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とある髑髏の憧憬

 村の一角にある、集会所。

 茅葺の簡素な造りで、やや蒸し暑い。

 そこに数人が集まっていた。俺を含めて、4人。


「で、ペイル様はなぜここに?」


 先ほどの村人、エイマンから尋ねられた俺は少しの間、その返答に逡巡した後、言葉を返した。

 ちなみにエイマンは村長代理とのことで、本物の村長は帝都グランマールまで行商に行っているとのことだった。


「俺にもよくわからないのです。記憶がなく、気が付いたらここに辿り着いていました」

「何かお辛いことでもあったのでしょうか。おかわいそうに」


 エイマンの嫁、メリッサが優しい言葉をかけてくれた。


 話した内容は本当のことだ。何も覚えていない。覚えているのは前世の記憶のみ。

 それこそ夢物語のようだが、俺がペインに転生した、あるいは幽霊のような存在となって、このペイルという男に憑依し、体を借り受けているのではないか、と仮説を立てた。

 あまりにリアルな情景、匂い等の状況から考えて、きっと夢ではないのだろう。にわかには信じ難いが。

 いつまでも思考停止を続けていてはいけない、と俺の直感がそう言っていた。


 俺という存在については全く話していない。たとえ中身がペイルではないことを伝えても、きっと信じてなんかもらえないだろう。差し詰め、かわいそうな人を見るような眼で見られるか、はたまたドン引きされるかだろう。


 恐らく、野盗頭目のドゥスが言うことを信じるのであれば、それなりの権威を持っているであろう、ペイル・ソーサという人間に成りすましておいて、しばらく様子見をするのが得策と俺は考えた。帝国騎士団という、いかにも高貴?な人間の類であれば、邪険にもされないだろうし、なにより本物は死亡しているとのことだ。万が一生存していたとしても、しばらくは本物に出くわす恐れは少ない。


 しばらくはペイルに成り代わって生きていくことのほうが都合がよい。そこまで考え、更なる情報収集に努める。


「ペイル様は帝国に戻られるのですか?」

「いや、今更戻ったところで、帝国に居場所なんかありませんよ。西方戦線において無能をさらした俺に生きる道などありません。これからについて少し考えたいので、しばらくここに滞在させてもらってもよろしいですか?」

「はぁ、問題はありませんが、この村は何もありませんよ?」


 メリッサが何ともなしに言う。貧しいというほどではないが、豊かとは到底言えない村。そんなことはわかりきっていた。ちなみにここはイーサン村というらしい。


「結構です、また野盗等の類に襲われるとも限りませんから。ここに行きついたのも何かの縁。復興が叶うまではここに滞在させてもらいたいと思います。復興には全力で手を貸すし、用心棒をタダで雇える、くらいに思っておいてください。腕にはいささか自信がありますので」


「騎士様がいらっしゃれば百人力だ。野盗を瞬く間に従えちまうなんて、やっぱり格が違うんだなぁ」


 エイマンはひどく感心していた。隣で黙って聞いていた、ドゥスが口を開く。


「俺たちは元々、クレーヌ王国神聖騎士団『髑髏』の人間だ。野盗に身を落としてなお、殺生に手を染めたことはない。少し前までは傭兵や護衛稼業で生計を立てていた。だが各地を転々とするうち、孤児や脱走奴隷等を引き受けるうち、人員は百まで拡大、次第に食料もなくなっていき、しまいにはこの有様だ。許してほしい……」


 いつの日か『髑髏』の副騎士団長ドゥス(当時の騎士団長は王国に殉じたらしい)は頭目と呼ばれ、身も心も野盗に成り下がっていった、とのことだ。


「ペイル様は矢を細剣で打ち落とすという離れ業をやってのけた。だが、ペイル様が得意とするのは闇魔法と聞く。その闇魔法を使う素振りもなく、ただ打ち落とすというのは俺達ごときに使う価値もない、とのこと。俺はすぐに悟った。これが真の強者なのだ、と。『冥王』とはただただ強い、というわけではない。まさに王と呼ぶに相応しき徳がある、と伝え聞く。さすがは帝国騎士団のナンバー2、だっただけはある」


 いや、闇魔法なんて使えるなんて知らなかっただけなんだが。まあ勝手に勘違いしてくれているのだから放っておこう。このドゥスという男からはまだ情報が引き出せるかもしれない。

 ドゥスはどうも『冥王』を恐れながら、また憧れを持っていたらしい。

 色々協力してくれそうだ。


「これからは心を入れ替え、この村の復興に心血を注ぐ所存。どうか手をお貸しください、ペイル様」

「頼みます、ドゥス」

「恐れ多い。恐悦至極にございます」


 ドゥスは一礼したがすぐに、やや遠慮しながらではあったが、とある話題を切り出した。


「ペイル様、俺ごときが申しあげるのは少しばかり憚られるのですが」

「どうしたのですか?ドゥス」


「いえ、実は……」


 記憶喪失であれば止む無いことではありますが、と前置きをしつつもドゥスは言葉を続ける。


「イーサン村はカーネル領です。カーネル伯のご令嬢に無事を伝えられなくてよろしいのですか?」

「なぜ、その方に対して必要なのですか?」


 イーサン村に滞在する以上、許可を取れとのことなのか?

 いやそれだったら、無事を伝える、という表現はおかしい。

 俺はドゥスに発言を促す。ドゥスは明らかに戸惑っていた。


「それは……」

「それは?」


「カーネル伯ご令嬢、イリス・カーネル様は……何を隠そう、ペイル様の第一夫人でいらっしゃるからですよ」

「え?」


 妻帯者だったんだ、俺。


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