在的な魔力は――無限」


 地面蹴る、ギルバルド。

 残像を残しながら、電光石火の速さで距離を詰める。

 互いの剣がぶつかり合う。

 腰を低くし、なんとか斬撃を受け止める。


――重い!


 剣を押し付け合う。

 ギルバルドが上で、俺が下。

 額に汗が伝った。


「はっきり言って、反則です。もし仮にこれがゲームだとするならば、とんだバランスブレイカーだ。あなたの力が10だとすれば、私を含め、他のSクラスの魔法使いでも、精々だ1か2でしょう……正攻法では、まず勝てない」


「……ぐっ……」


「しかし、特殊な空間であれば別。この部屋は、マナが極端に薄くなっています。数日前から、マナを餌に成長するゴーストを放しておいたのです。この部屋は地下、おまけに密閉されている。マナは、すぐに枯渇します」


 ギルバルドは剣の隙間から、ニヤリと笑った。


「――とは言っても、空気中のマナを完全に0にすることは不可能。全盛期のあなたであれば、僅かに残るマナをかき集めて、私を葬り去ることも容易かったでしょう……しかし」


 密着していた剣が、離される。

 光り輝く長剣を振りあげるギルバルド。


 僅かなマナを刀身に集め、剣を両手で支え、次の一撃に備えた。


 今は耐えろ。

 勝機は、必ずあるはずだ。


「あなたはもう、若くない。おまけに、政治にかまけて、日々の鍛錬も怠っている」


 稲妻のような一閃が、振り下ろされる。

 耳をつん裂く、轟音。

 俺の魔法剣【レーヴァテイン】は、粉々に砕かれた。


 腹に刻まれる、魔法陣。

 マナが、消えていく。

 これは、魔封じの呪印。


 対象者のマナを封じ、魔法を使用出来なくする、呪縛魔法。



「光栄に思ってください。その呪印の方程式は、あなたのためにわざわざ組み上げたもの。マナの吸収そのものを封じる呪印。今のあなたには解けないでしょう……若返りでもすれば、別ですがね」


 

 自らにかけられた呪印を解く。

 そのためには、通常の10倍以上の魔力が必要とされる。

 自分自身を手術する方が、他人を手術するよりも遥かに難易度が高いのと同じだ。


 マナの吸収を阻害され、魔法が使えなくなった今の俺であれば、なおさらだろう。




 畜生……。




「あなたの時代は終わったんですよ――大賢者ジークフリード・ベルシュタイン」


 勝ち誇るギルバルド。

 刹那、俺の意識は、闇に飲み込まれていく。



「――そうそう、レイア様のことなら安心してください、あの娘は私が責任を持って、預かるので」



 レイア……。

 混濁する意識。




「さぁ皆さん、真犯人を捕らえました。もう部屋に入って貰っても大丈夫ですよ」


 ギルバルドの呼びかけに応じて、部屋に入ってくる、何者か。

 全部で2人。

 面で顔を隠しているから、正体まではわからない。


「安心してくださいギルバルド様。この件はあの小娘(レイア)には知らせず、内密に処理致します。ことが全て終わり、取り返しが付かなくなってから、知らせれば問題ありません」


「そうね。レイア様はジークに入れ込んでいるから、途中で知らせればどうなるかわからないわ。はぁー、せいせいした。強いだけが取り柄の真面目君がいなくなってくれて。これであたしも羽を伸ばせるわー」


「しかしギルバルド様。まさかゼロの大賢者を葬るこんなやり方があったとは……いやはや、恐れ入りました。あなたが提案されなければ、私の小さな脳味噌では一生思いつきませんでした」



 なるほど、誰だか知らんが、仲間もいたのか。

 そして首謀者は、やはりギルバルド。



 畜生……。

 腐ってやがる。


 ギルバルドの笑い声が、やけに耳に響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ